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「令和の桃太郎なめんじゃねーぞ」第三話

〇戸鞠の車内
戸鞠が運転している。後部座席で腕と足を縛られた状態で横に倒れている騎士、目を覚ます。
騎士(⁉)
騎士、運転している戸鞠に気づく。しかし状況を把握できない。
騎士(えっとオレ…あの女の家出て…、うっぷ(吐き気を催す)、そうだ居酒屋で酒しこたま飲んで…うっぷ(再度吐き気)、気持ちわりー…吐きそ…、うっぷ)
吐き気と酔いで考えに集中できない騎士。
騎士(…これあの女の車?まさか拉致られた?くそっ)
騎士、縛られたまま勢いよく腹筋を使って起き上がり、戸鞠に向かって
騎士「てめえ、今すぐ引き返せ」
戸鞠「え?3時間は目覚めないはずなのに…」と少し驚く。
騎士「ぜってー許さねーからな」
戸鞠、騎士を無視して運転を続ける。
騎士「聞いてんのか?」
戸鞠「縛られてる君に何ができるの?」鼻で笑う。
騎士「なっ!!」頭にくる騎士。
しかし縛られている騎士、身動きがとれない。
騎士「くそっ」
戸鞠「君はね僕のしもべになるんだよ。やっとみんなを見返せる…やっと…フフ…」と勝ち誇ったように話す。
騎士「しもべ?は?あの女は?」
戸鞠「あの女?」
騎士「お前あの女の運転手だろ、あの犬田薬品の…」
戸鞠「犬田薬品?(少しおどろくも合点がいたように)はは、やっぱり犬は犬田薬品だったのか」
騎士「あの女の運転手じゃねーのか?」
戸鞠「…あの女っていうのは、もしかして薫子さんの事?」
騎士「かおるこ?さあ名刺もらったけどよく見てねーし」
戸鞠「今持ってる?」
騎士、さすがに状況が変だと気付き「いや…」目をそらす。
戸鞠「…(騎士をじっと見る)」
戸鞠、車を停車し、降りて後部座席にやってくる。
騎士「(慌てながら)今もってねえし、家っ‼家だってっ‼」
騎士縛られた腕と足で抵抗するも、男に無理やりポケットの中をまさぐられる。
騎士「ちょ触んな」ぺぺぺと、戸鞠に唾を吐くも、戸鞠、嫌そうな顔をしながら騎士のポケットから名刺を取り出す。
戸鞠、名刺を見ようとした瞬間、
騎士「うげええええええええ」と暴れた衝動で抑えていたゲロを名刺を持った戸鞠の手に吐き出す。
戸鞠「うわっ」思わず腕を上げ、ゲロを振りほどこうとして名刺を落とす。戸鞠車外にでる。
騎士、その開いたドアから外に頭からダイブする。頭をコンクリートで強く打つ騎士。
騎士「いってーーーっ」
戸鞠、驚き、慌ててスタンガンを取り出し騎士に当てようとする。
騎士「やめろ」
その瞬間、戸鞠に何かスプレーをかける人間が現れる。
戸鞠、倒れる。
騎士、その人間を見上げる。
佳樹とその後ろには腕を組んだ薫子がいた。

〇道路(深夜)
戸鞠の車が止まっている。
何やら作業して、車内から出てくる佳樹。薫子はタブレットを操作している。
腕と足を縛られたまま道路に横たわっている騎士。
佳樹「(薫子に)レコーダーは無く、その他通信機器も設置されていないようです」
薫子「(少し先にある家を指しながら)あの赤い屋根の家とその東二軒隣の監視カメラは消せますか?」
佳樹「すぐ手配します」といって、戸鞠の車の先に止めてある薫子の車に向かう。
騎士「(薫子に)ほどいてくんねーの?」
薫子「(騎士をチラッとみてすぐタブレットに目を戻し)処理がすんだら」
騎士「なんでだよ?」
薫子「また問題起こされたら困るの」
騎士「(むっとして)問題ってなんだよ」
薫子「(首で周辺を示しながら)わからない?」
騎士「助かったんだからいーんじゃねーの?」
薫子「(大きなため息をついて)この男にあなたのことがばれた。おそらく鬼の一味。まずこの男を消さないといけない。そしてこの出来事丸ごと無かった事にする必要がある。それが今の時代どれほど難しいか分かってる?」少し苛立ちながら言う。
騎士「消すって…」薫子の苛立ちより、消すという言葉にビビる騎士。
薫子、騎士を無視してタブレットを操作している。
騎士「ウソだろ、な、だって犯罪だぞ?や、マジジョーダンきついって」とひきつった顔で薫子を覗き込む。
薫子「私冗談言わないって言わなかった?」
騎士「…(愕然)」
騎士「(慌てて)本当に悪かった、マジであんたのゆーこと聞く。マジで、ほんと、こんなメンドー起こさない。あんたの家にいるよ、な、だから殺しはやめよう、ね?ね?」
騎士、事の重大さにビビりまくる。
騎士(え、オレのせいで人が死ぬの?確かにオレ拉致ったヤローだけど…)
そこへ佳樹が戻ってくる。
騎士(このオッサンに説得してもらおう)
騎士「(佳樹に)あの、この人(薫子を指し)、殺すとか言ってんスけど、そのやめさせたほうがいいっスよね。だって犯罪だし、ねえ…」
佳樹「薫子様はこのような事態を危惧し、家に留まるようお勧めになりました。それを無視し、事を起こされたのは他でもない騎士様でございます」
騎士「…」
八方ふさがりの騎士、やぶれかぶれに
騎士「あーもーほんとになんでもするっ。桃太郎の誓いでもなんでもやるっ!!だから殺しだけはマジでカンベンしてー…お願いだからー…」少し半泣きになりながら叫ぶ。
執事「(騎士を見て)…。(薫子に)この男調べましたら、阿久津戸鞠のようです」
薫子「阿久津戸鞠?…って(思い出しながら)高校の時の同級生?」
執事「はい、今は阿久津の孫会社の社長をしています」
騎士、殺すのを思いとどませるチャンスと思い、「そっ、なんかこの人、あんたのコト知ってた、知ってたよ。知り合いなんじゃない?」
薫子「…という事は阿久津グループが関与しているという事…」
執事「彼が姿を消せば色々ややこしくなるかもしれません」
考え込む薫子。
騎士「そ、そうだよ、なんとかオンビンにすまそっ」畳みかけようとする。
薫子「静かにして」
騎士「…はい」

