【公演レビュー】2021年8月18日「音と言葉の間」
書と音楽の響き合いは更なる高みに
荒井雄貴(バリトン)、新野見卓也(ピアノ)、小杉卓(書家)のパフォーマンスユニット「音と言葉の間」については2021年1月の公演を取り上げた。
本来彼らは夏に公演を行っており、今年は充分な対策を講じて3人の故郷である栃木(8月15日)、さらに東京(8月18日)の2公演を開催した。テーマは祈り。
~プログラム~
バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻から前奏曲第1番
バッハ=グノー:アヴェマリア※
リヒャルト・シュトラウス:「万霊節」
ビゼー:歌劇「カルメン」から「闘牛士の歌」※
クルターグ:「遊び」から「ファルカシュ・フェレンツへのオマージュ」「いさかい」
クルターグ:「遊び」から「亜麻色の髪の狂女」
ドビュッシー:前奏曲集第1巻から「亜麻色の髪の乙女」※
ワーグナー=リスト:舞台神聖祭典劇「パルジファル」から「聖杯への厳かな行進」
ワーグナー=ヨゼフ・ルビンシュタイン:舞台神聖祭典劇「パルジファル」から「聖金曜日の音楽」
根本卓也(曲)、山本有三(詞):心に太陽を持て※
※演奏と書の共演
公演の様子は8月いっぱいこちらのYouTubeチャンネルで視聴可能。
筆者が初めて彼らに接した2021年1月東京公演同様、プログラムが練られており、単なるテーマに沿った書と音楽のコラボレーションを超える面白さがある。例えばリヒャルト・シュトラウスの歌曲にビゼーの「カルメン」からのナンバーを続けているが、大指揮者ジョージ・セルのインタビューによればシュトラウスは「カルメン」を絶賛していた。また前回同様、ワーグナーのピアノトランスクリプションを2種類並べて、出来栄えの違いを楽しむ面白さが味わえる。
コンパクトな会場を縦横に使い切るパフォーマンスは圧巻で是非映像を御覧頂きたいと思う。各人がただ音楽する、書を創るだけにとどまらず、一つの空間を演出する技が前回から一層充実。とりわけ書家の小杉卓の背中や足捌きから漲る気迫には魅せられた。照明の変化も楽想、パフォーマンスとうまく照応していた。
感染症禍で長年アートやエンタテインメントの定型だった「大量開催・多人数・大量動員(消費)」のモデルが困難に直面するなか、少ない人数で強いインパクトを与える出し物を展開、継続する彼らの存在はひとつの光。早くも次の一手が楽しみになってきた。
※文中敬称略※