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クリスマス島のサンタクロース

文/長尾謙一 

クリスマス島の塩(素材のちから創刊号より)
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「クリスマス島の塩」のパッケージにサンタクロースがデザインされている。まったく別の目的で偶然に訪れたクリスマス島で、輝く塩の結晶を見つけ、その塩を愛し、塩田を再生した。さらに、物のない孤島で強い太陽の光と闘いながら、幾多の困難を乗り越えてこの島の宝物を守り続けた人たちがいた。クリスマス島の島民にとって、彼らはまさに、サンタクロースだった。

日本人が現地でつくる完全海水天日塩

「クリスマス島の塩」のロゴマークに描かれているサンタクロース、じつは日本人なのである。

キリバス共和国のクリスマス島は、今でもハワイのホノルルから飛行機で行くしかない太平洋の孤島である。サンゴ礁でできた世界最大の島であり、世界で一番早く朝を迎える美しい島である。

1777年12月24日のクリスマスイブに帆船で上陸したキャプテンクックによりクリスマス島と名付けられた。そんな島でつくられる塩と日本人がどんな関係を持つのか。

太陽の光に輝く結晶を見つけた

それは、今から20年ほど前になるのだろうか。当時、クリスマス島に日本の宇宙センター設立の構想が発表された。ロケットを飛び立たせ、宇宙から帰るロケットを迎え入れる宇宙事業団の宇宙港の候補地となったのだ。

その調査にクリスマス島を訪れたある日本人が、偶然に閉鎖されていた塩田を見つけた。海辺に広がるはてしない塩田は燃えるような太陽の日差しの中で、氷山のように美しく輝いていた。以前、国際援助機関が後進国の産業開発の一環として塩田をつくったらしい。

サンゴ礁のプールに引き込まれた海水が約3か月間、強い太陽の光を浴び、自然の風を感じながら結晶していく。海のミネラルいっぱいの完全なる天日干し結晶塩である。しかし、この素晴らしい塩をつくっても売ることができないため、数年もの間閉鎖され、塩は氷のように固まって誰もそれを掘り起こそうとはしなかった。

彼は、これを日本に運ぼうと考える。ビジネスのことは、まったく考えていなかった。彼にとってこの塩が良いか悪いか、価格はどうか、日本で売れるか、そんなことはどうでもよかった。とにかく彼はこの塩と縁を結びたかったのだ。環境汚染に悩む日本の人たちに、この圧倒的な自然の塩を届けたい。ただ、その一心であった。

南極の、とてつもなく豊かなミネラルの宝庫から、地球の自転によりペルー海流を発生させ太平洋の真ん中に溢れ出て東に走る南赤道海流。一方、日本列島を遡りアリューシャン列島、カナダを伝って流れる大海流はメキシコにぶつかり、西に走り北赤道海流となる。太平洋の2大海流が融合するところ、そこがクリスマス島である。

生命の有機物に溢れたこの海の結晶を日本に運びたかったのだ。クリスマス島の大臣を訪ね塩田の塩を一手に引き受ける契約をしてしまった。

エルニーニョ現象により全滅する

1994年にはじめて日本に「クリスマス島の塩」が輸入された。しかし、運搬は困難を極めた。そこに、2人目のサンタが現れる。もちろん日本人である。

クリスマス島には大きな桟橋が無いため、大きな船は停泊できない。そこで小さな船に塩を積み込み、大型船がつく港まで、まずは運ぶのだ。そこから大きな船で横浜へ。

こうして順調にはじまったように見えた塩の事業だが、思いもよらない事態に陥る。2001年にエルニーニョ現象により、「クリスマス島の塩」はまったくとれなくなったのだ。

エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の中央部(日付変更線付近)から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で、海面水温が平年に比べて高くなり、その状態が半年から1年半程度続く現象のことである。これによって、雨の降らなかったクリスマス島に雨が降るようになった。

太陽の強い光を浴びてひたすら乾燥して結晶する「クリスマス島の塩」には、雨の降らない3か月間が必要なのだ。乾燥してきたと思えば雨が降り、せっかくの結晶が溶けてしまった。こうして「クリスマス島の塩」はまったくできなくなったのだ。

「クリスマス島の塩」の復活

しかし、ここでやめるわけにはいかない。どうしたら安定して塩ができるか。考えに考え抜きトレイによる生産をテストしてみる。テストに使用する物はすべて日本から運んだ。トレイ、シート、シャベル、長ぐつ、ステンレスの棒など、クリスマス島にある海水以外のすべてをである。

塩田で、ある程度塩分濃度が高くなっている海水を大きなトレイに入れ、今まで通り太陽と風で乾燥させていく。雨が降ったらトレイにふたをするようにしたのだ。これによって、再び「クリスマス島の塩」は復活した。

2005年、宇宙事業団プロジェクト撤退。これにより、宇宙センター設立は頓挫したが「クリスマス島の塩」は残ることとなる。

「クリスマス島の塩」のロゴマークのサンタクロースが日本人である理由をお分かりいただけたであろうか。先日、テレビ放送でクリスマス島の特集番組を見た。鳥の楽園、ダイビングのメッカと紹介されるその環境は、素晴らしいのひとことに尽きる。青く何層にもグラデーションがかかった海と目にしみる空の青が印象的だ。

「クリスマス島の塩」は、とにかく純粋だ。塩味に角がなく、豊富なミネラルに旨みを感じる。塩味を楽しむというよりも、合わせる素材の風味を引き立てる。「クリスマス島の塩」の歴史を知りつつ、その味を試していただきたい。


お問い合わせ:クリスマス・アイランド21株式会社

(2010年11月1日発行「素材のちから」創刊号掲載記事)

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