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#67 腸管出血性大腸菌とベロ毒素。食中毒のメカニズム。

現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

本日の主役は、腸管出血性大腸菌です。

腸管出血性大腸菌と聞いてもピンとこない方がいるかも知れませんが、一例をあげると知っている方もいると思います。腸管出血性大腸菌O-157です。O-157というのは、腸管出血性という性質のある大腸菌を、細胞の表面に存在する抗原によって分類した、細菌株の名前の通称です。O抗原については以前にお話しているので、合わせて御覧ください。

O-157と聞くと、真っ先に連想されるのは食中毒ですね。今回は、腸管出血性大腸菌がベロ毒素を放出することで、食中毒が引き起こされるというお話をしていきます。

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

腸管出血性大腸菌の感染力

まずは、今回の主役である腸管出血性大腸菌のお話。英語ではEnterohemorrhagic Escherichia coli:EHECといいます。Enteroが腸、hemorrhagicが出血を意味します。

私達のお腹に存在する大腸菌は、基本的に無害です。しかし、大腸菌にも色々な株が存在しており、腸管出血性大腸菌は毒素を生産する能力を獲得した大腸菌です。腸管出血性大腸菌が腸内に感染することで、食中毒症状を引き起こします。

食中毒による症状は様々で、無症状の方もいれば、血便が出たり、子供や高齢者については溶血性尿毒症症候群や腎臓障害、神経障害を合併する場合もあります。

腸管出血性大腸菌は、ベロ毒素と呼ばれる毒を放出します。ベロ毒素については後で詳しくお話しします。また、腸管出血性大腸菌は酸に対する抵抗性があるため1*、胃酸によるバリアを通過することで腸管内に到達します。また、耐酸性があることからpH4.4以下の酸性の食べ物においても増殖することが知られています2*。

さらに、腸管出血性大腸菌の感染は、様々な記述がありますが、約50個程度3*の生菌で感染が成立するとされています。細菌のレベルで考えると、非常に少ない数で感染するということです。

以上、耐酸性と少ない生菌で感染するという要因によって、O157の感染力が高く二次感染も起こりやすいのです。

ちなみに、O157株以外にも、O26株やO111株などの腸管出血性大腸菌も知られています。

では、腸管出血性大腸菌はどのようにして、食中毒を引き起こすのか。ポイントになるのは、ベロ毒素です。

ベロ毒素とタンパク質合成阻害

ベロ毒素(Vero Toxin: VT)とは、1977年に発見されたタンパク質性の毒です。発見者の実験では、ベロ細胞に対して致死活性が示されたことからベロ毒素と名付けられました4*。

ベロ細胞とは、アフリカミドリザルの腎臓上皮細胞に由来する細胞で、1962年に千葉大学の安村先生が分離しています5*。

後々、ベロ毒素を産生するのは腸管出血性大腸菌であることがわかりました。ベロ毒素が赤痢菌の産生する志賀毒素と類似することが見いだされ、ひとまとめに志賀毒素ファミリーと呼ばれます4*。

ベロ毒素には、VT1とVT2の二種類が存在します。VT1が志賀毒素と同一であるのに対して、VT2は異なります6*。いずれのベロ毒素もAサブユニットとBサブユニットから成ります。

ベロ毒素の作用機序は次の通りです。ベロ毒素のBサブユニットが細胞膜への結合を仲立ちして、Aサブユニットが細胞内に送り込まれ、Aサブユニットが細胞内のタンパク質合成に重要なリボソーム分子の一部を破壊することで、細胞死を引き起こします7*。

なんとも良くできていて、怖い毒素です。

腸管出血性大腸菌による食中毒の大まかな流れ

最後に今回のエピソードのまとめとして、腸管出血性大腸菌による食中毒が起こるまでの大まかな流れを説明します。

加熱処理などの殺菌不足の食事に、腸管出血性大腸菌が付着しています。腸管出血性大腸菌は、数十個の摂取により感染が成立する細菌であり、産生するベロ毒素は腸管上皮細胞のタンパク質合成を阻害します。また、ベロ毒素が血中に侵入することで腎臓障害や神経障害などの合併症を引き起こします。

見えない相手だからこそ、対策が難しいというのも事実。定期的な研修によって、食品衛生への意識を高めるなどの対策が大切になります。

以上、腸管出血性大腸菌とベロ毒素のお話でした。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

1* 腸管出血性大腸菌感染症とは, 国立感染症研究所, Access:2022/10/28

2*志賀毒素産生性(腸管出血性)大腸菌について (ファクトシート), 厚生労働省検疫所FORTH, Access: 2022/10/28

*3 腸管出血性大腸菌感染症, 感染症クイック・リファレンス、一般社団法人日本感染症学会、Access: 2022/10/28

*4 For Your Information, ファルマシア, 2006, 42 巻, 4 号, p. 324.

*5 Vero細胞の物語(2015), 国立感染症研究所, Access: 2022/10/28

*6 ベロ毒素, 愛知県衛生研究所 衛生化学部 生活科学研究室, Access: 2022/10/28

7* JOSÉ L. PUENTE, B. BRETT FINLAY,CHAPTER 9 - Pathogenic Escherichia coli,Editor(s): Eduardo A. Groisman,Principles of Bacterial Pathogenesis,Academic Press,2001,Pages 387-456,Chapter 9- Pathogenic Escherichia coli.

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