241107◇ 『鼻:芥川龍之介』を読んだ
芥川龍之介の有名な作品として知ってはいたものの読んだことがなかった。調べてみると短編小説であり、また青空文庫にもあるという手軽さも後押しし、読んでみることにした。
『鼻』という小説は、五~六寸(約15~18センチ)の鼻をもつ内供という僧侶のお話だった。
私の鼻がそんな大きさの鼻だったら、全てを投げ打ってでも、その鼻を通常のそれにするだろうなと思った。ご飯を食べるのにも誰かの助けがいるし、周りの人に鼻のことで気を遣わせているのが分かるし、生きていくのが辛くなってしまいそうだから。
弟子の僧が鼻を治す方法を探し出してくれた時、自分なら泣いて喜ぶだろうな。何とかなるなら、弟子に鼻を茹でられたり、踏まれたりしてもいいかも。それくらい鼻というコンプレックスは嫌なものだから。
弟子たちが頑張って施術してくれたおかげで、ずっと望んでいた普通の鼻になった内供。自分の中ではとても満足だったろうなと思う。もう誰にも鼻のことで注目されないだろうし、誰の手も煩わせなくて済むし、良いことだらけの未来しか待ってないんだから。
しかし現実は、鼻が短くなった内供を見た人々が、以前よりも笑うようになってしまった。それは顔が急に変わった、ただそれだけでは説明のつかないような人々の様子がとても気持ち悪い。人の幸福を素直に喜べず不幸を笑うという人間の心、誰かのことを見下しておきたい心を表現しているんだ。
結局、内供の鼻は元に戻ってしまった。普通の鼻でも、元々の鼻でも笑われてしまうなら、内供はどうすれば良かったんだろう。
「――こうなれば、もう誰も哂わらうものはないにちがいない。」という彼の言葉が、とても虚しく感じられた。
鼻が長くても短くても、本当に必要だったことは周囲の目を気にしなくなる気持ちだったのだと思う。他人からの見られ方の認識を変えることができれば、生きやすいのではないかと思う。
自分のコンプレックスや他人と違う点について、受け入れて、自分を許容してあげたいと思うようになった。他人がとやかく言っても、自分は自分だから。