【ネタバレ映画感想】スワロウーswallowー
いつか観ようと思いながらも、観る勇気がわかず、先送りになっていたのだが、再生ボタンを押すところまで頑張ってみたら意外にもすんなり観れた。
本作、日本ではそこまで評価されてない感じか、、。
この題材を扱ってなおここまでの美しさを保ち、メッセージを伝えられるのかと驚いていたので。
あらすじはこんな感じ。
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散りばめられたこだわり
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映画の冒頭、きれいな景色のシーンと対比して羊の解体シーンが映る。
ここの羊は「平穏、安定、家畜」といった意味がこめられ、この映画の中ではそれが人為的に崩れ去ることを表している。
物語の中盤以降、母親がキリスト教であるために生まれた存在だと明かす主人公のハンター。
キリスト教の中では「神の子羊」=イエス・キリストのことを指す表現のひとつであり。
宗教、家族との関わりを絶ち、ひとりの女性として開放されることが冒頭に
示唆されている。
カットが美しい映画は観ていて飽きない。
色や構図も考えられているものが多かったように思う。
例えば開始32分あたりのシーン。
主人公のハンターは部屋の整理をする。
恐らく夫が買ったであろう高そうなソファにインテリア、色々な家具を配置して画面中央に戻ってくる。
数秒後、後ろから夫に抱きしめられるのだが、
まるで牢獄を思わせるような構図になっていて、かつ美しい。
閉塞感と奥行きを見事に共存させている。
さらにハンターの服装に注目すると、序盤は赤やショッキングピンクあたりのカラフルで高級そうな服装なのだが、物語の後半では色が地味になり、カジュアルになっていく。
このように映画序盤から「こだわり」を感じる映画だということが伝わったため、ただ画鋲を飲み込むだけの映画ではないことは容易に判断できた。
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作品のテーマについて
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一言で表すと、
無意識バイアスによる抑圧と女性の自由と解放
といったところか。
社会階層の問題はアメリカに限った話ではない。
ここで語られるのは、階層間で無意識のうちに受けるモラハラや抑圧、孤独化である。
ハンターは背伸びしてアッパー層についていこうとするが、根は普段携帯ゲームをし、おやつを食べながらゴロゴロする普通の主婦である。
本作は、モラハラ夫といやな姑の解像度が高い。
夫は一見愛情表現をしてくれているように見えるが、明らかにハンターのことを下に見ていてデリカシーがなく、威圧的な態度をとったりするし、姑からは「うちの息子に拾ってもらえてラッキーね」と言ってきたりする。
さらに最悪なのは、これがなんの悪びれもなく、むしろ理解があるといった顔をしながら日々行われていることだ。
数分の会話を観ただけで、ハンターの苦しさがこちらにズシっと伝わってくる。
そんな状況から脱却したい、という欲望から、異物を食べるようになるわけである。
異食症というのは実際に存在するようなので、突飛な話ではないらしい。
ここにギョッとしてしまった時点ですでにバイアスがかかっていると警告されているかもしれない。
最後のシークエンスでは、母を強姦した父と対峙する。
欲望を抑えられなかった父は、異物を食べる欲望を抑えられない今のハンターとリンクしている。
そんな父はきっと、今も苦しんでいるに違いない。
そう思いたいのだ。その一縷の願いにかけて、いつも写真を鞄に入れて持ち歩いていた。
しかしいざ会いに行くと、そこには誕生会を開いてもらい、多くの人から受け入れられ、必要とされている父の姿があった。
そこでハンターは問いかける。
「私とあなたは同じ?」
に対し、
「君は私と違う」と返答をもらい、ハンターは涙する。
「私とあなたは同じ?」というのは、過去を恥じ、隠しながらでないと周りに許容してもらえないのか?という問いだ。
に対し、「そうではない」=「君は僕とは関係がないのだから、過去を恥じる必要はないし、その状態で周りに許容してもらえるよ」と言ってもらえたことで、遺伝決定論からの解放、固定化された女性像からの脱却と、1人の人間として自由を獲得することを叶えた末、
最後自分の子を産まない選択をして、エンドとなる。
よくよく考えてみると、この主人公の名前「ハンター」は
「マン・ザ・ハンター」論からきていそうだ。
これは、男女差が遺伝的に決定されているということを示す論であるが、
ハンターはそんな生物学的な呪縛から脱却するための象徴としておかれた名前だとするとスッキリするところがある。
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最後に
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モーテルで泣きながら土を食べるシーンは特に美しかった。
なぜかマルホランドドライブを思い出した。
「シレンシオ、すべてまぼろしだ」
美しさと生理的に受け付けない行為が両立して存在していた。