#93 経口FMTによる潰瘍性大腸炎の寛解。The Lancet Gastroenterology & Hepatology論文から。
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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回お届けするのは、炎症性腸疾患の1つである潰瘍性大腸炎への、糞便微生物移植(FMT)の応用事例について。従来のFMT事例の多くは、内視鏡による腸内へのFMTや、浣腸によるFMTによるものでした。今回は、より患者負担の少ない経口投与によるFMTを試験した事例になります。紹介する論文は、世界最高峰と称される医学ジャーナルLANCETの姉妹誌に掲載されています。The Lancet Gastroenterology & HepatologyのImpact Factorは、2022年11月調査時点で45.042と、驚異の数字(Impact Factorとは年間引用回数の指標です)。本研究は、2022年にオーストラリアのグループから発表された、"Lyophilised oral faecal microbiota transplantation for ulcerative colitis (LOTUS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial"という研究です。
経口FMTはどれほどの効果があったのでしょうか?早速本編に移りましょう!
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試験方法
試験期間は2019年5月20日から2020年3月24日までの1年弱で、COVID-19のパンデミックにより募集は早期終了しています。募集の結果、FMTを受ける群に15名、プラセボ群に20名が集まりました。
今回、潰瘍性大腸炎患者に経口投与するのは、凍結乾燥した糞便微生物です。凍結乾燥した糞便微生物は、抗生物質投与後に投与されました。試験は、オーストラリアの施設において二重盲検無作為化プラセボ対照試験によって行われました。対象者の年齢は18-75歳の潰瘍性大腸炎患者でした。
試験開始から8週目に、FMTを受けた患者は継続で48週間のFMTを行うか、あるいは中止するかをランダムで1:1に振り分けられます。
試験結果
FMT群の53%が、8週間後、つまり2ヶ月後に臨床的、または内視鏡所見として寛解しました。一方、プラセボ群の15%も臨床的、または内視鏡所見として寛解に至りました。有害事象は、FMT群で67%、プラセボ群で85%に至り、概ね軽度な消化器に関する愁訴=自覚による訴えでした。重篤な有害事象はとしては、潰瘍性大腸炎の悪化としてFMT群で13.3%、プラセボ群で5%でした。
さらに、FMT群において8週目に何らかの良い効果がみられた10名はFMT継続に4名、治療中止に6名が振り分けられました。治療を継続した4名については試験開始から56週目に臨床的、内視鏡的、組織学的な寛解がみられ、治療中止をした患者については寛解はみられませんでした。
潰瘍性大腸炎の悪化が今回のコホートではみられた点注意を要しますが、経口FMTの継続で53%が臨床的、内視鏡的に寛解し、56週目まで続けた患者については臨床的、内視鏡的、組織学的な寛解が確認されたというのは、経口FMTは寛解と関連していたといえるでしょう。
経口FMTの行く末
患者に対する身体的な負担が少ない点、内視鏡や浣腸を用いたFMTと比較して、経口FMTは優れているといえます。このような経口FMTの優位性を二重盲検無作為化プラセボ対照試験というエビデンスレベルが高い手法により証明し、それが世界最高峰の医学雑誌に掲載されたというのは、非常に大きなFMTの進歩を感じます。
今後10年が、炎症性腸疾患に対する効果的な治療法開発の鍵になると室長は考えています。これからが楽しみな分野ですね!
以上、経口FMTによる潰瘍性大腸炎治療の試みについてお届けしました。
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参考文献
Craig Haifer, Sudarshan Paramsothy, Nadeem O Kaakoush, Aiasha Saikal, Simon Ghaly, Tao Yang, Laurence Don Wai Luu, Thomas J Borody, Rupert W Leong, Lyophilised oral faecal microbiota transplantation for ulcerative colitis (LOTUS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial, The Lancet Gastroenterology & Hepatology, Volume 7, Issue 2, 2022, Pages 141-151.