2022年1月9日/サンダーバード55周年シネマコンサート【「国際救助隊」から学ぶこと】

遅ればせながら新年おめでとうございます。
おかげさまで2022年を無事に迎えられました。
昨年中訪れて頂いた皆様に心から感謝します。
本年も温かく見守って下されば嬉しいです。

2枚のフライヤー画像の通り、延期の末何とか開催にこぎつけた今回のコンサート。
曲目、構成は以下のアルバムとほほ同じだった。

この種の催しを事細かにレビューするのは野暮なので本稿では1965年に制作された「サンダーバード」の物語や主人公のトレーシー家の私設組織「国際救助隊」の画期的な点を書き記してみる。

諜報機関も裸足で逃げ出す情報収集能力

ジェリー・アンダーソン、シルヴィア・アンダーソンが創り出したキャラクターである国際救助隊は宇宙ステーション「サンダーバード5号」で24時間365日、世界中の通信を傍受しており、その中から「オートチョイスマシン」(現代で言えばAIか)がきな臭いものを選び出して、搭乗員のジョン・トレーシーに知らせるシステムをとる。
つまり、救助要請前から出動対象になりそうな事態を注視、状況を把握しているのだ。場合によってはこの段階で地上基地(本部)に連絡、父親で救助隊長のジェフ・トレーシーに報告する。
従ってことが深刻になりSOSが来た場合でも経緯が分かっているのでジョンは慌てることなく、改めて地上に連絡を入れてジェフに対応を委ねる。
報告を受けたジェフは、まず現場の状況を掴むために長男のスコット・トレーシーを最も速い飛行機「サンダーバード1号」で派遣する。
スコットは現場に到着すると連絡拠点(移動指令室)を設営。関係者に事情を聞いたり、無人機(さしずめドローン)で危険な現場を撮影するなどしてどんな人員、機材が必要か判断して、本部に連絡する。
続いてジェフは技術者のブレインズと相談の上、派遣する隊員と持っていく装備を決めてメカの扱いに長けた三男バージル・トレーシーに輸送機「サンダーバード2号」で現場へ向かうよう指示する。
あらかじめ情報収集に務め、いざとなればまず先遣隊が素早く赴いて状況を掴み、続いてその情報に基づき必要な人員や装備を持つチームが向かい、救助の実行に移る。この3段構えのプロセス、とりわけ綿密な情報収集があるからこそ、人命に関わる失敗の許されないミッションを成し遂げられるのだ。
いま現実のレスキュー隊は殆どのケースで通報を受け、現場についてから経緯や状況を知り、そこから救助の方針が決まり、着手していることを考えれば、国際救助隊のやり方がいかに巧みかは明らか。
しかも世界中に秘密隊員や後援者がおり、平時から様々な情報を本部に寄せている。
ジェフは元々軍人で天下りして土木関連事業で財を成した人物なので人脈が広い。だからこそ国際救助隊を私設できたし、情報収集のネットワークまで築けた。ジェフの「情報重視」の姿勢は長男スコット、次男ジョンをともに情報収集がメインの任務に就かせている点からもうかがえる。
劇中でジェフは後述するロンドン駐在の秘密隊員ペネロープにこう話す。

救助活動も大事だが事件を未然に防ぐのはもっと大事だ。調査大歓迎だね。

サンダーバード「恐怖のモノレール」より

「汚れ役」を担うペネロープとパーカー

前述の秘密隊員のうち「別格」なのがロンドン・エージェントと呼ばれるペネロープ・クレイトン=ワード。元諜報員で「おじさま」(日本語版)と慕うジェフの理念に共感して国際救助隊の一員となった彼女は、政治絡みの案件で活躍するほか、国際救助隊に対する妨害工作への対応など「女ジェームズ・ボンド」的な役割を担っている。
彼女の執事で相棒のアロイシャス・パーカーは元金庫破りの射撃の名手という経歴。
自身を引き上げてくれたペネロープに献身的に仕え、身体を張ることもしばしば。
組織の維持管理はきれいごとばかりでは済まない。時には「汚いこと」もやらざるを得ないし、それを引き受ける人材が絶対に必要だ。
女性であることまで武器にできるペネロープと社会の暗部に通じるパーカーの存在は、国際救助隊の情報収集能力維持や敵対勢力から組織を守るために不可欠だし、ジェフにとっては息子に手を汚させないで済むメリットもある。

チームワーク優先の姿勢

特撮ものにおいては「1台で何でもござれ」のスーパーメカや「1人何役」のスーパーマンが活躍するケースが多いが、サンダーバードは違う。
既に書いた通り、状況に応じて隊員と装備の組み合わせを変えることで様々なミッションに効率よく対応できる。
またどんな案件でも本部の指令室には現場に行く隊員を除いて全員が集う。
皆、事態の推移に立ち会い、時に意見を述べるし、自身の出動機会に備えた学びともなっている。ジェフの母親で家事を担う「おばあちゃん」の意見がきっかけで救助活動が進んだケースさえある。
情報収集能力と共にこの徹底したチームワークが、危険なミッションを成功させる秘訣。
またあくまで要請主義をとり、他の組織でも解決できるものには介入しない。出動を求める隊員に対してジェフが「待った」をかける場合もある。
「善意の押し売り」や「安売り」を戒めることで自らの価値を高め、同時に国際救助隊以外不可能なミッションに集中できるようにしている。

1965年に100年後を見据えて制作された「サンダーバード」の物語は大規模動力源の多くが原子力であることなど今日の価値観だとテクノロジーへの楽観が目につく点も散見されるが、ここまで書き記した情報収集のあり方、組織運営の手法に関しては子供向け特撮フィクションとは思えないほど今日的示唆に富んでいる。是非大人の方に見て頂きたい作品だ。

いいなと思ったら応援しよう!