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私をリスタートするのは誰か。再起動の引き金になるトリックスターの話。

「トリックスター」という言葉を知っている人はいるだろうか。もしあなたがそれを知っているとしたら、何かしらゲームに詳しいか、あるいは神話に精通している人なのかもしれない。

Wikipediaでは以下のように解説してある。

トリックスター: trickster)とは、神話物語の中で、や自然界の秩序を破り、物語を展開する者である。往々にしていたずら好きとして描かれる。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、異なる二面性を持つのが特徴である。この語は、ポール・ラディンがインディアン民話の研究から命名した類型である。カール・グスタフ・ユングの『元型論』で取り上げられたことでも知られる。

wikipediaより

笑いのメカニズムを解析するという特異なゼミに在籍した大学4年生のわたしは、当時この「トリックスター」の研究をしていた。

発端は、酒好きが高じて教授が提示した古事記の神話。日本人として古事記日本書紀は触れておいた方が良いだろうという安易な気持ちで手に取り、スサノオノミコトの八岐大蛇退治に酒が使われたという話で「何かしら論を作れそうだ」とテーマにすると決定。そもそも天照大神が岩戸に隠れたのをアメノウズメノミコトが笑いを誘発し、天照が気になってそっと外を覗き込んだ隙に力持ちのアメノタヂカラオが扉となっていた岩を吹き飛ばした(熊本の天岩戸神社にあった岩が長野まで岩を飛ばしそれが戸隠神社になる)というありえへん話の古事記序盤のエピソード、それ自体も興味深かったのでやすやすと決めたのだった。

まあ神話なのでエピソードは何でもあり。

そして、酒退治が日本文化と深く関連づいているのは事実として「スサノオノミコトはトリックスターであった」という点に注目した。スサノオは元々破天荒な存在であり、正義のスターではない。つまり良いやつか悪いやつかが明示されていないしわからない。ただし物語を展開させるのに大事な役割を持つ。大きな出来事を起こす。それがきっかけでさまざまな影響を周囲にもたらす。シェイクスピアの喜劇「夏の夜の夢」にもそのトリックスターは現れる、妖精として。決して展開を促す司会や回し役というわけではない。

良いやつか悪いやつか結局わからない、というのが肝である。

側から見れば面倒臭くて迷惑で、邪魔ばっかりするかもしれないけれどそれが周りにあらゆる影響を与える。必要な存在かと思われるが、そういうわけでもなくて「いないほうがいいかも」と感じさせるくらいに嫌なやつ。

それがトリックスターである。

論文の最後には「現代のトリックスターは誰か」という論をまとめた。ただの皮肉屋や毒舌タレントでなく、社会を動かしていく人物は誰かと。今で言うならすぐに思いつく。東谷さん(ガーシー)だ。秩序を引っ掻き回し狂わせる。彼のような存在がいることで社会の閉ざされていた扉が開き始める。社会が変わる一要因となる。言論の是非はともかくYoutube登録者数の多さや政界に参入できた事実に関して、彼の能力の高さは誰もが認めざるをえないはずである。

トリックスターと笑いの研究、ここで何が関連しているのか。

二つは「物語をリスタートする」点で共通している。途中まで何が起きてたか、どんな自分だったか、過去は未来は…などあらゆることをリセットして0に戻す。一瞬だけ忘れるとも言えるが、それがあった以前と以後では物事の見方が変わる。

わたし自身、どうあがいてもどう転んでもトリックスターにはなれない。自分で言うのもあれだが真面目すぎるからだ。道化師になる勇気や度胸を持ち合わせていないのもあるし、そこまでの賢さを持ちあわせていない。
同時に社会学を専攻していた分、トリックスターは間近で見てみたい、体感したい、と思っていた。恩師の教授はまさにトリックスターのようだった。目の前にサッと現れてふとしたらいなくなる、真面目なのか不真面目なのかわからない。授業に熱中して教壇から転げ落ちる。自分のことをビン・ラディンのようだと笑う。現実世界を生きているのかはたまた仙人の化身か、と言う風貌の男だった。



頼んでもいないのに再起動ボタンを司るやっかいな存在、あなたの過去の既成概念を全部ぶち壊して、ぼろぼろにして、さらに火をつけて燃やし、灰になった自身の上でニコリと笑うような存在。

自分を新しく始めさせるトリックスター。
あなたの身のまわりに、そういう人間はいるだろうか。

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yumihinoue
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