フランスでショコラトリー店員になる#15 お客様からクレームを付けられた時
本当は、仕事が始まる前に接客用語を少し勉強しておきたくて、本屋に行って探したのだが、ホテルやレストランの接客用語集はあれど、パティスリーのは見つけることはできなかった。
それで予習ができず不安になったが、働き始めたら心配している暇がないくらい忙しかったし、なにより職場のヴァンドゥーズ達がいい手本だった。
最初は、マネをすることから始めた。
お客様も、私達販売スタッフ側も、本当に使う表現は十人十色で、毎日が発見だった。自分も接客していて、確かに日本語でも色々な表現があるから、それは納得!
ここでは、ご注文を承る際、お客様の仰る傍からショコラをどんどん詰めていく、もしくはケーキを入れていくので、メモ等は取らない。
私はそれが不安で、ご注文を仰られたら、復唱をしながらメモをし、そのメモを元に商品を用意することにした。
その方が、沢山の注文をされても確実に対応ができると思ったのだ。
皆には、何でメモ取ってるの?と聞かれたけれど。
こっちはフランス語聞き間違えるといけないから、神経パンパンに張り巡らせていたのだ。ネイティブとはやはりベースが違う。
周りのスタッフがどんな表現を使っているか、すごく興味があった私は、聞き取れなかった別のスタッフの接客中の会話があると、メモを持ってそのヴァンドゥーズのところへ行き、
「さっきなんて仰っていまいたか?」
と尋ね、メモしていた。最初は聞くのは恥ずかしかったけれど、慣れてしまえば、何ということはないし、皆教えてくれる。
帰宅してから、まだ食べていなかったチョコレートを食べながら
その日教えてもらったフレーズを何度も唱えて、スラスラと喋れるようにしたり、解らない単語は意味を調べたりした。
お客様は、殆どの人が相手が私でもにこやかにお帰りくださっていたが、
繁忙期になると、他の人の声が耳に入ってうまく聞き取れなかったり、お客様のお声の大きさとか、喋り方でどうしても一度で全部は聞き取れなくて
ある日
「Comment?(はい?)」
と聞き返してしまった。
すると、お客様が
「こんなフランス語もわからない研修生を置いて!」
と声を荒げてご立腹されたことがあった。何度も聞き直した訳ではない。一度、はい?と聞いただけだった。
こういう時、周りのスタッフは、日本であればお客様側についてお詫びするのが普通だと思う。
しかし、驚いたことに、ベテランヴァンドゥーズ達が声を揃えて
「彼女は研修生ではありません。社員です。フランス語もちゃんと喋れますよ。」
とかばってくれたのだ。予想していなかった光景に、感極まって
売り場にいながらも、涙で前がよく見えなくなっていた。そして、
「miko、気にすることないよ。」と皆が優しく慰めてくれたのだ。
ご立腹されたお客様も、帰り際に
「さっきはゴメンなさい」と一言仰られて、微笑んでくださった。
周りのスタッフに、手を差し伸べてもらった気分だった。
人の温かさが、心にしみた日だった。
フランス語の接客は、なんとかなる!と思って渡仏した。その勢いは、渡仏してすぐに消えてなくなった。
でも、自分のレベルの中で自分なりに頑張っていると、もしかしたらこうして手を差し伸べてくれる人がいたり、お客様と通じ合えたりするのかもしれない。
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