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塩に〝香り〟、フランス菓子の魅力を引き出す。
この塩には〝香り〟がある。何も手を加えない自然な海の塩だ。塩味からは甘みさえ感じる。きっと菓子で使う、卵、粉、バター、砂糖など素材の可能性を引き出してくれるにちがいない。そして、自分が表現したい菓子づくりの手伝いをしてくれるはずだ。この塩を最初になめて、そう思った。
文・撮影/長尾謙一
クリスマス島の塩(素材のちから第21号より)
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菓子のおいしさの基本を思い出す
時代の流れだろうか、意外性や見栄えなど造形的な要素を優先した菓子が多い気がする。古くから受け継がれるフランス伝統の菓子には、長い時間によって形づくられたおいしさが表現されている。何よりもおいしさを優先することに、だれも異論はないだろう。
この塩は、配合した素材の複雑な風味を上手にまとめてくれます。
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オーナーシェフ 金子 哲也 さん
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「フランス菓子 レピキュリアン」東京都武蔵野市吉祥寺
六本木のル・コント、尾山台のオーボンヴュータンなどを経て渡仏。パリの2つ星レストランでシェフパティシエとして2年半働き、さらに腕を磨きながら約4年間をフランスで過ごす。日本に帰国後の平成8年、吉祥寺にフランス菓子「レピキュリアン」をオープン。〝フランスがそのままお客様に届く菓子〟をつくり続ける。
パティシエが携わる菓子の種類の中で、生ケーキはアイテムの一部でしかない。アイスクリーム、ヌガーやキャラメルなどのコンフィズリー、ショコラ、ドゥミセックやフールセック、そしてタルトなどの焼菓子もある。幅広く菓子を揃え、フランス菓子の魅力をお客様にも知ってほしいとひたすら菓子をつくる。
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「クリスマス島の塩」をショコラのガナッシュにもトッピングにも使う
「クリスマス島の塩」を使い始めて1年以上が経ちます。私の知り合いが店に遊びに来た時に、「こういう塩を知っているか。」と言われて、ちょっと味見をしてみたらとてもおいしかったのです。一番に感じたのは「やはり、海の塩だな。」ということです。〝香り〟がありますね。しょっぱいだけじゃなくて、中に多少の甘みもあったりして、いろいろな味を感じてとても面白い塩だと思いました。
私どもでは、「クリスマス島の塩」をチョコレートに使っています。これは〝ボンボンショコラのエピス〟です。
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ボンボンショコラというものは基本的に外側のパリッとした部分、それから中のやわらかいセンターの部分を組み合わせておいしさを表現します。そのセンターに赤ワインを使います。
赤ワインでガナッシュをつくりながらオレンジやシナモン、ナツメグ、胡椒などの香辛料と「クリスマス島の塩」を入れて風味をつけます。そして、その中にドゥミセックのいちじくを刻んだものを入れます。つまり、このショコラは赤ワインと香辛料の香りといちじくを楽しむボンボンショコラです。
ガナッシュに使った「クリスマス島の塩」の役割は、配合した複雑な風味を締めるというか、まとめる役割です。これも、ただまとめればいいというわけではなく、〝香り〟や〝甘み〟を上手に重ねあわせて一体化させ、深みのある味わいに仕上げるという重要な役割です。
アクセントとして最後に「クリスマス島の塩」をトッピングしますが、これは強すぎても良くないし弱すぎてもインパクトがありません。甘みを持っている「クリスマス島の塩」は丁度いいアクセントです。
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バターの〝香り〟と「クリスマス島の塩」の〝香り〟がうまく混ざり合うことが、ガレットブルトンヌのできあがりに大きく影響します
〝ガレットブルトンヌ〟にも「クリスマス島の塩」を使います。〝ガレットブルトンヌ〟はブルターニュ地方の伝統的なお菓子です。
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現地では塩の入った有塩バターを使いますが、日本で手に入れても値段的には相当高い。しかもバターに塩味が入っていますから塩味の加減ができません。それもあって私のところではバターを調達して、そこに「クリスマス島の塩」を混ぜています。やはり、「クリスマス島の塩」の〝香り〟とバターの〝香り〟がうまく混ざり合うことが、できあがりに大きく影響します。そして、そこに少しだけラム酒を加えてあります。
〝ガレットブルトンヌ〟は仕上げなどの後行程のない、焼けたままを楽しむ菓子です。まず、噛んだ瞬間にサクッと崩れ去っていく、バターの圧倒的な〝香り〟を楽しみます。そして、追いかけるように、少しだけ入れたラム酒の〝香り〟が口いっぱいに広がり鼻にスーッと抜けていく。これがこの菓子の醍醐味です。
「クリスマス島の塩」は、塩味が前に出ないで、バターの〝香り〟とコク、ラム酒の香り立ちを上手に引き立ててまとめます。バターの風味を濃く感じるのも、この塩の〝香り〟と〝甘み〟のおかげです。
洋菓子店のクロワッサンは、バターをいかにおいしく表現するかだ
私どもは洋菓子店ですが、クロワッサンも提供しています。洋菓子店にとってのクロワッサンは、簡単に言うと〝バターそのものを表現するパン〟なのです。
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バターをいかにおいしくお客様に食べていただくか。「クリスマス島の塩」を生地に混ぜて使うと、バターの表情がおいしく変わるような気がします。私どものクロワッサンは、ベーカリーのものに比べてバターの量もかなり多いですし、折り数も多くします。口に入れるとパリッ、サクッとした食感から始まり、何層もの生地がゆっくりと溶け始め、同時にバターの風味が心地よく香ります。
ガレットブルトンヌでもそうでしたが、「クリスマス島の塩」はバターの風味をぐっと上げてくれます。それは、この塩の〝香り〟が、バターの持っている乳の〝香り〟を際立たせ、同時に〝塩味〟〝甘み〟がバターのコクを引き出すからでしょう。
菓子づくりにとって塩は決してメインの素材ではありません。でも、主役になるバターの風味や小麦粉の香り、チョコレートの甘さなどをさりげなく引き出してまとめる役目を持っているのだと、「クリスマス島の塩」と出会ってあらためて感じました。この塩を使って、フランス菓子の魅力をもっともっと引き出してみたいですね。
(2016年3月31日発行「素材のちから」第21号掲載記事)