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古典鑑賞(四)蜀素帖 [米芾]

月刊書道誌 太源 2024.10月号

 現在随意部参考として掲載されています、米芾の蜀素帖を紹介します。

 まずざっと字形を見てみましょう。この蜀素帖の字は上部が広く、左に傾いているという特徴に気づきます。右上がりが強くなり、字に動きが出て、格調も高いと思います。これは王羲之を始め、多くの古典で見られる特徴です。

 更に細かく見てみましょう。巧みで自由な筆致と、それによる小気味よいリズムを感じることができるのではないでしょうか。実際に臨書してみるとよく分かります。(私見ですが、古典を細かく鑑賞するには、臨書が適していると思っております※1。眺めているだけでは気付かなかった細かな部分や筆使いに、書いて初めて気付いた、という経験は皆さんもあるのではないでしょうか。)

 さて、ここまでが私達が普段している鑑賞だと思いますが、もう一段階、お勧めしたいと思います。それは、一点一画一字ずつを見るのでなく、作品全体を眺めるということです。

 そもそも蜀素とは、蜀(現在の四川省)で作られた素(しろぎぬ)という生地のことです。黒い罫線も織り込まれたこの生地に、米芾は自作の詩を書きました。これが蜀素帖です。半紙に臨書しているとつい忘れがちですが、この作は1字3㎝程度ですし、生地は変色してか、茶色っぽいです。白い半紙に6文字ずつ臨書し、それを並べたものと実際の蜀素帖とは、全く様相が違います。

 できれば印刷の鮮明なもの、そしていつか機会があれば台北故宮の実物を鑑賞しましょう。米芾の凄み、書芸術としての蜀素帖の凄みを感じられるのではないかなと思います。

 末筆に私事で恐縮ですが、私は今年で38歳です。蜀素帖を米芾が書いたのも38歳……です。
 
※1もちろん、双鉤填墨などは、もっと細かく見ることができると思います。

参考文献
・二玄社 中国法書選48:米芾集
・国立故宮博物院㏋
 故宮のウェブサイトで、かなり高精細な蜀素帖が見れます。→
https://theme.npm.edu.tw/selection/Article.aspx?sNo=04001010#0


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