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「水筒に氷を入れてはいけません」。小学校の謎ルールに切り込んでみた

 「娘が小学校に持っていく水筒に『氷を入れてはいけない』と、学校から言われています。暑くなると冷たい方がいいと思うけど…。謎のルールに、もやっとします」。こんな意見が、広島市安佐南区の母親(51)から届きました。なぜ、氷を入れてはいけないのでしょうか。学校などに聞いてみました。(加納亜弥)

「凍らせない」プリントで指示 疑問に明確な答えなく

 この母親に、小学校が保護者向けに出したプリントを見せてもらった。確かに「お茶は凍らせない(氷も入れない)」とある。理由は書かれていない。これから暑くなるのに、氷NGは厳しいような…。母親は「学校に氷がだめな理由を聞いても明確な答えがなく、しっくりこないままです。娘は氷が大好きなので入れたがります」と笑う。

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氷NGは学校判断 理由に首かしげる校長も

 広島市教委は「氷がだめ? なんでですかね。特にルールは定めていません。各学校に判断を委ねています」とのこと。あれ、学校ごとに違うのか…。それならと、広島市内の公立小141校のうち、児童が多い10校(2021年5月1日現在)に尋ねてみた。

 氷入りを禁じているのは2校、「水筒持参の場合は凍らせないで」と呼びかけているのが1校。ある学校は「急に冷たいものを飲むと胃腸を壊す」と説明し、別の学校は「食欲減退につながり、かむと音が出て子どもたちの気も散る」と理由を話す。

ある学校が保護者に配布しているプリント

 「教室はエアコンが効いているので冷たくする必要はない」と言う教頭もいた。水筒を持参すること自体、熱中症対策に力を入れるようになったここ10年の動きのようで、各学校間でも見解はそろっていないようだ。

 西区の小学校の校長は「授業中は原則飲まないという指導をしているはず。休み時間なら別に音を立てたっていい」と「氷NG」に首をかしげる。2021年に児童数が最多だった宇品小(南区)は「氷の有無を含め、特に中身に決まりはない。保護者の判断に任せています」と言う。

「各家庭の判断で」「荒れた学級なら仕方ない」保護者の意見もさまざま

 実は、小学校によっては水筒の持参に積極的でないケースもあるようだ。水分補給は、学校の水道水で十分安全だから、というのが理由。熱中症防止などの観点から、あくまで水筒を「持ってきてもよい」というスタンスらしい。だからなのか、氷を禁止する小学校の教頭は「冷たいものを持ってくるために、水筒を許可しているわけではない」と断言する。

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 保護者はどう思っているのだろう。氷NGの学校に息子が通う母親(37)は「体を冷やすといっても、体調は本人や親がわかる。氷くらい、それぞれの家庭の判断に任せてほしい」と声を大にする。一方、3人の子が小学生という母親(37)は「こっそりあめやグミを食べていても『氷だよ』とごまかすとか、その逆で氷を食べているのにお菓子だと疑われる場合もある。特に荒れている学級だと、あまり自由にすると難しいんですかね…」と話す。「小学校あるある」の小さなトラブルを、未然に防ぐための学校の配慮ではないかと推測する。

 中には「子どもが常温派なので氷は要らない」「煮沸されていない水で作る氷が心配」「水筒を持ち運ぶのが面倒で、学校の水道水を飲んでいる」という声もあった。
 子どもたちの好みもいろいろなのだろう。ただ、冷たいものを飲みたいという気持ちはよくわかる。記者が小学生だった30年前は、学校の水道水を蛇口から飲むのが当たり前だった。水筒は遠足のときの特別なアイテムでうれしかった。暑い夏の下校時は、ハンカチに水を含ませて吸いながら帰っていたっけ…。

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 家庭医で公衆衛生に詳しい「ほーむけあクリニック」(広島市中区)の横林賢一院長(43)は「相当大量の氷水でない限り、学校で飲む程度の量なら問題はないのでは」と話す。煮沸されていない水で作る氷も、日本の上水道の安全レベルを考えると心配はないという。コロナ禍で換気も頻繁にするため、空調の効いた教室も暑くなる。「先生だって、暑い夏に『体が冷えるとよくないから』と、ぬるいビールを飲めますか?」

謎ルールだらけの学校。現場は「我慢せず伝えてほしい」とも

 氷の扱いを各校に聞くと、中には「水筒では足りない場合、2本目としてペットボトルを持ってきてもよい」とする学校もあった。中身はスポーツドリンクでも可とする。教頭は「前はだめだったが、少しずつ学校も変わってきている」と明かす。
 ある小学校教員は「確かに小学校には、ヘンテコな謎ルールはある。何らかの意図があるからそうしていて、ただ、その意図が伝わっていない」と話す。コロナ禍で参観日や学級懇談会が中止されたことで、保護者との意思疎通が難しくなったこともジレンマという。「気がかりなことがあれば我慢せず伝えてほしいし、改善にもつなげたい。黙ったままだと、すれ違いが起きる要因になる」と求める。

 子どもたちを大切に育てたいという思いは同じでも、学校と保護者という立場の違いで、優先順位が変わる問題なのかもしれない。水筒の氷について疑問を寄せてくれた冒頭の母親はあらためてこう話す。「それぞれ学校の考えがあるのは分かります。ただ、考えを明確に答えられるようにしてほしい。じゃないとやっぱり謎のルールになっちゃいますよね