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日記|苺GOGO! 2025 涙のいちご篇

 生命の塊だった苺をつくるオヤジさんはずいぶんと無遠慮な人だった。来店する客には苺を引き取りに来る日時をオヤジさんが指定していたし、予約の電話を入れる時だって、話も聞かずに電話を切ることもあった。それでも馴染みになるほど、このいちご農園に通い続けてきたのは、苺の持つ得体の知れないチカラが光のスピードで体中を駆け巡り、自然と湧き上がってくる喜びに包まれたいからだ。

 苺を販売している小屋行くと、箱詰めされなかった規格サイズに合わない苺をオヤジさんは買うよりも多く振る舞うこともあった。『今年も美味しいですね』『そうだろう』が毎年の常套句。『私ね、心からこの苺を愛しているの』と言えば、『僕の苺を愛しているのはあなただけじゃないよ』と、まあ真実ではあるけれど、『言い方!』ってよく突っ込んだ。

 オヤジさんが心を砕いて育んだ苺を、誰もが大切に扱う訳じゃなかった。苺の一番甘い先端だけを食べて捨てる者、まだ青い苺を踏みつけながらいちご狩りをする者もいた。人を寄せ付けないような無遠慮な物言いになったのは良い苺をつくるおごりではなく、そういうこともあるのだと思う。はじめて会ったときは人との関わりを大切にする印象の人だった。苺を頬張りながら店先でミツバチのご機嫌の取り方とか、年々上昇する灯油価格の話とか、そこそこ美味しい苺はノウハウがあれば誰でも作れるけど、人が感動する苺を育てるのは結構難しいとか、そんな話を幾度となくした。

 昨年オヤジさんは苺をつくらなかった。そして今年オヤジさんのいちご農園は更地になっていた。ビニールハウスも小屋もない。オヤジさんの農園近くの苺農園いちご屋あんちゃんに行って、更地になった事情を聞くとオヤジさんは廃業したけれど、オヤジさんご本人はお元気だった。

 蜂を大切にして、苺を大切にして、家族を大切にして、それ故に苺を作ることをやめる選択をしたことは、あんちゃんからお話をうかがって、いかにもオヤジさんらしいと思った。あんちゃんの育てた苺を食べていたら涙ぐんじゃった。ここにオヤジさんの苺がちょっこしいた。

 はじまりがあれば終わりがあって、それでも残っていくものは、残っていって、ずっと続いていくんだなって。だからあんちゃんの苺に、オヤジさんの苺にまた来年も会いに行こうと思う。


★苺GOGO! 2025/02/16
朝日里山農場 いちご屋あんちゃん
いちご狩りもしたけど、販売している苺の方がよい品質。


夜ドラマ『バニラな毎日』全32話も折り返し毎晩楽しみ💛
SUPER BEAVER『涙の正体』のPV公開になった!



#いばらキッス
#朝日里山農場いちご屋あんちゃん
#茨城県
#いちご狩り


 

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