古典研究会 米芾 蜀素帖 2024.11.17 台本
2024.11.17 太源書道会の古典研究会が開催されました。小森が講師として選出され、米芾の蜀素帖の講義をすることになりました。台本が無いと緊張するので、書いておきます。
挨拶、目標
皆様、本日はよろしくお願い致します。小森趙山と申します。ところで小森のこと知ってるよーという方いらっしゃいますかね?あ、ありがとうございます。多くの方に知っていただいてるみたいで。では軽く自己紹介を。
滋賀県の出身でして、子供の頃は親戚の叔母がやってる、近所の習字教室に通ってました。書道関係の大学に入りまして、その時から北野先生の教室に通わせていただきました。それから初めて、古典や臨書が大事やと教わり始めました。
最初は意味わからなかったですね。習字教室ではそこまで進んでなかったものですから、書道は毎月貰う手本を書くもんや、書いてたら上手くなるんやろ?てなもんです。
通い始めて数年経ち、言われ続けてやっとこさ、先生のおっしゃる意味がわかりました。時間かかりましたわー笑
それからというもの、自分で古典を見て、臨書する、というのが楽しくなってきました。
ですので、今全然自分で臨書してないとか、そもそも臨書の重要性がわからん、という方もいらっしゃるかもしれません。が、安心しください。僕は皆さんの味方です。僕もその道を通ってきました。
例えば、こわなこと聞いていいのかな、なんか聞きづらいな、なんて思うことあるかもしれませんが、遠慮なく聞いていただけたらと思います。
何しろ私は今年で38歳、皆さんの人生の後輩です。僕が先に謝らなくてはいけませんね。今日は緊張しておりますので、変なことも言うかと思います。ごめんなさい。
さて、本日は米芾さんが書いた、蜀素帖という作品についてやらせていただきます。皆さん、米芾はご存知でしょうか?知らないよーという方は、毎月の太源誌をよく見てください。随意部に載ってますよー。さらに言えば、先月の10月号の最初に、僕が書いた米芾の記事があります。頑張って書いたので、また見といてください。いえ、今日同じ内容を話すので、読まなくていいかもしれません。
では、本日の目標についてお伝えします。米芾がうまく書けるようになった!これは僕の指導力では難しいかもしれません。時間も短いですしね。ですので、米芾知らんかったけど、興味わいてきた。本持ってないから買おうかな、本持ってるから見てみよ、自分で本見ながら臨書してみるか。と、そんな感じで一歩先へ進んでいただけたら、そのお手伝いが出来たら最高だなと思っております。
では始めていきたいと思います。
宋の時代感
最初にお断りしておきますが、僕が話す内容は、なんとなくの理解を優先してますので、正確でないところもあるかと思います。正確なことは、お手元のプリントや、この本から引用しました、というのは書いてます。帰って興味あったら読んでください。
ではまずキーワードはこれです!「貴族から士大夫へ」
さて、米芾は宋という時代の人です。年表を見てみましょう。まず王羲之は4世紀の人ですね。その後唐という時代、顔真卿とかですね。その後に宋という時代になります。
詳しくは省きますが、唐までの時代は、いわゆる貴族が学問、芸術の中心でした。王羲之も貴族だし、顔真卿も貴族じゃないけど由緒ある家、みたいな感じです。
ところが宋になると、科挙という国家の超ゲキムズ試験に合格した官僚、士大夫などとよびますが、が、学問や芸術を担うようになります。科挙自体は唐より前の隋からあったんですけどね。
さて、貴族の手から離れた書はどうなったか。それまでは、非の打ち所がない完璧なまでの書法が追求されてきました。貴族らしいですね。それから一変、もっとそれぞれの個性を出していこうじゃないか!という風潮が盛り上がってきました。そんな感じだと思ってください。
宋の四大家と比較して
さて次、このキーワードを出せば宋のこと知ってるなと思われます。それが「宋の四大家」です。
宋の時代には、四大家と呼ばれる、四人の超字がうまい人がいます。蔡襄・蘇軾・黄庭堅・そして米芾の四人です。この四人の特徴を、これまたざっくりと説明します。正確に把握したい方は、また読んでください。
まず、蔡襄は、伝統的な書法を継承することが大事!という考え方です。ところがその古典主義すぎるせいで、最近は四大家じゃなく、三大家と書かれてる本が多いです。この中で一番年上なのに可哀想ですね。たしかに、この有名な二玄社の60冊のシリーズに、蔡襄はありませんわ。資料作るまで気づきませんでした。
はい、次はまとめて蘇軾と黄庭堅。字を見てもらったらわかりますかね。この二人は、自由で個性的な書風大事!法則に囚われては字は書けない!てな考えです。時代に合ってますね。
米芾ってどんな人?
