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たきしまさんを褒める

導入


今年の目標の一つは何かをたくさん褒めることにしました。いきなりどうしたと言われるはずなので軽く補足しておけば、人は褒められると嬉しいし、自分が好きなものを褒められても嬉しいのだから、こんなものはやればやるだけいいのではないかという考えに基づきます。幸いにも僕は発信できる媒体を持っている。

誹謗中傷に対するカウンターとしての開示請求が浸透してきた昨今ですが、何かを褒める行為にはカウンタープレイが存在せず、壊れたカードを押し付けるタイプの強い行動だと確信しています。これをあえて低俗な言い方をすれば、逆張りでマイナーなデッキを使い続けるのを止めて、今の社会のメタゲームにおけるTierSをちゃんと使おうと思った、ということです。

人の悪行に対する悪口はすぐに思いつくのが人間ですが、人の悪行を減らすのは悪口を述べることではなくて何かを褒めることではないかと最近は考えるようになりました。これはつまり、褒める人が世界に溢れていれば、褒められたいがために人間は悪行を止めうるのではないかという考えです。悪口は簡単に口から出てしまうけれど、褒めることは意識しないと出ないことも、あえて挑戦してみようという意欲を掻き立てます。褒めるというのはある種の敗北を認めることでもあって、対戦ゲーマーが苦手とする分野の一つでもあります。だから挑戦します。

ということで、まずは身近なところから人を褒めてみようと思いました。最初の実験体はポケモンユナイトキャスターとしてしっかりおなじみとなったたきしまさんです。

真摯と努力

対戦ゲームのキャスターとは、一体なんでしょうか。今ではそうした仕事自体は決して珍しいものではなく、対戦ゲームのシーンを追っていればすぐそこに感じられる存在になりました。あえて名前を挙げることはしませんが、ゲームのキャスターと言われて特定の誰かを思い浮かべられる人も少なくないように思います。しかしその歴史自体は決して長いものではありません。そもそも、対戦ゲームをみんなで見るという文化自体がせいぜいここ十数年の話です。

スポーツのキャスターや解説ははるか昔から存在していますが、ゲームのキャスターは配信主体の文化であることから、求められる要素が違っており、一概に同じものとは言い切れません。何より違うのは、ほとんどの対戦ゲームシーンの解説者が、そのタイトルのプロモーションを直接的に担っている点です。大会の目的としてスポーツもゲームも、どちらも競技の普及という意味合いは含まれているでしょうが、新商品のPRやゲームの販促がスポンサー以外のところから差し込まれる点が大きく異なります。

つまり何が言いたいのかと言えば、対戦ゲームを解説できるだけのゲームに対する造詣の深さと、企業の顔の代理としてある種公式側の人間として人前に立てるその両方の側面を、ゲームのキャスターは求められるということです。これは結構大変なことで、誰にでもできるものではありません。

例えば、企業の利益追求はプレイヤーの幸福と時おり相反することがあります。ある仕様に工数を割けば割くほどクオリティが上がると仮定した時に、顧客満足度とそれにかかるコスト、そして収益化の期待値のバランスを探るのが企業の倫理ですが、そんなことはおかまいなしに、クオリティが高ければ高いほど嬉しいのがプレイヤーです。プレイヤーが喜ぶことを単にやるだけでは企業は破産してしまいます。

こうした現象はよく起こりますが、そうした時にキャスターはよく板挟みになります。対戦ゲームで培った相手を打ちのめす技術そのものが、企業の理念と相反しているかもしれませんし、この世のものとは思えない、のっぴきならないUIを見た時に、それをどう表現するかも問われます。キャスターは企業側の顔の代理でありながらも、ある意味ではプレイヤーの代表としてその場所に立つ側面もあります。その中で立ち回る絶妙なバランス感覚こそが、キャスターには求められていると僕は感じています。

歴史も浅く、そもそも何を学習すればいいのかよくわからないこの仕事は、よく実績のある経験者が頼られます。それは『ポケモンユナイト』においても例外ではありませんでした。初期の頃のアーカイブを見返してみると、やはり何かしらのタイトルでそうした経験を持った人達が表に出ています。

そうした中で、2022年度の世界大会で結果を残し、そして新たに解説への道を歩み、進み続けているたきしまさんは、並大抵ではないのです。解説の一発目で『ポケモン』の名を冠したゲームタイトルの解説に立てるのがどれだけすごいことなのかは、改めて言うまでもないでしょう。

たきしまさんはとにかく学習が速い人です。これはゲームが上手なことと相関していると思いますが、初期の頃と最近の頃の解説を見比べると、それはもう段違いに聞きやすさが向上しています。成長の速度が凄まじい。傍目に見て成長を感じられるというのは、見えない部分での努力がたくさんあることの裏返しです。本番で出せる何かなんて、準備に割いた時間のたった何割かです。普段はあまり使わない言葉遣いを意識するだけでも普通はいっぱいいっぱいになるものですが、最近はそのことをまったく感じさせませんし、ゲームの造詣に関しては言うまでもありません。

そうした業務を担う傍らで、自身のYoutubeチャンネルも着実に成長させているのが本当に素晴らしい。がむしゃらに体を張るような耐久企画もやっていく一方で、表現の手段や方法というか、自分の感情を伝わるように表現する技術がここ数年でぐっと上がったように僕の目には映ります。それでいて「たきしまさんなら変なことを言わない」という安心感を提供し続ける、稀有な存在です。だからこそ、あのREJECTもたきしまさんに目をつけたのだと思います。

何度でもいいますが、キャスターの立場でエンターテイメントを両立するのは本当に難しいことです。例えばゲームでクソ要素が登場した時に「(任意のゲームタイトル)終了のお知らせ」といった過激なサムネイルをでかでかと表示することの強力さはYoutubeが身をもって証明しています。しかしそこで視聴者と運営の両者の視点にたちかえって、穏当な表現を考え続け、エンターテイメントとコンプライアンスについて、たきしまさんは考え続けています。例えばある配信者の方は誰が使ってもクソ展開になるカードを「競技性が高い」と表現しますが、そういう言い換えが常に必要になり続けるということです。

唯一の欠点

たきしまさんの唯一のマイナスポイントとしてストリートファイター5における使用キャラクターがアレックスという点がありますが、むしろそんなことを全く感じさせない点はたきしまさんの素晴らしいところです。ワーオとか言いながら攻撃もしてきません。

これは真面目な話で、ちゃんと対戦ゲームをしてきた人間の、対戦ゲーマーが当然持ちうるある種のやんちゃさを、まるで表に出していない。その適応力こそが、たきしまさんの魅力のように思います。



……あまり人を褒め慣れていないのでややおぼつかない気がしなくもないですが、書いてみました。どうか世界が平和でありますように。

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