身辺整理を開始したはずなのに、カメラは増えていた
ごく個人的な話をすると、2018年まで人生が全くと言っていいほど楽しくなかった。とにかく辛いことから目を背けて、現実逃避に全力を捧げてきたわけである。
2018年に前職に移り、そこから人生がようやく楽しくなってきた。それからは、若い頃にできなかった娯楽をとにかくやって、人生を取り戻す作業をRTAめいた速度で進めた。バイクに乗って旅をし、車を買って旅をし、彼女をなんとか作り……と、5年でだいぶ取り戻せたと思う。
ようやく、遅ればせながら人生の主導権を得たという実感が得られた。そして思った。身辺整理をしよう、と。
実家で断捨離した
色々とあって昨年は横須賀に住んでいたのだが、ついでに実家にあるものをほとんど捨てた。父方はモノを捨てられない家系で、その特徴をしっかりと引き継いだ私の部屋にはしょうもないものが大量にあったので、思い切って捨てることにしたのだ。どれぐらいしょうもないかというと、中学生の頃にツタヤで借りたメタリカの『…And Justice for All』のコピーが残っていたくらいだ。
多少の換金性のあるものはブックオフに出し、本当に換金性の高いもの(華倫変の単行本とか)はメルカリに出した。
自室にはもうほとんど何も残っていない。父親のものばかりだ。(私が一人暮らしを始めてからは父親が元・私の部屋を主に使っている)
自分のものがほとんど消えた自室を見ると、過去を断ち切れたような感じがして気持ちよかった。実家には良い思い出があまりないので、「もうここは私の居場所ではない」という感覚がとても気持ち良いのだ。
バイクを売ろうと思ったのだけど
2018年の夏にバイクを買った。最初はYZF-R3、次はグロム。
グロムは小さくてよく走る本当にいい奴だったのだけど、売ろうと思った。正直なところジクサー250を買うか迷ったのだが、バイクを降りようと思ったのである。
なぜ降りようと思ったのか。一言で言うと、命が惜しくなったからである。
これまでも安全運転はしていたが、バイクという乗り物はミスが生命に直結する乗り物である。しかしバイク乗りという生き物には大なり小なりこの辺りのリスク感覚が壊れているタイプがいて、「バイクに乗れないなら死んだ方がマシ」と思っている。それくらい、バイクは魅力的なのである。
人生は楽しくない。けれど、スロットルを捻って人馬一体となる喜びは素晴らしい。ごちゃごちゃした考え事も、日々積み重なる哀しみも、運転していれば忘れられる。そう思ってバイクに乗ってきたが、人生の方が楽しくなってきたのでバイクを降りようと決意した。そう思ってラストランに出かけたのだけど、やっぱりバイクは楽しい。夏は暑いし冬は寒いしぶつかったら死ぬし、何も良いことはない乗り物なのだけど、やっぱり乗っている間の高揚感は他では得られないのである。「決断はもう少し後でいいか……」と思ってしばらくは乗り続けることを決めた。リッター50kmは走るから、ランニングコストはほぼゼロだし。
バイク以外は色々と売った
実験用に買ったPCとか、Meta Quest 2とか、CalDigit TS3 Plusとか、一時期は必要だったけど今は必要ないものたちを全て手放した。それなりに高いものなので、売れば多少のお金にはなる。そのお金はどうしたかというと、なんとカメラ代に消えたのである。身辺整理とは。
でも、カメラは買った
高校生の頃からカメラを触ってきた。旅行にカメラを持ち出しては、全国の写真を撮ってきた。
2019年にE-M1 MarkⅡを購入したのだが、良好な解像感と軽量さから「ずっとマイクロフォーサーズでいいな」と思っていた。軽いし安いから、望遠レンズを気軽に持ち運べるのが良い。メインの用途である旅行には最適だ。フラッグシップであるE-M1Ⅱは防塵防滴だから、同じく防塵防滴のプロレンズと組み合わせれば雪降る北海道でだって故障を気にせずバシャバシャ撮れる。
しかし2022年に購入したGRⅢxに全てを狂わされてしまった。小さくて軽くてどこにでも持って行けて、クロップとはいえ標準域をだいたいカバーできるAPS-C機。購入以降、旅カメラはGRで完結するようになってしまった。何よりGRⅢxは40mmなのが良い。35mmでは広すぎるが、50mmは寄りすぎに感じることが多い私としては好きな焦点距離だ。
機動性を求めてマイクロフォーサーズにしたのにもっと軽いカメラがメインになってしまうと、E-M1Ⅱは気合いの入った撮影にしか持っていかなくなる。もともとは旅行のお供としてカメラを持っていたのに、GRⅢxのおかげで旅行にレンズ交換式のカメラを持っていくことがなくなってしまったのだ。
2022年まではプロレス撮影のために40-150が大活躍していたのだが、格闘技を始めたら撮るよりじっくり観るほうが楽しくなってしまったのでほとんど稼働していない。立ち寄った公園に野鳥がいたらサクっと撮れてしまう、みたいなメリットはあるのだが、そうなると必要なのは開放絞りではなく焦点距離だ。100-400を購入したほうが良いだろう。40-150を下取りに出せば実質タダみたいなものだし。
そんな中で、前々から思っていた「やっぱりフルサイズ機が欲しい」という気持ちが燃え上がってきた。なんだかんだで、これまで触ってきたカメラで一番楽しかったのはRX1だった。GRⅢxもE-M1Ⅱも道具としては素晴らしく、解像感やボケ味については工夫次第で割とどうにかできるが、物理的にフルサイズの持つ階調表現は代えがたい。
フルサイズ機は趣味である。とはいえ、小さい方が嬉しいのでミラーレスであっては欲しい。それでいて機能性があり、ときめく外観ならば申し分ないのだが……と思ってヨドバシカメラのカメラ売り場を歩いていると、あることに気づいた。
もしかして、α7Cとα7Ⅲって実運用上は意外と大きさが変わらないのでは?
