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「すべての端緒となる一通の手紙が私の手許に届いたのは、2001年末のことだった。」
夏なので、少々怖い話を。
わたしはホラーが苦手です。
苦手ですが、ホラー映画で見たものもあるし、ホラーゲームの実況はそこそこ好きだし、ホラー小説もものによっては嗜みます。
そしてこちらは、「引っ越しした友人にプレゼントすると嫌がられること間違いなし」と名高い、土地にまつわるホラーです。
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小野不由美著『残穢』(新潮社、2015)
小野不由美さんといえば、言わずとしれた「十二国記」シリーズの作者ですが、この方はもともとホラー畑の方なんですね。
「十二国記」シリーズの「0巻」となる『魔性の子』は、もともとホラー文庫から出版された、十二国記の世界観など一切の説明のないホラー小説でした。
で、わたしは小野主上に傾倒しておりますし、『魔性の子』は「十二国記」の一部として読んだとはいえ読めたので、噂に名高い『残穢』も読んでみようかな、と数年前に思ったのです。
物語は、あたかも「ドキュメンタリー」あるいは「ノンフィクション」のように進んでいきます。
物語の語り手は、明言はされていないものの、小野さん自身であると提示されています。
そして、彼女が読者から受け取った手紙に書かれていた怪異を追ううちに、彼女自身もまた怪異に晒されるようになっていきます。
読者からの手紙には、引っ越した先のマンションで女の霊が出るというものでしたが、調べていくうちに、その部屋やその建物が、ということではなく、その地域の何箇所かで似たような現象があることがわかってきます。
そこからその土地の歴史、元の所有者やそこで起こった事故のことなど、さまざまなことがわかってくるのですが、それに付随してその土地に住んでいない語り手自身にも、原因不明の体調不良や危険が起こるようになっていきます。
そして、調査を中断すると症状が軽くなるのです。
怪異とは、一体なんなのでしょうか。
人が誰かを憎んで死んだとして、その数が膨大だったとして、その怨念が他の怨念を巻きこんんで、何年も何十年も、100年以上も、無差別に生きている人を苦しめることなどあるのでしょうか。
この物語では、怪異は形をとらない「なにか」として描かれていきます。
気にしなければ、「珍しいけれど偶然が重なっただけのこと」と考えることもできる程度の、でも無視するにはちょっと目障りな、そして不安を煽るような怪異です。
わたしがこの本を読みながら、単純に楽しみ平然としていられたのは、しょせん「土地に染みついた死者の怨念」が怪異の主体だったからかもしれません。それは漠然としていて、怖いことは怖いけれど、わたしとは一線を画した存在であり、純粋なフィクションとして楽しむことができました。
でもこういう系の「その部屋が実は呪われていて」みたいなタイプが苦手な人は苦手かもしれませんね。
他の作家で、やはりシリーズを追っている方がホラーを出していたので、『残穢』がいけたから行けるっしょ、と思って読んだら、最高に後味が悪くて気持ち悪かったのを思い出します。
ホラーは作家によってもだいぶ個性が出るようですね。
いい勉強になりました。
というわけで、淡々としたルポタージュ風の恐怖が好きな方には、『残穢』はおすすめです。
あ、でもやっぱり一人暮らしの人はどうだろうね?
ぜひこの夏、じんわり怖い体験をしてみてください。
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