【ディスクレビュー】アイザック・スターン晩年のドヴォルザーク室内楽曲集
和やかさに通る強い芯
2021年はアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)生誕180年、ヴァイオリニストのアイザック・スターン(1920-2001)没後20年。そこでスターンのドヴォルザークの室内楽作品録音を取り上げる。
【曲目】
ピアノ四重奏曲第2番 op.81
エマニュエル・アックス〔ピアノ〕、アイザック・スターン〔ヴァイオリン〕、ハイメ・ラレード〔ヴィオラ〕、ヨーヨー・マ〔チェロ〕
1996年4月15日、タングルウッド、セイジ・オザワホール
ヴァイオリンとピアノのためのロマンティックな小品 op.75
ヴァイオリンとピアノのためのソナティナ op.100
アイザック・スターン〔ヴァイオリン〕、ロバート・マクドナルド〔ピアノ〕
1996年1月24-25日、ニカシオ(カリフォルニア)、スカイウォーカー・サウンド
壮年期はG線の輝きで鳴らし、その不足が唯一の弱点と囁かれたハイフェッツが肝を冷やしたという「伝説」があるほどのヴィルトゥオーゾだったスターン。上記ソナティナの第2楽章をクライスラーが編曲した「インディアン・ラメント」はそんな時代のアンコールの定番だった。
上記アルバム収録当時は70歳半ば、流石に全盛期の豊麗さは後退しているが、変にしなをつけて誤魔化さず、スッキリした弓遣いでピンと背筋の伸びた品格漂う音色を奏でる。
五嶋みどりのお気に入りだったピアノのマクドナルドはデリカシーに欠ける音の連ね方の目立つひとだがここでは粒立ちの良さに温もりが加わったタッチを聴かせる。
演奏会人生の終盤に共演を重ねたアックスたちとの四重奏曲では響き合いに留意しつつも強靭で厳しい主張が聴かれ、まだまだお前たちと伍してやれるんだぞと言いたげだ。
ヨーヨー・マのチェロがスターンの背中に導かれて平素より渋みのある音色なのも感慨深い。
ちなみに本年はスターンが存続に尽力したカーネギー・ホールが開場130年を迎える。
没後若干忘れ去られ気味のスターンだが日本人にとっては晩年音楽祭を通じて宮崎にクラシック音楽の種を蒔いた人物であり大切にしたい巨匠。