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地域に根差す〝フレンチ〟がある。

文・撮影/長尾謙一

クリスマス島の塩(素材のちから第37号より)
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塩が素材の存在を際立たせる

「クリスマス島の塩」でマリネしたサーモンのまろやかな味と、トマト、甘夏、ハーブのフレッシュな味が自然につながる。この皿は素材すべてが主役だ。

横浜育ちの野菜でおいしい料理をつくることが地域への恩返し。

地域の生産者、そしてお客様と一緒に、その店でしか食べられない唯一のフランス料理をつくりたい。そして、地域の人たちの自慢の店になりたい。それがシェフの夢だ。

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オーナーシェフ 難波 秀行 さん

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ペタル ドゥ サクラ」 横浜市泉区弥生台
18歳から広島、東京のレストランで修業し2001年に渡仏。帰国後「ラ・ロシェル南青山」に5年間勤務し、再び渡仏。ブルゴーニュの2つ星、パリの3つ星などで働き2009年に帰国。「ミクニ ヨコハマ」の支配人兼料理長を4年間勤め、2014年12月に「ペタル ドゥ サクラ」を開店。毎日地元の農家を訪れ収穫する元気な野菜と、つくり手との会話の中から料理を発想する。〝食材との出会いに感謝〟が店のコンセプトだ。

ここ弥生台でしか味わえないフランス料理をつくりあげたい

シェフは、都心から遠く離れたこの横浜市〝弥生台〟に店を開いた。それは、この〝弥生台〟でしかつくれないフランス料理をお客様に提供したかったからだ。

目をつけたのは横浜育ちの元気な野菜。色、香り、味、すべてが個性的でいきいきとしている。農家の畑に入り自ら野菜を収穫し、つくり手と話しながら育つ様子やでき具合を聞く。こうした付き合いも〝弥生台〟の料理を方向づけする大切な要素だ。

料理に地域を取り込もうとする難波シェフの考え方は、彼のフランス修業時代に原点がある。難波シェフはブルターニュにある海沿いの2つ星レストラン「ロテル・ド・カランテック」で地元のシーフードや乳製品などをふんだんに使うブルターニュ料理を学び、さらにパリ・シャンゼリゼの3つ星レストラン「ルドワイヤン」では洗練されたブルターニュ料理を学んでいる。

こうした経験は彼にテロワールを大切にすることや、つくり手とのコミュニケーションがいかに大切なことなのかを教えてくれたのだ。

「ペタル ドゥ サクラ」で使う野菜は、つくり手の名前と町名までメニューに紹介されている。

この農家の人たちがつくったこの野菜じゃないとできない料理をつくること。そして、ここでしか食べられない料理を楽しみに地元のお客様はもちろん、遠くからも足を運んでもらうことが難波シェフの目標だ。

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ブルターニュとはスケール感こそ違うが、この地域の人たちと一緒に地域に根差すフランス料理をつくりあげようとする難波シェフの意気込みを感じる。

さて、「クリスマス島の塩」を使ってご用意いただいた料理は、〝「クリスマス島の塩」でマリネしたサーモンキューブ〟である。

「クリスマス島の塩」でマリネしたサーモンキューブ画像5

一般的にサーモンのマリネは薄くスライスしたものが多いが、これを塊で提供する。昨年6月から難波シェフは「クリスマス島の塩」を使いはじめたが、その理由は塩味の浸透性のよさにある。短い時間で身の中に入り、塩味の馴染み具合がとてもいい。塩味がちゃんと中まで入り込んでいるので塩抜きの時にも水っぽくならず、旨みが濃くまろやかに感じられる。さらに発色も鮮やかだ。

皿にはサーモンと一緒に赤、黄、緑とカラフルなトマト、甘夏、香りを添えるハーブなどがリズムよく並ぶ。すべて今日の朝採ったものだ。

「クリスマス島の塩」が引き出すサーモンの旨みとトマトの濃厚な甘みは絶妙のバランスを生み出し、柑橘類の酸味とハーブの香りがサーモンをすっきりと包み込む。大袈裟かもしれないが一つ食べるごとに「いかがですか!」とつくり手から感想を聞かれている気がする。

これが〝弥生台〟の料理なのだ。

世界中探してもここにしかない苅部大根を楽しむ逸品

次の料理は苅部大根というピンク色の辛味大根を使った料理だ。ブルターニュの特産品であるオマール海老と組み合わせたところは、いかにも難波シェフらしい。

オマール海老  帆立  苅部大根  フェッセルの風味と苅部大根の辛みソースとともに画像6

 この大根は苅部さんという農家が10年かけて辛味大根を微調整しながら育てたオリジナルで、ご自分の名前をつけて商品化したものだそうだ。世界中を探してもここにしかない。

苅部大根を輪切りにして蒸したものを下に敷き、さっと蒸し煮したオマール海老をのせる。さらにその上にはフェッセルというフロマージュブランに「クリスマス島の塩」を加え、帆立に絡めたものをソースとしてのせる。「クリスマス島の塩」は乳製品との相性がよく、乳の風味を増した濃厚なコクを引き出している。

ピンクの美しいソースは苅部大根をおろし、柚子のしぼり汁を入れたシンプルなものだ。適度な辛みがさわやかだ。

蒸し煮にしたオマール海老とフェッセルのソースをからめた帆立を、蒸した大根と大根おろしのソースでさっと食べる。まさかオマール海老を大根おろしで食べるとは思わなかったが、この辛みのソースがたまらない。

料理は農家の皆さんとの会話の中から発想する

難波さんは農家の畑へ収穫に行き「これは今が一番いい状態だよ。」とか、「あれは来週から収穫できるよ。」と聞くたびに料理をイメージする。

難波さんはつくる料理を決めてから素材を集めるのではなく、農家がすすめる野菜から何をつくろうかと料理を発想する。このデセールは「ヤーコンがそろそろ味がのってきたから出せるよ。」と農家から勧められてつくったそうだ。

ヤーコンのシャルロット  蜂蜜のアイスクリーム画像7

ヤーコンは果実のような野菜でフランス語では大地の梨というらしい。そこで梨からイメージしてシャルロット・オ・ポワールをヤーコンでつくった。

ビスキュイ生地の中にフロマージュブランとヤーコンのコンポートをムースに仕上げて詰め、上にはヤーコンをシロップで真空したものを飾っている。

ヤーコンのコンポートには塩味に角のない「クリスマス島の塩」を使い、甘みのあとからほんのり塩味がくるように仕上げている。甘みに塩をちょっときかせる技法は、難波シェフが学んだブルターニュ地方の塩キャラメルの文化だ。添えられたのは蜂蜜のアイスクリーム。さすがにヤーコンは都内の洗練された店では出てこないのではないだろうか。

さあ、桜の季節を迎えた。「ペタル ドゥ サクラ」にある見事な桜を眺めながら、横浜の弥生台でしか味わえないフレンチを楽しむお客様で、お店はきっといっぱいだろう。

お問い合わせ:クリスマス・アイランド21株式会社

(2020年3月31日発行「素材のちから」第37号掲載記事)

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