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噂のアルカロイド [ファミレス生物3]

ジャンル:薬理学、薬化学、構造生物学 
キーワード:AI創薬、幻覚、うつ病

先日、サンフランシスコで会った、大学院時代の同期はケミスト(化学系研究者)として働いています。
↓この時の思ったことなどはこっち

その際に話題になったのが、企業のケミストの仕事の範囲の話。
彼は学生時代はバリバリのウェットの合成をしていましたが、今はドライ(もしくはin silico)でのデザインにも注力しているということ。
僕のようなパンピーもAIに近付いている現在、企業での運用はもっと先進的になっており、彼はそちらの分野も学び、ドライもウェットもどちらもできるケミストを目指しているということ。
まじ、かっこいい!!

そんなドライでの化合物デザインについて、1年位前に科学コミュニティでの連載で取り上げていたので、再掲してみます。
1年前でも相当なテクノロジーだよな。。。!


今日のテーマは「アルカロイド」です。
「アルカロイド」って聴いたことありますか?

アルカロイド(英: alkaloid)とは、窒素原子を含み、ほとんどの場合塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称である。一部のアルカロイドには中性や弱酸性を示すものもある。また、似た構造を有する一部の合成化合物もアルカロイドと呼ばれる。
多くのアルカロイドは他の生物に対して有毒である。しばしば薬理作用を示し、医薬や娯楽のための麻薬としてや、幻覚儀式において使用される。

wiki様

「アルカロイド」という言葉が耳的に初めましての方でも、
タバコに含まれる「ニコチン」や、コーヒーやお茶の「カフェイン」、
はたまたポケモンや湿布などでお馴染み「インドメタシン」といえば、聴いたことがあるかもしれません。
「アルカロイド」とは、これらの物質のカテゴリーの名称です。

いくつかの植物は「アルカロイド」に分類される化学物質を含んでおり、
古来から毒や幻覚剤・覚醒剤などとして使われてきました。
近代科学では、医薬品としての応用も進み、現在でもこの種の医薬品が使われています。
(そういえば、僕が昔、鎮痛薬として論文書いた薬効未知の天然成分もアルカロイドでした)


このように古来から注目されていた化学物質は、最新の医薬品開発においても熱視線を浴び続けています。

例えば、2022年の9/28にNature誌では、
アルカロイドを用いて、副作用の少なくて効果的な抗うつ薬を仮想空間上のスクリーニングから作るというアメリカの複数の大学チームの共同研究が掲載されました。
Kaplan, A.L., Confair, D.N., Kim, K., Barros-Álvarez, X., Rodriguiz, R.M., Yang, Y., Kweon, O.S., Che, T., McCorvy, J.D., Kamber, D.N., et al. (2022).
Bespoke library docking for 5-HT2A receptor agonists with antidepressant activity.
Nature https://doi.org/10.1038/s41586-022-05258-z

この論文のポイントとしては、
いくつかの機能を持つ標的受容体について、コンピューター計算で望ましい作用のみを発揮する化学物質を見出した点
にあるのだと思います。

この成果が達成されるのに必要だったブレークスルーに

  • コンピュータのハードの進化(これは機械学習分野にも言える)

  • タンパク質の構造解析手法の進化に伴うライブラリー充実(クライオ顕微鏡の発達 2017 novel prize)

  • 化学物質のヴァーチャルライブラリーの開発と充実

が挙げられます。特に「化学物質のヴァーチャルライブラリーの開発と充実」は論文中にも真っ先に取り上げられ、現在では200億を超える分子が列挙されているようです。
これまでは化学物質を設計、合成、評価のステップに最低でも数ヶ月かかっていたのが、ヴァーチャルライブラリーで数日単位で候補を絞ることができるようになりました(しかも、合成の難易度や原材料の入手のしやすさを考慮しなくていい! 下図参照)。

引用1: Nature誌News & views 2019, Bigger is better in virtual drug screensより

筆者たちは、最近、精神疾患治療の標的として注目されている「セロトニン2A受容体」という分子に注目し、そこに結合するような化学物質を、ヴァーチャル上でスクリーニングしました。
その結果、標的の受容体に選択的に作用する、アルカロイドを3つ得られました。
そして、そのうち、受容体を活性化する2つの化学物質についてマウスを用いた検討を行いました。

本論文 Fig.3cよりヒット化合物の構造式

今回の標的である「セロトニン2A受容体」というのは、幻覚を引き起こす薬物のターゲットでもあることから、
動物実験において、幻覚は起こさず、抗うつ作用のみを作用のみをみることが出来るか?が焦点でした。

このうち、(R)-70はマウスにおいて、幻覚様の行動を発生させることなく、抗うつ作用を発揮しました。

この研究は、新たな抗うつ薬を見出しながら、
ヴァーチャルライブラリーの創薬における有用性を示し、
「セロトニン2A受容体」の作用の二面性のうち、抗うつ作用のみを取り出すのに成功しました。

(R)-70がすぐに薬になるわけではありませんが、
この化学物質の構造を起点により良い抗うつ薬が作られることが期待されます。


さて、どの分野であっても機械学習の発展が目覚ましいように、1年の間に、この論文は70弱引用され、一つの成功例として、Nature誌の2023年4月の『創薬を効率化する計算論的アプローチ』というレビューにも取り上げられていました。

次々と解き明かされるターゲットの構造の他、既知リガンドの特性や標的予測のプログラムとの相乗効果で、大きなデータから、薬の種になる化合物を見つける戦略の現状を説明していました。
いつか化学合成の分野が廃れるのでは、、、?という心配もあるにはあるのですが、
「新しい反応機構の解明がより探索データの多様性をもたらしてくれる」とウェットとドライどちら側からもまだまだ発展していく必要があると勇気をくれる展望が描かれています。
去年のノーベル賞のクリックケミストリー以外に、最近の注目すべき新たな反応として紹介されていた、Ni-electrocatalytic Csp3–Csp3 doubly decarboxylative couplingというのが1mmも分からないので、誰かに教えてもらおう。。。

出版と現場では数年単位のラグがあるものの(今では縮まってる?)、ヴァーチャルな創薬手法は拡充しつつあります。
低分子化合物は生産や安定性に優れているものの、
抗体などの高分子や中分子でないと出せない機能性もたくさん存在します。
今後ヴァーチャル環境できることがどこまでの分子をカバーし、どれほど、実際の性質を反映させることができるようになるのか、
進化から目が離せません!

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