軍艦部のおかげで縦のサイズに差はあれど、横幅は同じくらいだし、レンズを考えると重量は誤差みたいなものだ。厚みについても差があるのはグリップ部分なので、パンケーキレンズでもなければ関係なくなる。つけっぱなしレンズとしてはタムロン20-40を常用するつもりなので、α7Cだろうがα7Ⅲだろうが一番厚いのは間違いなくレンズ部分になるわけだ。そう考えると、中古価格も落ち着いており、操作性も良いα7Ⅲを中古で買うのが一番良いのではないかと思った。
とはいえ迷うものは迷う。実のところ、α7系列はあまり好きではないのだ。
どこが好きではないかというと、ボディに思想を感じない辺りである。車でいうとオートマのカローラアクシオみたいな、仕事の道具としては良いのだけど趣味としては面白みがないプロダクトだというのが私の認識だ。(※アクシオはMT設定があり、そっちなら趣味性があるのだけど話がややこしくなるのでオートマに限定した)
とはいえ上述の20-40とか、タムロン70-180みたいな楽しそうなレンズが多いので、ボディへの不満は飲み込むことにした。単焦点も楽しそうだが、必要なときに借りれば良いかと思い保留。ポートレートを撮る機会が増えたらSEL85F18とか買ってもいいかもしれない。
身辺整理と言いつつ、カメラはどうしても捨てられなかったわけである。
よくよく思い出すと、旅行がメインではあったものの、昔からカメラを通して人と触れ合ってきたのだ。体育祭では「撮影班」と称して堂々とサボり(なんでそんな真似ができたのかは覚えていない)、大学生の頃は友人の同人誌のために写真を撮り、前職の社員旅行ではカメラを片手に宴会のテーブルを飛び回った(飲まされるのを回避するためだ)
消極的な間合いでありつつも写真を通せば人と関われたゆえに、カメラは整理の対象外になってしまう。
その結果がこれである。
3つのセンサーサイズを用途ごとに持っている異常独身男性の完成だ。
E-M1 MarkⅡは歩留まり重視の撮影やアウトドアでの超望遠用。GRⅢxは常に持ち出せるサブカメラ、α7Ⅲはメイン機だ。全部違って全部いい。
さっそくα7Ⅲを持って夜の竹芝にスナップ散歩をしてみたのだが、流石の威力であった。
まずは島嶼会館脇からC1を狙う。手すりで保持しての長時間露光であるが、実によく止まっている。もうこの時点で満足度が高い。
とはいえ、ISO100ならどんなフォーマットでも基本はノイズなく撮れるし、f8なら大抵のレンズは解像する。というわけでISO感度を上げ、開放絞りでさるびあ丸を撮影してみた。さるびあ丸がかなり明るいが、ギリギリのところで手前のトラックが潰れずに描写できている。ようやっとる。拡大すればノイズが気になるが、noteの表示サイズでは気にならない。
調子に乗ってISO3200まで上げてみた。意外と破綻していないのだが、流石に等倍にすると粗が目立つ。引き延ばして見ないのであればISO3200、引き延ばすのであればISO1600くらいがギリギリ使えるように感じる。それで1/15秒くらいなら割と止まるので、ナイトスナップには充分だ。
運用を開始して数日しか経っていないが、やはりダイナミックレンジの広さは大きな武器で、その点についてはフルサイズを買って良かったと感じている。欠点は被写界深度の浅さとレンズの大きさで、その点は分かっていたので仕方ない。とはいえF2以下の軽いレンズも欲しくなっており、そうなるとSEL55F18Zを買うか、あるいはマニュアルレンズとしてAstrHori 50mm f2を買うのも良いかもしれない。あとは中一光学のCREATOR 85mm F2なんかも良さそうだ。安いし。いずれにせよ、今度は一泊二日旅行にでも持ち出してみようかな、と思わせてくれるカメラだった。
なお、GRⅢxだとISO6400でガビガビになる。当然である。とはいえ、ついでに持ち出せるのはGRの強みである。
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