#187 通称ウェルシュ菌のClostridium perfringensとはどのような腸内細菌なのか?
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今回のエピソードにてお話するのは、自然界に普遍的に存在して、かつ食中毒の原因菌としても知られる、Clostridium perfringens、通称ウェルシュ菌についてのお話をしていきます!ウェルシュ菌は、集団食中毒の原因菌として、年間数十件の頻度で検出されており、食品衛生管理の観点からは有名な細菌です。このウェルシュ菌は、実はヒト腸内に存在する事例も確認されています。では、なぜ食中毒を起こさずに済むのでしょうか?そんなウェルシュ菌についての謎について、今回のエピソードでは答えていきます。
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ウェルシュ菌の生態
まずは、ウェルシュ菌の生態からお話します。ウェルシュ菌は、偏性嫌気性のグラム陽性細菌で、芽胞を形成する桿菌です1)。この、偏性嫌気性細菌であることと、芽胞を形成する能力が食中毒の発生に関係してきます。
菌の名前はClostridium perfringensであるのに対して、なぜウェルシュ菌と呼ばれているのでしょうか。それは、発見者の名前にちなんでいます。アメリカの病理学者であるWilliam H. WelchとGeorge H. F. Nuttallの研究により、1892 年に発見されたことにちなんで2)、Welch(ウェルシュ)菌と慣用名で呼ばれています。また、種の名前であるperfringensは、ラテン語で破壊することから来ています3)。
ウェルシュ菌は自然界に普遍的に存在しており。ヒトや動物の腸管内4)、土壌や下水、食品や塵埃など5)に存在しているとされます。つまり、ウェルシュ菌が食品に付着することを防ぐのは、非常に難しく、適切な衛生管理を行う方が現実的です。
では、ヒト腸内に存在する場合があるにも関わらず、食中毒が発生しない場合があるのはなぜでしょうか?腸内細菌相談室の別のエピソードを聴いている方であれば、理由を予想ができると思います!
理由は、ウェルシュ菌の中にも機能の多様性があるためです。例えば、食中毒を引き起こすのはエンテロトキシン=毒素を芽胞形成時に産生するタイプのウェルシュ菌ですが、エンテロトキシンを産生しないタイプのウェルシュ菌も存在します。つまり、エンテロトキシンを産生するウェルシュ菌に汚染された食品が、食中毒の原因となります。
ウェルシュ菌と食中毒の関係を更に詳しく見ていきます。
ウェルシュ菌と食中毒
ウェルシュ菌への感染については、国立感染症研究所の2006年の記事が参考になります6)。ウェルシュ菌による健康被害は、食中毒の他にもガス壊疽、化膿性感染症、敗血症が知られています(ちなみに、ウェルシュ菌が発見されたのは、ガス壊疽の症例からでした)。
ウェルシュ菌により汚染されている多くは、食肉や魚介類を取り扱った調理品であるとされています。食肉や魚介類にはウェルシュ菌により汚染されている場合がしばしばあることや、食肉に含まれる還元力のある物質(グルタチオン)、加熱による食品内部の嫌気度の増加と増殖においての至適温度になることが、ウェルシュ菌による食中毒を発生させる原因となっています6)。
エンテロトキシンの種類はα、β、γ、ι(イオタ)が知られており、これによってウェルシュ菌はA、B、C、D、Eの五種類に分類されますが、多くの食中毒ではA型菌が原因となるそうです6)。様々な機能をもったウェルシュ菌が知られており、加熱時に形成される芽胞の耐熱性も株によって異なります。多くのウェルシュ菌は易熱性の芽胞を形成しますが、エンテロトキシンを産生するウェルシュ菌は耐熱性の芽胞を形成することから7)、食中毒の防止には調理後の速やかな喫食や保存が求められます。また、エンテロトキシン自体は易熱性であることが知られており、時間をおいての食品の喫食の場合には加熱処理が効果的です。
そんな食中毒の原因菌であるウェルシュ菌ですが、腸内細菌としてはどのような役割があるのでしょうか。
ウェルシュ菌と人体
ウェルシュ菌は、様々な疾患との関連が研究されています。例えば。消化管に異常のある自閉症の児童(2-9歳)を対象とした研究では、自閉症や消化管異常のない児童と比較して、ウェルシュ菌が有意に多く検出されること、エンテロトキシンの産生機能が確認されたことが報告されています8)。
また、2001年から2013年にかけて行われた後ろ向き研究では、205114検体の中で33例、35検体=0.017%がウェルシュ菌陽性であり、33例の中で21例が敗血症、7例が菌血症を呈することが確認されました9)。この研究だけでは因果関係が定かではありませんが、少なくともウェルシュ菌は健康を害するリスクファクターになりうるということです。
その証拠の1つに、視神経脊髄炎を呈した患者の腸内においては、ウェルシュ菌が過剰に多く存在することも示されています10)。
自然界に普通に存在する細菌だからこそ、エンテロトキシンの産生能力を問わずウェルシュ菌にふれる機会は沢山あります。私達の健康とウェルシュ菌の関係についての研究は、まだまだ始まったばかりなので、今後の研究に期待です!
以上、ウェルシュ菌の生態についてお話しました!
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参考文献
1) クロストリジウム パーフリンジェンス, 菌の図鑑、ヤクルト中央研究所、Access: 20230303, URL: https://institute.yakult.co.jp/bacteria/4206/
2) 川端厚、ウェルシュ菌、特集 食中毒を防ぐ―各病原体の特徴と衛生管理のポイント、臨床栄養、127巻6号 2015年11月1日 p.773-778.
3) LPSN.dsmz.de Species Clostridium perfringens, Access: 20230303, URL:
4) Clostridium Perfringens, WISCONSIN DEPARTMENT of HEALTH SERVICES, Access: 20230303, URL:
5) 品川邦汎. ウエルシュ菌. 食中毒予防必携 第 2 版, p.105-112, 社団法人日本食品衛生協会, 東京(2007).
6) ウエルシュ菌感染症とは, 国立感染症研究所、Access: 20230303, URL: https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/324-c-perfringens-intro.html
7) 門間千枝、伊藤武.Clostridium perfringens. 食品由来感染症と食品微生物, p.380-400, 仲西寿男、丸山務監修、中央法規出版, 東京(2009).
8) Finegold, Sydney M et al. “Detection of Clostridium perfringens toxin genes in the gut microbiota of autistic children.” Anaerobe vol. 45 (2017): 133-137. doi:10.1016/j.anaerobe.2017.02.008
9) Shindo Y, Dobashi Y, Sakai T, Monma C, Miyatani H, Yoshida Y. Epidemiological and pathobiological profiles of Clostridium perfringens infections: review of consecutive series of 33 cases over a 13-year period. Int J Clin Exp Pathol. 2015 Jan 1;8(1):569-77. PMID: 25755747; PMCID: PMC4348875.
10) Cree BA, Spencer CM, Varrin-Doyer M, Baranzini SE, Zamvil SS. Gut microbiome analysis in neuromyelitis optica reveals overabundance of Clostridium perfringens. Ann Neurol. 2016 Sep;80(3):443-7. doi: 10.1002/ana.24718. Epub 2016 Aug 4. PMID: 27398819; PMCID: PMC5053302.