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上出長右衛門窯の道行

現在進行中の新作開発の紆余曲折するストーリーを、テキスト、写真でお伝えしています。旅は道連れ世は情け。これまで秘密にしていた新作とそのアイディア、プロセスを上出長右衛門窯六代目・…
月に2〜3本くらいが更新目標(絶対に1本は書きます)。現在公開している全てのマガジンがここで読めま…
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記事一覧

【KUTANI SEAL】の道行#6「県外という言葉について」

こんにちは。上出惠悟です。 年が明けると毎年、阪急うめだ本店で開催される「旨し、美し。金沢・加賀・能登展」に出店するために大阪へ行きます。私自身も短い時間ではありましたが在店し、直接お客様とお会いできる機会を得ました。お越しいただいた皆様、誠にありがとうございました。 大阪には、私が作家として定期的に作品を発表しているギャラリーYoshimi Artsがある他、様々なイベントなどで訪れることが多く、親しみがあります。今年は住吉大社の初詣の暖簾や看板、ポスターなどを上出瓷藝

【KUTANI SEAL】の道行#5「ものいとはじまり」

こんにちは。上出惠悟です。 仕事納めも済んだ今月29日夕方、そこはかとない体調の悪さを覚えながらも、私は神棚の掃除と〆縄を飾るために会社へ行きました。神棚は事務所と窯場に2ヶ所あり、さらに窯の前には供物を置く台がもう1つあります。これらの掃除は、年末に誰もいなくなった会社で私が一人で行う恒例の仕事でした。しかし、近年は窯場の方を柴田が担ってくれるようになったので随分と楽になっています。事務所の神棚の掃除をようやく終えて、窯場の方の神棚の供物を新しいものに交換しようとした際に

【KUTANI SEAL】の道行#4「加賀いろは・共に歩んだ道」

こんにちは。上出惠悟です。 大学で芸術を学んだので、金沢21世紀美術館が開館して間もない数年間、多くの友人達が金沢を訪れました。高校時代を金沢で過ごした私にとって、地元に友人が遊びに来るのは嬉しいもので、一緒に石川旅行を楽しむように、様々な場所へ案内しました。旅行者として金沢を歩いてみると、それまで知っているつもりで知らなかった街の歴史や文化に触れることが出来ます。その時間は当時の私にとって非常に貴重な学びでした。 九谷焼についても同様で、石川県民の多くは「祖父の家にある

【KUTANI SEAL】の道行#3「伝統工芸の新しい楽しみ方」

こんにちは。上出惠悟です。 楽しみにしていた「轆轤(ろくろ)と熊のまつり」の閉幕からおよそ1ヶ月が経ち、そろそろ熊達も冬眠の季節に入ろうとしています。何だかあっという間に時が過ぎ去り、10月のnote更新が完全に私のタスクから抜け落ちてしまっていました。楽しみに待っていた購読者の皆様には申し訳なく思っています。というわけで今回は早めの更新、可能であらば今月中にもう1話お届けしたいと考えています。 先日、干支の新作が発売になったばかりのKUTANI SEALの道行の第3話に

【KUTANI SEAL】の道行#2「売れないのは転写のせい」

こんにちは。上出惠悟です。 九谷焼窯元・上出長右衛門での私の活動のすぐ後ろで同時に並走していた、KUTANI SEALという今年15周年を迎えた九谷焼の転写ブランドのヒストリーの続編をお届けしています。 時を遡ること20年前、私がまだ東京の大学に通っていた頃のことです。夏休みか何かで、実家である上出長右衛門窯に戻っていた際、父親が言いました。 「景気が悪く、高い器が売れない。長右衛門窯も転写で安い商品をつくろうと思う。何かいいデザインは考えられないか?」 私は驚き、そ

【KUTANI SEAL】の道行#1「上出くんやろうよ」

こんにちは。上出惠悟です。 ここのところお知らせしたいことが色々とあるのですが、しばらく進展がなかったKUTANI SEALに最近少し動きがあったので、今日は改めてこのブランドについて書いてみようと思います。15周年になる歩みの中で、ワークショップや、様々なブランドやキャラクターとのコラボレーションなど、皆様もどこかでご覧になっているかもしれません。その中で恐らく一番多くの方の目に触れていたのは「加賀棒茶」で有名な丸八製茶場の「加賀いろは」というシリーズではないかと思います

【あるお皿】の道行#4「来るぞ来るぞ」

こんにちは。上出惠悟です。 今日も太陽は容赦なく、私たちを暑く苦しくさせています。今日で7月も終わり、明日から夏本番というところですが、北陸ではまだ梅雨明けの発表がありません。山形や秋田では記録的な大雨で甚大な被害が出ているとのことですが、皆様はご無事でお過ごしでしょうか。 noteを書くのは少し久しぶりです。その間、何をしていたかと言えば、絵を描いていました。6月1日より母校である東京藝術大学内にある藝大アートプラザで「IZURA」と題した油画の個展を、そして7日より京

