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塩が料理の〝体幹〟をつくる。
文・撮影/長尾謙一
クリスマス島の塩(素材のちから第29号より)
※「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら
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シェフは、やさしいだけではなく〝体幹のある料理〟を目指していると言った。〝体幹のある料理〟とは、いろいろ加えて味を重ねるのではなく、素材そのものの味を強く出す料理なのだと言う。さらにシェフは、その料理をつくり出すのは塩だと続けた。塩が料理の〝体幹〟をつくるとは、どういうことなのだろうか。
やさしい料理に一本筋を通す〝体幹〟をつくる塩。
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料理長 飯笹 光男 さん
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「シェ・フルール横濱」 神奈川県横浜市西区
横浜元町「霧笛楼」で修行後、2007年オープン。日本、特に横浜や神奈川の食材をフレンチの技法で調理する、横浜ならではの「和フレンチ」がコンセプト。若い生産者とも積極的に関わり、よりよい素材を追い求める。提供するのは、素材の味をそのままいかした「やさしくて何度も食べられる料理」。リピーターも多く、特に地元の女性客に愛されるフレンチ店。
この塩が素材のよさを100%引き出す
私の目指す料理は、簡単に言うと「やさしい料理」です。日本の素材は味にやさしさがあり、そのよさを最大限にいかすために、味をあまり重ねません。
私が「クリスマス島の塩」を使いはじめたのは最近です。この塩を使ってみて不思議なのは、「この素材ならこの味」と考えた以上の、その先の旨みが料理に出ることです。この塩が素材のよさを100%引き出してくれて、私の「やさしい料理」に一本筋を通す〝体幹〟をつくってくれるのです。
人間でも、やさしいだけだと「いい人だね」で終わってしまいます。私の料理もやさしすぎて、どこか弱い部分があるなと思っていたのですが、この塩を使うことで、料理全体のやさしさはそのまま、食べた時のインパクトが変わりました。
そもそも、当店のある横浜や神奈川には、素晴らしい食材が多くあります。地域の食材をたくさん使い、素材のやさしさをよりよく引き出すことで、新しくて地元の方に愛されるような和のフレンチ、とりわけ「横浜のフレンチ」をつくりたいですね。
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仔羊肉と野菜の〝味の濃さ〟で料理の一体感を生む
この〝オーストラリア産熟成仔羊 自家製パンチェッタ巻きのロースト 横浜野菜を添えて〟では、仔羊肉と野菜それぞれに「クリスマス島の塩」を使っています。
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仔羊肉と野菜をシンプルに力強く味わう
やさしく火が入った仔羊肉はやわらかく旨みがある。ニンジンのピューレは甘く、茎ブロッコリーは甘さの中に苦みがあり、金美人参は独特の香りを持つ。肉と野菜、いずれも塩味を感じない代わりに、旨みが濃い。渋い赤色が目を引く皿は、有田焼の特注品。シンプルさと力強さが合わさった、印象的な一皿だ。
仔羊肉は、最初に「クリスマス島の塩」をあてて、水気を抜いて旨みを残します。この芯の部分に「クリスマス島の塩」で塩漬けにしたパンチェッタを巻いて、豚の脂で仔羊肉の周りをコーティングします。
これを低温でじっくりローストしますが、そうするとやさしく均一に火が入り、パンチェッタからじわっと塩気が入ります。このわずかな塩が仔羊肉の旨みをどんどん前に引き出して、やわらかくてやさしい仔羊肉の味に一本筋が通ります。
周りの野菜は、すべて横浜で穫れたものです。それぞれシンプルにピューレやグリル、チップスなどにしていますが、必ずどこかで「クリスマス島の塩」を使います。そうすると、塩味をあまり感じずに野菜の甘みや旨み、苦みといったものが心地いいままに濃くなるのです。手前にあるニンジンのピューレも、「クリスマス島の塩」と溶かしバターでゆっくり蒸し焼きにしてミキサーにかけただけですが、甘みが本当に濃厚です。
もともとやさしい野菜の味にも一本筋を通す、この塩のいいところですね。この筋の通った素材同士が合わさることで、やさしい味わいの中で料理に〝体幹〟が生まれます。
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甘鯛の鱗から〝海老の香り〟がする?
次の〝甘鯛の鱗焼き 三浦キャベツのシェリービネガー和え 菜の花ソース〟では、「クリスマス島の塩」の〝素材のよさを引き出す〟という特長を最大限に使っています。召し上がってください、鱗から、海老のような香りがしませんか。甘鯛はオキアミなど甲殻類を食べる魚です。塩によって、その香りがグッと前に出ているのです。
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甘鯛は、まず身の部分だけを「クリスマス島の塩」でマリネして余計な水分を出します。この塩なら少量でも、しっかり身に旨みが入ります。
鱗にはあえて塩をしないまま、鱗を下にしてフライパンで焼きます。水分を残したまま焼くことで、鱗がよりパリパリに仕上がるからです。焼き上がったらフライパンから外し、鱗に「クリスマス島の塩」をふって、香りを一層引き出します。後はそのまま置いて、余熱で身に火を入れて完成です。身は甘くてジューシーですが、前に出た鱗の香りとのコントラストで、味わいがより印象的になるのです。
甘鯛の下の三浦産のキャベツ、横に添えた緑の菜の花のソースにも、「クリスマス島の塩」を使っています。塩を適度に使うことで、キャベツは甘みと旨みが増し、ソースは菜の花ならではの苦みと香りがあり、甘鯛の味と香りに負けません。とても芯の強さを感じる味ですが、「クリスマス島の塩」でないとここまでの味が出ません。素材それぞれの調理がシンプルな分、一つでも味が弱いと料理全体がぼやけてしまいます。
こうして「クリスマス島の塩」で素材の味をしっかりさせることで、やさしい料理でも〝体幹〟をつくることができるのです。
シンプルで力強い「クリスマス島の塩」のアイスクリーム
最後の〝ヘーゼルナッツとクリスマス島の塩のアイスクリーム〟は、「クリスマス島の塩」そのものを中心に組み立てた、アイスクリームのデセールです。「クリスマス島の塩」は、ミルクとヘーゼルナッツ、2種類のアイスクリームに使っています。
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塩の分量は1%と多めですが、これだけ塩にミネラルと旨みがあると、強めにきかせた方がミルクとヘーゼルナッツの旨みを強く感じます。乳の濃厚な香りで、アイスにしっかりとした〝体幹〟が生まれます。それにこの塩は塩味がスパッと切れるので、後味がとてもさっぱりします。塩のアイスは塩味が残りがちなのですが、これは新しい発見でした。
「クリスマス島の塩」を使うと、素材の味が力強く変わります。そうすると、合わせる食材やソースも変わって、料理がどんどんと変わっていきます。
「クリスマス島の塩」で引き出した素材のよさをいかしながら、やさしくて、それでいて記憶に残るような、〝体幹〟を感じる「横浜のフレンチ」を目指したいと思います。
(2018年3月31日発行「素材のちから」第29号掲載記事)