神話にこめられているもの
歴史上の人物で
「この人に会ってみたい」という存在はいらっしゃいますでしょうか？
私は古事記の編参者の一人である
稗田阿礼（ひえだのあれ）という方に会ってみたいなと思っています。
この人は非常に謎が多い人物とされています。
天武天皇に舎人として仕えており
記憶力の良さを見込まれて古事記の編纂グループに
加えられたと言われています。
舎人というのは天皇の身辺で警護や雑事にあたった
下級の役人のことですが
朝廷で働くというと華やかに聞こえるのですけれども
今でいう平社員のような立場の人で
生活レベルはそこまで高くはなかったと言われています。
この稗田阿礼という人は
目にしたものは即座に言葉にすることができ
耳にしたものは心に留めて忘れることはなかった
というふうに表現されているくらい
非常に頭の良い、記憶力の高い人だったと言われています。
難解な漢文も見ればすぐに音読できたと言いますし
アクセントなども一度聞けば忘れなかったとされています。
天武天皇に命じられて
稗田阿礼さんは漢文で書かれた
『帝皇日紀』（天皇の系譜の全集）ですとか
『先代旧辞』（各地の古い伝承などをまとめた書物）をすべて覚え
繰り返し朗読をしたということです。
阿礼さんが読み上げる内容というのを
太安万侶（おお の やすまろ）という方が聞いて
文章を綴り古事記を編んだとされています。
稗田阿礼さんは実は男性か女性かということもわかっていないそうです。
通常、舎人といえば男性なのですが
江戸時代「稗田阿礼は女性である」という説が提唱されました。
というのも稗田という名前がアメノウズメを始祖とする
猿女君と同族であるとされ
この一族というのは女性であっても朝廷で働いていたとのことです。
また「阿礼（アレ）」というのは巫女の呼称であるという説もあります。
私はぜひ女性説を推したいと思っています。
（歴史上の史実に対して推すも推さないもないのですが）
各地に散らばっている日本の神話を
一つに編み上げるというプロジェクトに
役職を持たない女性が参加していたというのは
非常に面白いのではないかなと思います。
神話の特徴として、世界各地の神話もそうですけれども
非常に突拍子もない話が多いと思います 。
例えば北欧神話では最初「ユミル」という巨人がいたのですけれども
彼はアース神族によって倒されて
その死体から世界が作られたという風な話があります。
肉が大地、骨が山、血が海や川となり
頭蓋骨が天空、眉毛が人間が住むミッドガルドの防壁となり
脳みそが雲になったということです。
この巨人のバラバラの死体から世界ができたという発想なのですが
金田一耕助もびっくりなバラバラ事件が起きた結果
世界ができたという、かなり壮絶な話になっています。
このような神様バラバラ事件の結果
様々なものが形成されたというような話は
日本神話にもありますし、世界の他の地域にもあります。
すごく不思議な話に聞こえるのですけれども
これは具体的な出来事として捉えるというよりも
何かの象徴であると捉えるのが良いかと思います。
というのも昔の人は顕微鏡も望遠鏡もなかったけれども
様々なことを深く理解し洞察していたと、私は考えているためです。
そしてそれを伝承する際に
あえてキャラクター化し、ストーリーをつけて
擬人化して物語にしたと考えています。
物語であれば様々な解釈というのを畳み込むことができるからです。
パソコンのファイルをまとめて一つに圧縮することを
「zipファイル化すると言いますが」
さしずめ「神話zipファイル」を作っていたというふうに考えています。
稗田阿礼さんの話に戻りますが
女性説の理由として「巫女だったのではないか」という話があるのも
この「神話zipファイル化」の点から考えると
頷けるかなと思います。
各地に散らばる物語を収集し
そこからエッセンスを抽出し
再編集するという作業を していたと思うのですが
それは、神話が持つあらゆる意味、そこに含まれるものを
一旦ダウンロードして編集して
再アップロードするようなものだと思うからです。
そのダウンロードするという作業において
巫女的な人がメンバーとして参加していたというのは
なるほどというふうな気がします。
もしかしたら単に
「仕事ですけど、何か？」というような感じで
淡々と作業的にこなしていただけかもしれませんが
実際はどんな風だったのかなと非常に興味がそそられます。
私は今、神話考察YouTubeにトライしていますが
物語のストーリーだけなぞると
神々の起こした珍事件集という感じになってしまうため
物語に含まれる真意を取り出せないかと、毎回悩みます。
「間違えているかも」というような怖さもあり
実際違うことを喋ってしまっているということも
あるかもしれませんが
なるべくそこに含まれている真意をダウンロードして
表現できないかなと考えながらやっています。