手からわかる人柄と、それを伝える画家
よく晴れた春の昼下がり。
今日はそんな陽気にぴったりな、温かい気持ちになれる肖像画を、記事にしたいと思います。
タンギー爺さんという人物をご存知でしょうか。🎨
まるで、一面に広がる色とりどりのお花畑を眺めている時のような気持ちになる一枚。
華やかでありながら、穏やかな陽だまりのような絵。
情報量が多いように見えますが、それでいてぎゅっとまとまりのある一枚に仕上がっています。
それは、温和な人柄が滲み出ているタンギー爺さんの佇まいと、背後の壁に貼られた浮世絵が表す春夏秋冬が、見事に調和しているからではないかと思います。ゴッホの色彩感覚の賜物でしょう。
桜が春を、朝顔が夏を、竹が秋を、雪景色が冬を表しています。
一枚で日本の四季を楽しむことができる一石四鳥の贅沢に、時が経つのも忘れてうっとり。
芸者の絵も見事で、右下の渓斎英泉の 『雲龍打掛の花魁』(うんりゅううちかけのおいらん)は、個別でも模した作品が残っています。
これらの浮世絵は、パリで画商を営んでいた弟のテオドルスが買い集めたもののようです。
浮世絵に大きな影響を受け、日本に強い憧れのまなざしを向けていたゴッホらしい作品の一つとして、私はとっても大好きです。
タンギー爺さんの柔和な雰囲気も、じっ…と見つめていたくなる。
深く澄んだ静かな瞳、今にも朗らかに話し出しそうな口もと、ほどよくくつろいで腰掛けている様子、血管まで丁寧に描かれた厚みのある温かな手。
それらの一つ一つから、描くゴッホと描かれるタンギー爺さんの信頼関係と言いますか、特別な親しさが感じられます。
このタンギー爺さん〈ジュリアン・フランソワ・タンギー (1825〜1894) 〉という人物は、陽気な人柄と芸術への深い造詣、そして博愛精神の持ち主で、当時のフランスでは中々受け入れられなかった印象派などの若き前衛画家たちを支援した、画材屋の店主でした。
タンギー爺さんの店に出入りする画家たちは、金銭的余裕がない者がほとんどだったため、絵筆や絵の具の代金のかわりに作品を置いていきました。そうして爺さんと、熱く楽しく芸術の話に花を咲かせていたそうです。
爺さんのお店は、前衛画家たちが互いに切磋琢磨し、情熱を絶やさずに制作活動を続けるための、
大切な交流の場所となったのでした。
◯
ううむ、私も19世紀のパリに生まれて、この力強く温かな手と握手をしてみたかった……。
それが叶わぬのならせめて、是非ともこの絵の前で、目を合わせてみたい……!
早く、パリへ会いに行かなくちゃ。
「近代彫刻の父」フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダンのコレクションも待っている、あのロダン美術館へ。
すぐにでもパリに飛んでいきたくなる、そんな磁力のある一作です。
それにしても、手を見るだけで伝わってくるタンギー爺さんの人柄と、それをこうして絵画の中に息づかせたゴッホに、驚きと感動が止まりません。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!
(^.^)🪻