【フランスおいしい旅ガイド】ミディ・ピレネーの地方菓子
フランス南西部に位置するミディ・ピレネー地方の郷土菓子をご紹介します。
土地の産物を使ったお菓子
○ガトー・ピレネーGâteau Pyrénées/ガトー・ア・ラ・ブロッシュGâteau à la Broch
ピレネー版のバームクーヘンのようなもの。生地はカトル・カール(小麦粉、砂糖、バター、卵を同量用いる)。かつて家庭の暖炉に円錐形の型をつけた棒をかざして、少しずつ生地をつけて、回しながら焼いていたそうだ。「ガドー・ア・ラ・ブロッシュ」とも呼ばれる。ブロッシュとは串刺しの意。
このお菓子の由来についてはいくつかの説がある。ピレネーの山奥の羊飼いの家に住みついたオーストリア女性が、ジャガイモのピュレでこのお菓子の前身を作っていたとか、ナポレオンがバルカンから持ち帰ったとか、ピレネーのナポレオン部隊が18世紀に東欧の国から作り方を学んだとか。
今では手作りしているところはほとんどなく、我々もピレネーの山奥リュツ・サン・ソヴールLuz St. SauveurのシアSia村まで探し求めた。夏の間しか焼かないというその工房「Gâteau A La Broche de Sia:ガドー・ア・ラ・ブロッシュ・ド・シア」は、ロッジもあり、バケーションで滞在する人もいるようだ。小屋の中では交代で、暖炉でガトー・ピレネーを焼いている。中はかなり暑い。1982年よりここで作っているようだ。決まり事として、つげの木で焼く。レモン、オレンジのコンポートや、バニラ、アーモンドパウダーで香りづけする。菩提樹で燻す。といったことがあると看板に書かれている。高さ27cm程の1ピースが70FF。1ヶ月くらい保存できる。外側はこげ目が香ばしく、内側はとてもしっとりしていておいしい。
○クルスタッド・オー・ポム Croustade aux Pommes
紙のように薄く伸ばした生地に、アーモンドクリーム、リンゴを入れて焼く西南地方の名物。ジエール県オーシュが発祥といわれるが、スペインに住んでいたアラブ人が伝えたという説もある。当初はバターの代わりにガチョウの脂を使っていた。香りづけにアルマニャックを使う。クスルタッドの語源はプロヴァンス語crousto「殻、皮」から派生したcroustado。「パスティス」「トゥルチエール」とも呼ばれる。ジモンの『ミディ・ピレネー・パティスリー』では、「パスティス・ガスコンPastis Gascon」と呼んでいた。
★パスティスPastis
南西フランス各地方にあるパイ菓子の1つ。ケルシ地方ではこう呼ぶ。ラテン語pasticius「パイ包みの料理または菓子(パテ)」が語源。8世紀にスペインから侵入し、この地方を一時占領していたサラセン人がもたらした。
○パスティスPastis/トゥルトー・デ・ピレネーTourtre des Pyrénées
ミディ・ピレネー地方に伝わるブリオッシュ型で焼いたバターケーキのこともパスティスという。ガトー・ピレネーGâteau Pyrénéesとも呼ばれる。ジモンの『ミディ・ピレネー・パティスリー』では、「トゥルトー・デ・ピレネーTourtre des Pyrénées」と呼んでいた。パリのオー・ボン・マルシェでも「トゥルトー・デ・ピレネー」として売っていた。アキテーヌ地方のランデ発祥のパルティス・ランデPastis Landaisもケーキタイプとパイタイプがあるようだ。
○ガトー・トゥールーズGâteau Toulouse
粉末アーモンド入りの生地に、刻んだレモンの皮の砂糖漬けとアーモンドを加えたメレンゲを流して焼いたタルト。写真はトゥールーズで「Gâteau du Fenetra」という名で売られていたもの。
○ジャノJeannots
アルビで19世紀初頭に作られた。アニスの香りがついた、甘味のないパン菓子。生地を1度ゆでてからオーヴンで焼く。かつてはシナモンで香りづけしたワインに浸して食べていた。乾パンのような感じ。
★フランスでは中世に「エショデ」という生地を1度ゆでてから窯で焼くお菓子が流行した。この製法は日持ちをよくする効果がある。エジプトが起源らしい。
○ジャンブレットGimblettes
発酵生地にレモンやオレンジの皮、砂糖漬けのセドラ(ブシュカン)を入れ、アーモンドの風味をつけたもの。輪の形にして、1度ゆでてからオーヴンで焼くのが特徴。15世紀にアルビジョワ派の僧が考え出した。 ナンテールの修道士から伝えられたという説もある。ねっちりとした食感も作り方もベーグルに似ている。
○ナヴェットNavette
マルセイユ銘菓の舟形のクッキー。アルビではペースト状にしたフルーツの砂糖漬けを加える。
○クロッカンCroquant
フランスの南の地方で作られるお菓子。チュイルのような薄い焼き菓子。クロッカンとは「カリカリした」という意味。
キリスト教にまつわるお菓子
○ミアスMillas
トウモロコシ粉の団子、及びそれを固めてバターで焼いた南西フランスの菓子。トウモロコシが新大陸から伝わる前にはmillet「きび」を材料としていたのでこの名がある。練りパイ生地や折りパイ生地に砂糖入りの溶き卵を加えたケーキもこう呼ぶ。トウモロコシ粉と小麦粉を混ぜた粥状のものを冷やしてから切り、砂糖をふって焼いたもの。アキテーヌ地方やポワトゥー地方には、丸いフラン型に流して窯で焼くミアスがある。またペリゴール地方では、「シトルイユ」というカボチャのピュレを加えることもある。呼び名も「ミア」「ミアスゥ」などさまざま。かつては復活祭に食べていた。
作り方は、鍋に牛乳、水を入れて沸騰させ、トウモロコシ粉と小麦粉を入れて混ぜる。さらにバター、砂糖、レモンの皮のすりおろしを加え、とろみがついたら火からおろして布にくるんで水気をとる。これを厚さ1cmほどに切って、フライパンで焼く。
○クリュシャードCruchade
トウモロコシ粉で作った団子をのばして揚げた南西フランスの塩味、甘味の菓子。
お祭りのお菓子
○リソルRissoles
練りパイ生地にプラムやリンゴのピュレを詰めた揚げ菓子。刻んだソーセージやチーズを詰めた惣菜風もある。アヴェイロン県を中心に作られている。発祥は17世紀、モントーバン付近で、すりつぶしたアーモンドを詰めたものだったらしい。アヴェイロン県で作り始めたのは20世紀に入ってから。オーヴェルニュ地方、サヴォワ地方にもリソルはある。
コンフィズリ
○ヴィオレット・ド・トゥールーズ・クリスタリゼ Violette de Toulouse Cristallisée
トゥールーズ名産、スミレの花の糖衣がけ。スミレは16世紀にイタリア人によってフランスにもたらされ、当時は呼吸器疾患を治療するための塗り薬に混ぜて使用されていた。また、花びらを砂糖のシロップやハチミツにつけて食べると体に良いと信じられていた。その花をシロップ漬けにして、砂糖を結晶化させて覆うことを考え付いたのが、トゥールーズの砂糖菓子職人。以来トゥールーズは、スミレの花の砂糖漬けの町として知られるようになった。写真はスミレの花の砂糖漬け専門店で見つけたチョコレート菓子に、スミレ花を散らしたもの。