リモートワークはオフィスをホテルやテーマパークに変え、通勤を旅路に変える
今日書き留めておくのは、
「在宅勤務が働き方の選択肢として定着した組織のオフィス空間は、きっとこうなるんじゃない? そうなったら、オフィスへの通勤はこう変わるんじゃない?」
という(願いを込めた)ライトな考察です。
オフィスは消えるか、残るか
2020年3月以降、オフィスを解約して完全リモートにシフトする企業をちらほら見かけるようになりました。今後も、全従業員が100%リモートワークでオフィスをもたない企業、というのは少しずつ増えていくとは思います。
しかし、ほとんどの企業は何らかの形でオフィス(あるいはオフィス的な場所)を使い続けることになるでしょう。
その理由は、「オフィスは200年以上に渡って人類が使い続けていたツールだから」ではなく、「企業にとってのオフィスは、子どもにとっての学校に近い存在だと思うから」です。
「子供にとって学校は授業を受けるためだけの場所か?」と問われたら、多くの人が "NO" と答えるのではないでしょうか。もちろん「学習」は学校の中心的意義ですが、友達と遊んだり、給食を食べたり、けんかをしたり、といった様々な体験を通して、人として大切な "学び" を得ることにこそ、学校の価値はあるはずです。
では、「オフィスは仕事をするためだけの場所か?」と問われたら、どうでしょうか。もちろん「仕事」が中心にあることは間違いありませんが、同じ組織で働く仲間との会話や食事・休憩といったシーンを通して、私たちは仕事上の成果以外にも多くのものを得ているはずです。
なので、リモートワーク・在宅勤務が「働き方の標準的な選択肢の一つ」となったとしても、オフィスは多くの企業・組織にとって欠かせないインフラとして価値を見出され、何らかの形で存在し続けるでしょう。
また、設立時からオフィスをもたない「リモートワーク・ネイティブ」な企業も増えてくると思いますが、そういった企業でも、「オフィスを所有する」のではなく「オフィス的な場所を従業員が使えるようにする」ようになるのではないかと考えています。
・・・さて、それではリモートワーク・在宅勤務が「ごく普通のこと」として一般化したら、オフィス あるいは オフィス的な場所 は、どんな空間になるでしょうか?
私は、2つの方向に変化していくんじゃないか、と考えています。
Luxuryなホテル型
「オフィスはきっとこう変わっていく」の1つ目の方向性は、"Luxuryな体験ができるホテルのような空間" です。
これは、ここ10年くらいのトレンドとして続いているオフィスのリビング化(またはレジデンシャル化)とは少し様相が異なります。オフィスのリビング化はくつろぎながら働けることを目指して、なるべく無機質な要素を減らし、自宅っぽい雰囲気に近づけようとするものでした。
これに対し、Luxuryなホテルのようなオフィスのイメージは、
・ 新鮮なフルーツやなかなか手に入らないお菓子が置いてあり、
・ 10種類以上の挽きたてコーヒーが提供され、
・ 良質で快適なソファがたくさんあって、
・ 高機能なワークデスクがゆったりと配置されている
・ さらには困りごとを解決してくれるコンシェルジュがいて・・・
という感じの、個人宅ではなかなか用意できないものを得られる環境です。
現在でもこういった環境を提供するオフィスはありますが、GAFAに代表されるごく一部の限られた企業だけが実現できているだけで、決して一般的とは言えません。
上に挙げたような飲食物や家具やコンシェルジュといったものを提供するプレーヤーが登場することで、小規模なオフィスでも Luxury なホテルのような空間をつくれるようになると期待しています。
「自宅にいるときよりも格段に Luxury で、ちょっと贅沢ができる環境がある!」となったら、オフィスにいって働くことも価値のある選択肢の一つになってくるでしょう。
非日常を味わえるテーマパーク型
2つ目の方向性は、"非日常的な体験ができるテーマパークのような空間" です。
テーマパークといってもジェットコースターがあるわけではなく、
・ 超高層階からの素晴らしい眺望があり、
・ 様々な種類の生木の植栽に囲まれたり、
・ 動物やロボットと戯れることができたり、
・ 大きな壁面をいっぱいに使ったデジタルアートや、
・ 臨場感あふれるxR技術を用いたコミュニケーションツール・・・
といった、自宅や日常生活の中ではなかなか体験できないシーンのある環境です。
これまでも、目を引くような "尖った要素" を取り入れたオフィスはたくさんありましたが、多くの場合、その目的は仕事の生産性を向上させるため、エンゲージメントの向上のため、あるいはリクルーティングを意識した社外へのPRのため、といったものでした。
これらの目的を第一にオフィスをつくることは、「全従業員が毎日出社する」というこれまでのオフィス空間の使われ方を考えれば当然のことでしたが、リモートワーク・在宅勤務が標準的な働き方の選択肢の一つになるなら、社員の生産性・エンゲージメントの向上をオフィスだけに頼ることはできなくなります。
そうなると、オフィスをつくる目的として、これまでにはなかった要素を第一に掲げるようになってきます。自宅では得られない体験をするための場所として、つまり、自宅に居続けることで減ってしまう「非日常の体験機会」や「日常外からの刺激」を得られる場所としての役割をもたせたオフィスが増えてくるのではないかと思うのです。
"通勤する" は "旅をする" に変わっていく
「Luxuryなホテルのようなオフィス」にしろ、「非日常体験のできるテーマパークのようなオフィス」にしろ、家を出てそこに出向くとき、その「移動」はこれまでの「通勤」とは意味が異なってきそうです。
日常のルーティンとなっていたオフィスへの「通勤」という無味乾燥な移動行為が、あたかも旅行をするときの「旅路」のようなワクワクする気持ちを高める時間になるのではないでしょうか。
毎日オフィスに出社するなら、経済的にも時間的にも電車やバスに乗って「通勤」するという選択肢を取らざるを得なかったのが、週に1~2回だけ経験する「旅路」になるのであれば、自転車や徒歩でのあえて時間のかかる移動手段が候補になったり、あるいは偶然乗り合わせた人たちとの会話を楽しむ乗り合いバスみたいなものも候補になるかもしれません。
また、出社する頻度が少なくなれば、「通勤圏」という考え方も変わってきそうです。新幹線や飛行機を使ってたまに出社する、ということもできるようになれば、その移動は文字通り「旅路」になるでしょう。
「会社のオフィスが都心にあるから、首都圏に住む」のではなく、「自分が住みたいと思う町に住んで、たまに会社に旅をする」も現実的になってきますし、企業も「たまに旅をして出社するならオフィスが都心にある必要ないんじゃない?」と考えればリゾート地のような場所にオフィスをつくることが一般的になるかもしれません。
もっとワクワクする「afterコロナのワークスタイル」を描こう
いくらリモートワーク・在宅勤務が広まって定着し、テレワーカーが増えたとしても、すぐにこんな未来が一般的になるとは思いません。
ただし、いま多くの記事やレポートで書かれている「ちょっと窮屈な印象の with/after コロナの新しい生活様式」ではなく、「ワクワクする未来のワークスタイル」を想像&創造していくことは大切なことのはずです。
10年後に振り返ったとき、「2020年が日本の "オフィス" と "通勤" が大きく変わった、きっかけの年だった」と捉えられるようになったらいいな、と心から思っています。