『GOAT 』3 カリヤン&シュリーニディー
パタヤのシーンでカリヤンの行動に一瞬「あれっ?」と思ったシーンがあった。その時は理由が分からなかったのだが3回目で分かった。彼は目の前から逃げる者をろくに見もしないまま背中から撃ったのだ。ガンディーならそれはしない。
今にして思えばそれはカリヤンの性格設定であり、同時に伏線でもあったのだろう。
冒頭のケニヤを走る列車の中での銃撃戦で印象的なシーンがある。
ガンディーが自分に向かって来た男の太腿にナイフを突き立てるのだが、その男がナイフを抜くまで腰掛けてじっと待っているのだ。そしてナイフを抜いた男が襲いかかってきた瞬間に撃ち殺す。
それまでにどれだけチャンスがあっても、ガンディーは自分に向かって来ない内は相手を殺さないのだ。ヒーローたるもの、正面から相手を倒さなければならない。
それをせず、面倒くさそうに逃げる相手の背中を撃ったカリヤンは、すなわちヒーローに与する者ではない。
それがあのシーンで感じた「あれっ?」という違和感の正体だった。
とはいえカリヤンが裏切り者であると観客が本当に気づく衝撃的なシーンはもっと後に用意されていた。
ジーヴァンに喉笛を丁寧に切り裂かれたあと廃園に取り残されたシュリーニディーをカリヤンが発見して抱き起こす。
「ジーヴァン……ジーヴァンがやったの……」
と苦しい息の下、なんとか告げるシュリーニディー。
それを聞いたカリヤンがこたえて言うのが
「君はジーヴァンに一言も洩らさないと誓ったんじゃないのか?」
このセリフにゾッとしたのは彼女だけじゃなく、観客全員だった。
そしてカリヤンはその場にあった白い布を手に取り、シュリーニディーの鼻と口をふさいで窒息死させるのだ。
ある意味、DEVILのヘルメットの下にジーヴァンの顔を見つけた時よりショッキングなシーンだった。完全に意表を突かれたから。
でも二度目に見るとちゃんと伏線が仕込まれていた事が分かる。監督、手練れである。
ところでそこにあった白い布はジーヴァンがシュリーニディーの口をふさぐのに使ったものだ。彼女の口の中に押し込むのに汚い靴下などではなく純白のシルク(光沢があるので)を選んだのは、やはり彼がシュリーディニーを愛していた証拠なのだと思う。
さてここで疑問。
カリヤンはジーヴァンがシュリーニディーに語った言葉を何故知っていたのか?
ジーヴァンが彼に連絡をとって、「もしも彼女を助けた時に俺の名を口にしなかったらそのまま病院へ運んでくれ」とでも頼んだのかな?
だったらいいな、とは思うものの、廃園を後にした時のジーヴァンはそんな余裕があったように見えなかったのだが……。まあしばらくして気を取り直したという事もあるかもしれない。
実は肝心な傷口の状態とかジーヴァンが切開する様子等がボカシのせいで分からないというのがこの状況をより分かりにくくしていると思う。たぶん挿管時に気管切開する感じだったと思うのだが……『マジック』のマーランのように……。
ジーヴァン、シュリーニディーを殺す決意はしたものの、自分の手でとどめを刺すことはできなかった。それであとをカリヤンに任せた、という解釈でここはいいのでしょうか?
『GOAT』無修正の日本語字幕版が見たいです……。