では、そんな時代の米芾についても触れておきましょう。キーワードは「天才!変人!」です。
米芾 天才とか奇人とかで調べれば、たくさんエピソードが出てきます。天才とはそういうものかもしれませんね。他の歴史上の書家とかは、官僚としても頑張ってて、で、字も書ける。みたいな感じなんですが、米芾は違います。書画に非常に通じてたということだけで、歴史に名を残した人です。
どういうこっちゃ、説明するのに、米芾の印象深いエピソードをお話しておきましょう。
科挙という激ムズ試験に合格した士大夫が、芸術の中心でした、というお話でした。米芾も、もちろん官僚でした。じゃあ芸術も学問もできて天才やって話になるかといえば、そんなことはなかったんですね。実は、米芾のお母さんが、皇帝の奥さん、皇后さんですね。皇后の乳母で、皇后に仕えていたと。そのコネで、ゲキムズ試験の科挙を通らず、官僚になったらしいです。ラッキーですねー。
そんな感じで官僚になったはいいものの、普通の官僚のお仕事、というのは向いてなくて、熱心ではなかったみたいです。が、溢れる芸術の才能があったためか、書画学博士という仕事が新しく作られ、宮中の名跡の鑑定の仕事を与えられたそうです。凄いですね。どんだけ才能溢れてたんでしょうね。まあそんな人です。
そして米芾のスタンスはというと、歴代の古典を学び、その風格を持って自分の書とする。という考えです。どうですか、皆さん先生に言われたことあるような気がしませんか。先生が急に言いだしたことじゃないんです。1000年前から言われてることなんですね。
もちろん先ほど言いました宋の四大家全員、古典をしっかりと学んでいます。その上で少しずつ考えが違い、それが書風に表れているのかもしれませんね。
紹介の最後に、有名な米芾の言葉を紹介しておきましょう。
「自分は壮歳、まだ一家を成すことができなかった時には、人は自分の書を集古字であるといった。これは自分が諸の長処を取り、それを綜合して完成を期したためである。老年になって始めて一家を成してからは、人は自分の書を見ても何を祖としたかを知らぬ」
蜀素帖について
さて、やっと今日やる蜀素帖についてです。キーワードは、「これぞ作品!」です。
最初と最後の部分をプリントに載せました。まずは鑑賞してみましょう。
どうでしょうか、僕は非常にカッコいいと思うんですよね。字の形とか、並びとか、線の爽やかさとかね。皆さんはどう感じるかは自由です。でも、できればプラスの印象を持ってくれると嬉しいですね。
なぜなら、この作品イマイチやなーと思いながら書いてると、全然良いことないと思うんですよね。ですので、この作品が嫌いやなと思った方、1時間だけ自分を騙して、好きになってください。
さて蜀素帖について。蜀という地域で作られた、素、これは白絹ですね。に書かれたものってことで蜀素帖とよばれてます。罫線が入っているのが分かるでしょうか。これは後から書いたのでなく、織り込まれてるんですね。もともと字を書く用に作られた生地です。米芾が38歳の時、とある地方の知事に招かれ、求められて自作の詩を書いたんですね。僕も38歳なんですけど、38歳で歴史に残る作品を書いたって、やっぱすごい人なんですよね。
色々話しましたが、軽く押さえておくのは、紙ではなく絹に描かれている、手紙文や記録文ではなく、作品として書いている、というくらいでしょうか。
字形、特徴について
つぎにやっと、字形の特徴です。
キーワードはこれです!バン。
なんのこっちゃ。説明しましょう。
次のぺージで一字一字を細かく見ていきましょう。これは蜀素帖ではない作品ですが、米芾の字の特徴を説明してくれてます。いっぱいあるので、細かく言うと時間がないし忘れちゃうので、特徴的なとこを2つ、ご紹介します。とりあえずこれだけ覚えて帰ってください。
まず1つ、太い細いから生み出されるリズムが大事です。
ぐっと押し込んで太く、そして筆をつり上げて軽く、と自在に筆を操ってます。もちろんそれを形として真似するのは大事ですが、更にもう一歩。筆を押さえ込んでるということは、力をためてる。筆を吊ってるということは、力を解放してると考えてください。ぐっと押さえてサッと動かして……リズミカルじゃないですか?
皆さんの中にも、筆を一定スピードで動かして、作品に覇気がない、タラタラ筆を動かすな、なんてこと言われたことあるんじゃないでしょうか。それは太い細いを、筆の動きとして捉えていないのかもしれませんね。是非太い細いから、リズム感を感じ取ってください。
そして2つ目はこれ、頭でっかちで、左に傾いている、というところです。
ページ末に特徴的なところをピックアップしてますので、見てみてください。確かにそうだなーと思える部分を取ってきてます。これが米芾だけの特徴かといわれると、別にそうでもないんですよね。
人間が右手で自然に横線を引くと、普通少し右上がりになります。体の構造上ね。楷書、行書、草書は、右上がりの線で構成されるのが基本です。書きやすいというのもあるし、カッコよく感じるんでしょうね、多分。
この右上がりの線で文字をいかに美しく構成するか、それが上下左右対称ではなく、頭でっかち左傾きだったんじゃないかと思います。勝手に思ってるだけですよ笑
さて、ここまでそれっぽいことを話していましたが、皆さん、騙されてはいけません!
