サイアノ和紙作家日記 vol.30『そこに在ったひかり』が終わって
西会津国際芸術村で催した
『そこに在ったひかり』が終わった。
開始ギリギリまで準備に追われたので、
しばらくは手放して視ることができなかったが、
日増しに客観的に捉えられるようなったと思う。
今までは壁に作品を掛けていたが、
今回はすべて天井から吊るす展示。
なかなか大変だったが、
芸術村スタッフの技と経験により、
イメージした方向に持っていけたと思う。
ひかりを一方向から取り込むことで、
時間帯や天候によって見え方が変わる。
特に西日が差し込む夕刻は、
本当に美しいと我ながら感じられた。
この環境じゃないとできない、
他ではなかなかできない展示空間だった。
西会津のひかりで感光させた青い作品たち。
支持体も同じひかりで育った
地元に自生する楮を刈り取り、
手作業で材料をつくり漉いた出ヶ原和紙。
フレームには皮を剥いで
不要になった楮の棒を使った。
地産地消的な作品制作に説得力はあったと思うが、
それらはあくまでフックのつもり。
町の景色や催事などの出来事も全てはひかり。
人間の視覚はひかりがもたらしているからこそ、
その存在を感じて欲しくて展示空間をつくった。
西会津町は日本の典型的な田舎町。
都市化の波もやって来てこなかった分、
昔とそう大きくは変わらない
景色や営みが色濃く残っている。
そう、この町は昔のひとたちと同じものを、
いまだに視ているのかもしれない。
その視るという行為の源泉はひかりであり、
この土地には同じひかりが
昔と変わらず降り注いでいる。
太陽から降り注ぐひかりが
この土地ならではの気候風土をつくり、
その環境下で草木や動物、
そして、ひとを育んできた。
気候風土がひとの気質や文化を育み、
土地の記憶として脈々と受け継がれてきた。
それらは全て、太陽から降り注ぐ
ひかりによってもたらされている。
そんなコンセプトを内包する展示をつくった。
でも、初見でそんなことが伝わるワケではない。
まずは作品や展示空間を美しいと
感じてもらえたらそれでいい。
そう思ってもらえてはじめて、
制作のプロセスとコンセプトを伝えるようにした。
自由に感じてもらえたらよいのだけれど、
興味を抱いてくれた方とは作品や展示空間を通して
コミュニケーションをとりたいと思ったから。
結果として興味を抱いてくれた方たちとは
よいコミュニケーションがとれたと思う。
手応えがかなりあったと自負している。
今回の展示をベースに巡回させるか、
イチからつくるのかはまだ決めていないが、
『そこに在ったひかり』のコンセプトを
他の土地でもやってみたいと思っている。
今後も僕のライフワークとして育んでいきたい、
そう思っている。
現代写真家 山田谷直行 個展
『そこに在ったひかり』
西会津国際芸術村 NIAV
2023年6月3日(土)- 6月25日(日)