〇道路(早朝)
朝日が差し込む通り。
戸鞠の車が止まっている。
戸鞠、運転席のハンドルにうつぶせになっているころ目を覚ます。
阿久津「…ん…?」
はっとして後ろの後部座席を振り向くと、腕を組んで座った薫子。
阿久津「⁉」
薫子「取引をしましょう」

〇阿久津グループ本社・秘密の会議室(夜)
洋風の大部屋。
十メートル以上ある長いラウンドテーブルにスーツや高級ブランドで身を包んだ3~40人の老若男女。戸鞠、阿久津流花、阿久津正木もいる。中心には車いすの阿久津幻氏、その横には多賀薗が座っている。
阿久津幻氏「まだ見つからないのか」少し苛立ちながら言う。
50代男性A「申し訳ありません。手は尽くしておりますがまだ…」
多賀「思ったよりも該当者が多かったようです」
40代女性「一人一人探していけばそのうち見つかるわよ」
幻氏「そんな悠長な事言ってられん」
正木「てか提案なんだけどさ、桃太郎もいいけど、ほかの犬猿雉も殺してった方が良くない?」
20代男性A「そうそう、誰か分かんないんだったら、とりあえず名前のつく奴全員殺してけばさー。やつら全員揃わないと封印できないんだろ?」
50代男性B「桃太郎探すだけでもこれだけの事件になってるんだ。これ以上騒ぎは起こせん」
多賀「確かにそうですが、未だ桃太郎はおろか、犬猿雉誰一人も正体がわからないのであれば、検討する価値があります。正木、お願いできますか?」
正木「(嬉しそうに)ああ、計画立てて来週には出す」
多賀「他に何かないですか?…戸鞠は?」
自分に質問が来た事に少し驚く戸鞠。
正木「戸鞠にあるわけないじゃん。」笑いながら言う。
戸鞠、むっとする。「僕は…」
と言いかけたところで、薫子と話した事を思い出す。

〇戸鞠の回想・戸鞠の車内(早朝)
薫子と戸鞠が話している。
戸鞠「まさか薫子さんが犬だったとはね。何度も調査したけど、そんな証拠1つもでてこなかったよ。さすがだね。で、取引って?」
薫子「簡単な事よ。今日あった出来事を漏らさない。それだけ」
戸鞠「僕がそれに乗ると思う?」
薫子「乗る」
戸鞠「なんで?」
薫子「鬼が復活した所であなたにメリットは無い。鬼の復活後も阿久津の末端でしかない」
戸鞠「(ムッとしながら)わかんないよ?第一僕が鬼を復活させたら、僕が主人だ。邪魔されなかったら今頃僕はー…」
薫子、主人のフレーズに反応する。
薫子「(言葉を選びながら)…でもあなたが復活させない限り主人にはなれない…。そうでしょう?」
戸鞠「そうだけど、今桃太郎が誰だか知ってるのは僕しかいな…」
薫子、戸鞠を遮り「あなたが気を失ってる間にマイクロチップを入れた。その中には毒も仕込んである」
戸鞠「‼」
薫子「あなたが話したらすぐ毒を放出させる」
戸鞠「そんなことできるわけない」
薫子「(戸鞠に顔を近づけ)なんのために犬が製薬会社を経営してると思ってるの?」
戸鞠「…」
薫子「あなたが何もしなければ私も何もしない。あなたはただ私たちが鬼を封印するのを黙って見てればいい。そしたらあなたには犬田薬品本社役員の椅子を用意する。悪い話ではないでしょう?」と戸鞠の顔を覗き込む薫子。
回想終了

〇阿久津グループ本社・秘密会議室(夜)
出席者全員の視線が戸鞠に向いている。
戸鞠「僕は…、…何も…」
正木「ほらね。戸鞠に何かあるわけないよハハ」
皆呆れたように戸鞠から視線をそらす。
悔しそうな戸鞠。

〇阿久津グループ本社・地下駐車場(夜)
会議出席者全員が会長が乗っている車を見送っている。
会長の車が角を曲がり、見えなくなる。
「大した進展もないのに毎週毎週めんどーだよな…」など会議や幻氏に対する不満をぼそぼそと話しながら、皆それぞれの車に歩いていく。
戸鞠、一人ロビーに上がろうとエレベーターのほうへ向かう。
流花「(戸鞠に)車じゃないの?」
戸鞠「ああ、吐いてシート汚したから」
流花「どっか悪いの?」
戸鞠「いや、酔っぱらって」
流花「お酒飲まないんじゃなかった?」
戸鞠「あ、ああ…友達がさ…」
流花「…」不審そうに戸鞠を見る。

つづく

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