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だから今日も、鏡に向かって笑う。

楓芽(息子)の風邪がぶり返している。

僕も小さい頃は、保育園から風邪やインフルエンザといった病を持ち帰る子どもだった。ただひとつ違うのは、僕がもれなく家族全員に配っていた反面、楓芽は自分の中で抑え込んでしまうことくらい。この子は強い。

「2週間分出しておきますね」と言われた薬が、年末年始を見越したものだということに気づいたのは家に帰ってからだった。

未だに耳鼻科に連れて行くときは唯(妻)に病状を確認しているというのに、楓芽と2人で出掛けると会話が成り立ってしまう。1年前の今ごろは、どれくらい喋ってたっけ。


物書きとしてのキャリアを歩み始めてからというもの、1日は一瞬で終わり、1年はひと息で過ぎ去ってしまうようになった。

仕事さえ多忙を極めているのに、声が掛かれば、書きたいと思い立てば、あれやこれやと詰め込んだスケジュール。何かに追われ、振り払っては次が押し寄せる。長距離走を苦手とする僕が襷を繋ぐ原稿用紙に勝てるはずもなく、年々早くなる時の流れは容赦なく焦燥感と虚無感を掻き立てる。

忙しない日々の中で、えっへん!と胸を張れる文章をいくつ書けただろうか。

初めて筆を執ってから2年半。300円だった単価はみるみるうちに跳ね上がり、ついこの間までは物書きとして生きて(生計を立てて)いくんだ!なんて意気込んでいた。

これからは個人で稼ぐ時代だ!とか、自分の好きなことが仕事に変わる!とか、自分がない僕はそういったキラキラした潮流に綺麗に流された。厳密にはそこまでギラついた感覚はなかったけれど、類は友を呼ぶとはよく言ったもので、周りにもリベラルな人たちは多かった。

着飾った僕は、類友と一緒にいる時間を心ゆくまで楽しんだ。毎日が刺激的で、盲目的になったことにさえ気付かないもんだから飽きもしない。いまを自分らしく生きて、将来を見据えている気にもなって、続きもしない繋がりを作るために所狭しと細い糸を張り巡らせることに躍起になった。

その勢いは留まることを知らず、以前までの自身にも刃を向ける。あのときは長崎に何もないと思ってたから。物書きになるまでは目の前の仕事をこなすだけだったから。まるでそれが悪だと言わんばかりに。

そうして積み上がった実績は僕の世界を広げたけれど、それと同時に振り返る道を閉ざした。声が掛かることに価値を見出して、この時間は「未来への投資」だと休むことを選ばなかった。

まるでクスリに依存しているかのように「未来への投資」とやらを惜しまない僕は、その環境にいる自分自身を失うことへの恐怖心をかき消すために投資をしていたのだ。

そうして訪れた年の瀬。12月30日までせっせと言葉を紡ぎ続けた僕は、ついに仕事納めた。見えないように抑えこんだ、という表現が正しいのかもしれない。

何もない休日に近所のスーパーに買い物に行き、実家でゴロゴロしながら楓芽と戯れる。目にかかるほど伸び腐った髪の毛をバサバサと切ると、昨日までの忙しなさを一緒に切り落としてしまったような気分になった。

大晦日、義母の実家のある佐賀県唐津市神集島へ。電波も届きづらい島で義弟夫婦とマリオパーティーをして、昼寝でみんなが寝静まると読書に耽った。夜にはお寿司を食べて、紅白を見て、年が越えるのを待たずして眠りにつく。

これほどまでに自由な時間に感動した。

そして僕は気付いた。

この心地良さは、決して悪なんかじゃない。

片方の腕だけじゃ抱えきれなくなっていた楓芽の成長も、抱えきれない仕事の量にかき消されてしまっていた。ほんとうに情けない。

病院帰り、なぜか薬を「おいしいもの」だと認識している楓芽が僕に聴く。

― とうと、楓芽とクスリ、どっちが好き?

― とうとは、楓芽が大好きだよ。


…と、ここまで書いてあたためていた文章で感動のフィナーレを迎えるはずでした。一昨日の夜、僕の身に起こった出来事さえなければ……。

1月10日くらいから、連日のように深夜までパソコンと向き合っていました。ひたすら書きました。(ショートショートの添削もあったけれど)

眠いけど、意外と夜更かしイケんじゃん!

そう思いながら執筆を続けて10日ちょっと、「今日は22時までで止めて寝よう」と思ったのが一昨日、22日です。

22時までに終わらせたかった原稿が思うように進まず、明日に回そうと諦めて布団に入りました。

すると眠たいはずなのに意識は飛ばず、Wordの画面で文字を書いては消し、赤を入れ、また書いては消し……そんな映像が脳裏に浮かんで止まらなくなりました。

音楽を聴けど、ドラマやアニメを観れど、まったく消える気配のない映像。書くことに対して一切の悩みも抱いてなかったので、最初は恐怖よりも戸惑いが大きかったです。

一時はこの現象をツイートしようと思い立つも、あれ?コイツ急に病んでないどうした???みたいになるのも不本意で、それがなくともリプライに返答する余裕があるはずもなかったので下書きにそっと保存(……してたけれども、ここでポイ!)。

結局そのあと眠れたんだけど、朝起きると汗がびっしょり。その日も原因不明の高熱に襲われ、せっかくの家族の休日を不意にしました。

たぶん、というかほぼ確実に疲労のピークだったと思う。あまりのしんどさに物書き嫌いになるところでした。

この文章はてんびん座と別で書こうと思っていたし、最後乱文になってしまったけれど、まじで休むときはちゃんと休んだ方がいいよ!!!ということを声を大にして伝えたくなったので急遽てんびん座にぶち込みました。(今はもう完全復活してます!)

久しぶりの更新なのに、ヘビーすぎない???

次からはもう少しライトにいきます。なので、これを読んでいるあなた。今年もてんびん座をよろしくね。

もりきょん、今年もよろしくね。

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