賃貸住宅が見つからない‥。性的マイノリティーのカップルが広島でも困っています
性的少数者(LGBTなど)のカップルから「2人で住む賃貸物件を見つけにくい」と困惑する声が上がっています。広島市が性的少数者のカップルを独自に認定する「パートナーシップ制度」を広島県内で初めて導入して1年。30組以上が制度を利用しましたが、社会の障壁が立ちはだかっています。転居が増える春、当事者たちは「制度だけでなく、社会の受け止めも変わってほしい」と願っています。(小林可奈)
広島市内で家探しに1年余り
「ふたを開けてびっくり。なんにも変わってない」。自営業の30代ハヤトさんとパートの20代ハルカさん(いずれも仮名)は、驚きと憤りを隠さない。ハヤトさんの心は男性だが、戸籍上は2人とも女性。一緒に暮らす住まいを広島市内で探したが難航し、昨年11月に見つかるまで1年余りもかかった。
2人は法律上の結婚はできない。だから、広島市が住民を対象に設けたパートナーシップ制度を利用するため、呉市から移り住もうとしたのに…。「現実の社会はまだ私たちを『家族』として受け止めてくれない」とハヤトさんは嘆く。
昨年春の転居を目指し、その半年ほど前から不動産情報サイトに登録。広島市内の不動産業者約10社とメールや電話でやりとりして、訪問も重ねた。物件探しで2人が欠かさなかったのは、パートナーシップ制度を使う予定を担当者に伝えること。友人ではなく、カップルとして住むことを丁寧に説明した。
不動産業者のうち、新たな制度について「それって何ですか」と問い返す人は半数いたが、もう半数は制度を知っていた。しかし、収入などを聞く以前に返ってきたのは断りばかり。「物件のオーナーから理解が得られない」「そういう関係だと審査できません」。「パートナーシップって夫婦ではないので」とさらりと言う人もいた。言葉の刃が心に刺さった。
呉市で住んでいた賃貸マンションも「(戸籍上の)男女のカップルにしか貸せない」と断られ続けた末に、やっと見つけた部屋だった。家賃は予算の倍に当たる月15万円だった。
昨年末、ようやく転居がかない、広島市の制度に基づいてパートナーシップ宣誓も果たした。しかし、宣誓を示す書面を前に、2人の顔は晴れない。「公的な証明は心の安寧につながる。でも、せっかく制度ができても社会が受け入れてくれないのはつらすぎる」とハヤトさん。地域社会の壁に数え切れないほど泣いたというハルカさんは「無知って人を傷つける武器」と言葉をつなぐ。幾度も負わされた心の傷はまだ癒えない。
全国でも住宅探しに「困難」「居心地の悪さ」
住まい探しで困っている性的少数者のカップルは、ハヤトさんとハルカさんだけではない。
リクルート住まいカンパニー(現・リクルート、東京)は2018年に調査を実施。賃貸住宅を探したことのある全国の性的少数者209人のうち28・7%が困難や居心地の悪さを経験したことがあった。
また、不動産オーナー1024人のうち18・8%が、男性カップルの「入居許可をためらう、他の希望者をなるべく優先する」、27・4%が「入居してほしくない」と答えた。女性カップルの場合はそれぞれ18・6%、25・9%だった。
不動産業者や行政「啓発が必要」
広島県内の不動産業者でつくる県宅地建物取引業協会(広島市中区)は「業界内でパートナーシップ制度や性的少数者への理解が十分浸透しているとは言えないのが実情」と認める。「学ぶ機会をつくるなど啓発に力を入れたい」とする。
制度を導入した自治体も発信し始めている。広島市は企業向けに制度を説明するチラシを作成。2021年12月、市内に本社や支店がある約1300事業所に送った。不動産業者も含まれ、チラシには同性カップルが家を借りる時に困難に直面する例なども盛り込んでいる。
2017年に制度を始めた札幌市は、各企業の取り組みを「啓発」や「配慮」など7項目で評価する「札幌市LGBTフレンドリー指標制度」を導入。実践に応じて1~3の星を付け、市のウェブサイトで公表している。
広島修道大・河口教授に聞く
性的少数者を巡る社会の課題に詳しい広島修道大(安佐南区)の河口和也教授(社会学)は「住まい探しで困るケースは珍しくない。多様なライフスタイルにマーケットが追いついていない」と指摘。「カミングアウトをして住まいを探す人は少なく、親戚やきょうだいだと、偽らないといけないケースもある。隠す場合は心理的な負担もある。行政は制度をつくった後も、民間の事業者をサポートして啓発を進めてほしい」と訴えている。