先ほどの例は、僕の話に合うよう、都合よくピックアップしてきたものです。実際、頭でっかち左傾きでない古典はたくさんありますし、米芾の蜀素帖の中でもそういう字はあります。ただ、最初に、頭でっかち左傾きという大枠があることによって、それと違う字が、より引っかかる、観察できるようになると思うんですよね。ですので、違うやん!って思った字は、なぜそうなってるのか、この線は左に傾いてない方がバランスとれるのかな?とか、足長のほうがいいのかな?なんて思いを馳せてください。書道やってるな!って感じがしませんか?
さて、ここでお話は一旦終わりです。
喋りすぎてしんどいので、10分程休憩時間をください。その間、皆さんは自由に蜀素帖を書いてくださいね。助講師の先生方、お手伝いをお願い致します。
また時間が経ったら半分ずつ前に来ていただいて、実際に臨書をする時のお話などをしたいと思います。
それでは、どうぞ!
臨書のやり方について
では半分の皆さん、こちらへどうぞ。
今日は僕の思う臨書のやり方、を2つのポイントに絞ってご紹介したいと思います。皆さん、先生にもらったお手本以外で、自分で臨書してますか?僕は結局、それが1番楽しいんですよね。でもそんなんやれへんわー無理やわーという方の為に、まず1つ目のポイントです。こうしたら書けるな、というのを見つけてください。
どういうこっちゃい。やっぱり、僕がお手本用意したら、皆さんそっちの方書く方がいると思うんです。でも僕としては、米芾の書いたやつを見て臨書してほしい。そりゃそうですよね、米芾は歴史に名を残してますが、僕は38歳なだけです。
臨書って難しいことが多くて、その1つが、小さいものを、拡大しつつ、真っ白な半紙にどこに、どの大きさで書くが考えつつ、文字の形を見て、筆使いも、、、やること多すぎなんですね。だから実寸大の手本があるとそっちを書いちゃうんですよね。でも先生に全部手本書いてください!って頼むのも無茶なんで、貰った手本のとこだけ書くってなるんですよね。でもそれじゃさみしい、なんで、色んな工夫をして、自分が書けるように機嫌をとってください。どうしても本の小さい字ご無理だという方は、拡大コピーなど活用してください。半紙に6文字納めるのが無理なら、4文字でも2でも1でも、なんなら8とか10でもいいです。本を最初の一文字から書く必要もありません。この字カッコいいなと思えばそこを書いたらいいし、一箇所を何回も書くのが好きな人もいれば、僕みたいに頭から最後まで1枚ずつどんどん書くのが好きという方もいるでしょう。
とにかく、書かない、という状態から、自分で書くと、いう状態への段差を、あらゆる手を使ってなだらかにしてあげましょう。
続いて2点目、実際に書いてみる段です。書いてみると、難しいですよねー。全然違うやんて。考えたら当たり前なんですけどね。方や中国の国宝。方やただの38歳です。
難しいという方は、もしかしたら理想を求めすぎているのかもしれません。パット見てスラスラ書けるのがもちろん理想なのですが、どうしても無理だという場合は、分割して考えましょう。形、動き、リズム、収まり、などなどです。
例えばまず、この一枚は形に注目するんやという気持ちで書いてください。どうしてもゆっくりめになると思います。しょうがないです。で、書き終わったら、よく見てください。自分の字もよく見てください。お手本をよく見るのは当たり前ですが、自分の字を、よく見てください。色々クセとかに気づくと思います。全然クセないわー完璧やわーと思う方は、朱液を買ってください。自分が先生で、この作品を添削しなあかん、と思うと、案外直すところが見えてきますよ。
またこの場合、道具も大事です。皆さん、羊毛の筆使ってますか?だとしたら難しいかもしれないです。だってこの作品、どう見ても先が効く硬い毛の筆で、滲まない絹に書かれてるんですもん。羊毛で、よく滲みかすれる紙使って、うーん、蜀素帖のキリッとした感じが出んなー、って、そりゃ出にくいよねーです。道具もだいじですよ。
次に例えば、この一枚は動きに注目するんやという気持ちで書いてください。動きに重視といっても、やたら速く書くのではありません。止まるところは止まり、リズムよく、達人みたいなイメージで書くんですよ。さっきより形が悪くなります。しょうがないです。そうすると、ここスムーズに書けへんな、なんか筆の動きおかしいなって気づくことがあります。そうすればしめたもの。そこが解消できれば、確実に上手くなれたってことですもんね。自分で何回も書いて解消するもよし、先生に見せてもらうもよしです。
という感じで、①自分の機嫌をとる。②自分がなにをやりたいかを確認する。
という感じですかね。
繰り返してるうちに、本をぱっと開いてさっと半紙に臨書できるようになると思いますよ。そうすれば楽しい臨書ライフの始まりです。
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