風と光がつくった海の結晶「クリスマス島の塩」
文・パッケージ撮影/長尾謙一
クリスマス島の塩(素材のちから創刊号より)
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美しい環境が生む、類まれなる美味。
「クリスマス島の塩」を形容するならば、この言葉がふさわしい。
食材の味わいを邪魔することなく、旨みを引き出し、皿の完成度までをも引き上げる実力を持つ塩。
自然の芸術品ともいえる、この塩の生まれ故郷をご紹介する。
世界で一番早く、新しい朝を迎える場所
クリスマス島という名前はそれほど知られていないかもしれない。キリバス共和国の島の一つで、ハワイの南約2000キロメートルにあるこの島は、人が住む場所としては日付変更線の一番東に位置する。つまり、世界で一番早く朝を迎える場所なのだ。
島全体はサンゴ礁でできており、近くには島がないので、海はどこまでも透き通り、青い。
ちなみに、「クリスマス島の塩」という名前は、オーストラリア大陸などを発見したイギリスの冒険家キャプテンクックが1777年12月24日にこの島を発見したことに由来する。聖なる日に命名され、その美しい自然を今に至るまで保持しているこの島でとれる塩には、何か特別なものが感じられるといっても過言ではないだろう。
東京都1/3のサンゴ礁でできた島
クリスマス島は、島自体がサンゴ礁でできている。その大きさは世界一。東京都の1/3、淡路島、シンガポールなどと同じくらいの大きさといえば、想像がつくだろうか? つまり、島自体が奇跡のような存在なのだ。そして、7500キロメートル離れたガラパゴス諸島までひたすら海が続いていく。
海鳥の大群が示す、海の豊かさ
クリスマス島には500万羽を超える海鳥が生息している。海鳥は、きまぐれにその生息地を決めているわけでは決してない。餌である小魚が豊富な場所でしか生きていけないからだ。
500万羽を超える海鳥の一羽一羽が1日150gの魚を食べるとなると、年間75,000トンという膨大な量が必要となる。また、小魚が豊富であるということは、その海が豊かであることの証明。島の近くに湧き上がる北極や南極からの深層海流水が含む豊富なミネラルが育む良質のプランクトンは、魚たちの餌となり、それが水鳥たちの餌となる。
赤道直下の強い光と海風がつくる美しい海の結晶
クリスマス島はその独特の形によって、西の太平洋から南赤道海流をたっぷり迎え入れている。また、近くに湧き上がる深層海流水によって、海水はミネラルなどの栄養をたっぷりと含むものとなる。その海水を、赤道直下の強い光と心地良い海風に自然にさらしてできる塩、それが「クリスマス島の塩」。
何も加えず、人の手で煮たりすることもない。あくまで自然が育て上げる。そのシンプルでありながらも深い旨みは、自然だけがつくり得る芸術品だ。
およそ3か月の時間をかけ、光と風が海の結晶を生み出す
「クリスマス島の塩」ができるまで
1 サンゴ礁にかこまれて
2 海水を自然の湾にみちびく
3 サンゴ礁のプールへ
4 濃度の濃い塩田へ移動
5 自然にできた結晶を採取
6 塩の出荷
素材の良さを引き立てる優しい塩味
塩と一言にいっても、種類が様々であることはご存知の通り。しかし、自然のちからだけで育まれた塩となると、そう多くはない。上に製造工程を示した通り、「クリスマス島の塩」は、まさに自然の産物。海水そのもののミネラル類、そして強い日差し、心地良い風。これだけでできているのだ。
まずは、塩だけを口に含んでみることをおすすめする。包み隠すことなく現れる自然の旨み、そして繊細さと力強さとピュアさを同時に持つ深い味わい。単なる塩辛さだけが目立つ多くの塩とは一線を画していることがはっきりとわかる。また、その奥にあるふくよかさと甘みが、食材をより素晴らしい仕上がりへと導く。
この塩の特長を一言でいうならば、その塩味に「丸み」があることが挙げられる。たとえば、ジューシーなステーキにこの塩をミルで挽いてかけてみる。牛肉の甘みと脂の旨みが、まろやかな塩味によってより引き出されていることに気づくはずだ。塩でこれほどまでに料理が変わるのかと驚かれる方もいるだろう。
また、オリーブオイルとの相性がいいので、イタリアンなどにもおすすめ。オリーブオイルは青みのあるタイプ、辛みのあるタイプなど、どんなタイプでも問題がない。フランスパンにオイルと塩だけをつけたり、ペペロンチーノなどのパスタ、またカプレーゼなどのシンプルなメニューほど、この塩のおいしさを実感させてくれる。
ほのかな海の香りを持つこの塩は、かつおぶしや昆布を味のベースとする和食にも抜群の相性を発揮する。もちろん、魚の塩焼きには言わずもがな。すまし汁の上品な味わいにもぴったりだ。天ぷら、塩むすび、焼き鳥など、素材の味わいを大切にする和食ならではの調理法にぜひお試しいただきたい。
「クリスマス島の塩」には大きな結晶タイプの「クリスタル」と、使いやすいように粉状に加工した「粉末」がある。
「クリスタル」は、その都度ミルで挽いて使うので、新鮮な味とふんわりと漂う海の香りが楽しめる。調理時に使いやすい「粉末」は、適度な粗さで口溶けが絶妙。用途や場面に応じ、2タイプを使い分けたい。
(2010年8月1日発行「素材のちから」創刊0号掲載記事)