【第17回窯まつり】の道行(後編)

こんにちは、山崎つかさです。 結局、私も上出(惠悟)の部下らしく6月末ギリギリの更新になってしまいました。まだまだ社内では、おまつりのフィードバックや入門作品の仕上げ・発送など窯まつりの事を考えたり、秋の轆轤まつりの開催の是非について議論を進めたりしています。道行ではそろそろ水滴や他の干支もの商品の話が始まるかもしれません。今年も試行錯誤中ですのでそちらも是非お楽しみにお待ちください。 上記に並行して上出は只今絶賛個展を開催中です。東京と京都二箇所で油絵と水墨画の異なる展

【第17回窯まつり】の道行(前編)

こんにちは、山崎つかさです。 私は普段、上出長右衛門窯で絵付師をしています。道行では【窯まつり・絵付】の道行#2「なぜ人の手で作るのか」などでちょこっと登場しました。長右衛門窯に就職が決まった後に留年が確定したあの山崎です!絵付業務の他には窯まつり実行委員として限定品の開発やおまつりの企画・進捗管理なども担当しています。 「窯まつり」が終了してから早いもので1ヶ月近くが経ちます。今回は多忙な上出(惠悟)に変わりまして、今年の窯まつりを私の立場から振り返ってみたいと思います

【あるお皿】の道行#3「寝かせましょう」

こんにちは。上出惠悟です。 夕方から降り始めた小雨の中で4月が終わろうとしています。あと2日も経てばいよいよ窯まつり開幕です。何せコロナ禍を挟んで5年ぶりのフリー入場制となる今年ですので、一体どれだけの人が窯まつりに足を運んでくださるのか非常に緊張しています。「誰も来なかったらどうしよう」、脳裏を過ぎるこの不安も久しぶりです(予約制だと事前に人数が見えますから)。とは言えしかし、有り難いことに今までそれは杞憂に終わって来ました。この5年以内に上出長右衛門窯と出会った方は、窯

【あるお皿】の道行#2「喉元過ぎれば」

こんにちは。上出惠悟です。 まだ発表していない上出長右衛門窯の新商品の開発プロセスをお届けしているnote「上出長右衛門窯の道行」。未発表品ですので、つまりリアルタイムに近い形でその道行の行方を綴っています(基本的には、、)。発表された商品の開発秘話は世の中に沢山あると思いますが、どう着地するか分からない商品の動向をお伝えすることは普通あまりないことかと思います。 ですので、このnoteを読めば上出長右衛門窯が今何を考え、何を作ろうとしているのかが真っ先に、そして具体的に

【あるお皿】の道行#1「食べること」

こんにちは。上出惠悟です。 いよいよ上出長右衛門窯の新しい製品の開発が始まります。このnoteではその開発プロセスを巡るストーリーを旅に喩え「道行(みちゆき)」と題して皆様にお届けしているものです。一人の作家ではなく、九谷焼の窯元である私達がどのようにして製品づくりをしているのか、これを読んで頂ければその閃きや苦心、伝統や工夫などが深く理解できるのではないかと思います。これまでずっと購読して下さっている皆様、そして最近購読して下さった(もしくはこれから読んでみようかという)

【窯まつり・絵付】の道行#13「試される意志」

こんにちは。上出惠悟です。 大変辛い一年の幕開けとなってしまった2024年、今年はどんな一年になるのでしょうか。いつも翌年の干支のデザインを考える際には、良い年になるようにと祈りをこめて描くのですが、そんなことは本当にちっぽけなことなのだと思い知らされます。と書くとお前にどんな力があると思っているのかと突っ込まれそうですが、祈ることは決して意味のないことではないと思っています。 干支の製品に限らず、それを作っている職人たちの仕事にも作り手ならではの思いがこもっています。今

【窯まつり・絵付】の道行#12「新しい未知」

さてさて、こんにちは。上出惠悟です。 年の瀬に東京へ向かう新幹線の中で書いています。ようやく【窯まつり・絵付】の道行も終着地点です。思うように執筆に時間が割けず、連載が長期に亘ってしまいました。本来は窯まつりのある5月頃には終わらせる予定だったのですが、どうやら年を跨いでしまいそうです、、。 これまでの内容について、もうお忘れになっている部分もあるかと思いますので、先ずはこれまでのトピックを以下に簡単に纏めました。 絵について 上出長右衛門窯の問題点 窯まつり限定品の