【フランスおいしい旅ガイド】アルザスの地方菓子
フランス北東部、ドイツとの国境に近いアルザス地方の郷土菓子をご紹介します。かつてフランスとドイツで何度も領土争いがあったことから、ドイツの影響を受けたお菓子が多いです。乳製品や果物にも恵まれ、それを使ったお菓子やジャムも魅力的。
土地の産物を使ったお菓子
○フルーツのタルトTarte aux Fruits
今やフランス中で見かけるお菓子だが、本来、フルーツ・タルトはアルザス地方の伝統菓子とされている。練りパイ生地にブルーベリー、チェリー、クウエッチ(濃い紫色で少し大きめのプラム)、ルバーブ、アンズ、リンゴなど季節のフルーツを並べ、砂糖、卵、生クリームを混ぜた液体を流して焼いたもの。またアルザスにはフランスでは珍しく、フロマージュ・ブランを使ったタルトもある。
★タルトは、折りパイ生地などの台にフルーツやチーズなどのせてオーヴンで焼いたデザートや料理。ラテン語 torquere「ねじる、丸める」から後期ラテン語panis tortus「丸いパン」が派生したのが語源。上面に帯状の生地をのせることもある。生地でおおい密閉するとトゥルトと呼ぶ。
○タルト・オ・フロマージュTarte au Fromage
デザート前にチーズを食べる習慣からか、フランスでチーズのお菓子は珍しく、これはドイツのケーゼ・クーヘン(チーズケーキ)が原型。ドイツでいうクワルクというフレッシュチーズをふんだんに使い、ねっとりとした口当たりながら、レモンの香りを効かせて仕上げる。
○玉葱のタルトTarte à l'Oignon
練りパイ生地をしいたタルト型に、薄く切った玉葱をこがさないようにバターでじっくり炒めて甘味を出したものを入れ、生クリームと卵、牛乳をよく混ぜた液体を注いでオーヴンで焼く。アルザス人自慢の郷土料理である。
○ツェヴェルヴァイZewelwaï
玉葱のタルト。「膨らんだ玉葱」という意味のアルザス語。
○フラムンキューシュFlammenküeche
玉葱をのせたタルト。「炎のタルト」という意味のアルザス語。
○タルト・フランベTarte Flambée
アルザス風極薄ピザ。薄くのばしたパン生地にフロマージュ・ブランや生クリームを塗り、玉葱、ベーコンをのせて焼いたもの。アルザスのビストロ、ヴィンシュテュッブ Winstubの定番メニュー。
○マンステール谷のトゥルトTourte de la Vallée de Munster
豚肉、羊肉、玉葱、卵、パンのトゥルト。
○マンディアンMendiant
アルザスならではの家庭菓子。残ったパン・オ・レやクグロフを牛乳、卵、砂糖に浸し、シナモン、レーズン、リンゴまたはブラックチェリーを合わせてグラタン皿で焼く。マンディアンとは「物乞い」の意。
○ベトゥルマンBettelman
サクランボ入りのアルザス地方のクラフティ。bettel「物乞い」、mann「男」の意味のドイツ語がアルザス語となった。と、白水社の「フランス食の事典」にあるが、フランスのお菓子の本をみると、マンディアンの別名のようでもある。また別の資料によると、ベトゥルマンの作り方は、古くなったパン・オ・レを1口大にし、バニラ風味の砂糖入り牛乳に浸し、オレンジピール、卵黄、チェリーなどのフルーツと泡立てた卵白を加え、型に入れて焼く。一方マンディアンも、パン・ペルデュやパンプディングにフルーツやレーズンを加えたもの説明としていて、どうやらベトゥルマンの方がよりクラフティに近い感じのようだ。私は2度ほどアルザスを訪れたが、春と夏だったため、出会うことができなかった。
○アイウルキューヒュEierkueche
アイウルクーカともいうアルザス地方のパンケーキ。アルザス語eier「卵」とkueche「ケーキ」の合成語。デザートにするが、サラダにつけ合わせることもある。
○フォレ・ノワールForêt Noir
ココアの入ったスポンジの間にサクランボをはさんだケーキ。フランスとドイツの国境にある黒い森の森林地帯をイメージして作られたもの。
○シュトゥルーゼルStreusel
パン生地の表面に卵を加えないで作ったサブレ生地をつけて焼き、砂糖をふったアルザス地方の甘味パン。
○ソリレムSloilemme
アルザス地方発祥のブリオッシュの一種。熱いうちに2つに割り、バターをしみこませて茶とともに供するが、魚の燻製に添えることもある。18世紀イギリス、バースのサリー・ランも同様のもの。
○ダンプフニュードルDampfnüdle
ドイツおよびアルザス地方の丸い甘味のパン。小麦粉、牛乳、バター、砂糖をこねて小円盤形に切り、オーヴンなどで蒸し焼きする。生地を薄くのばしジャムなどをはさんで作ることもある。
キリスト教にまつわるお菓子
○ヴィレ村のパン・デピスPain d'Epices du Val de Ville
ベルギーやアルザスで12月6日のサン・ニコラの日に子供達に配られるスパイス・クッキー。サン・ニコラはアルザスの子供達の守護聖人で、中世に十字軍によって、小アジアから東ヨーロッパに伝えられた人物。ハート型や動物の形をしたこの焼き菓子には次のような言い伝えがある。ニュールンベルグ地方の貧しい巡礼者が、アルザスのヴィレ村にやっとのおもいでたどり着いたとき、心優しい一家に招き入れられた。その感謝の気持ちとして、ハチミツ、アーモンド、香辛料の入ったお菓子の作り方を教えた。その後この家の人があるパン職人に教えたところ、パンの守護聖人の祭りの日に、この老巡礼者をしのんで、ハート型の「パン・デビス」を作ったという。
○パン・ダニスPain d'Anis
アニスは中近東からフランスに伝わった甘い香りのスパイス。アニスのクッキーはアルザスでも主にコルマールやミュールーズで作られている。レリーフ型で作るものを特に「スプランジェールSpringerle」と呼び、クリスマスに焼く。生地を12~24時間乾燥させてから、パンの形に成形したり、型に押し付け模様をつけてオーヴンで焼く。
○シャンクラSchankelas
クリスマスシーズンのお菓子。アーモンド風味の小さな揚げ菓子。
○ブレデルBredle
ミニクッキー。バター風味、アニス風味、シナモン風味など、種類は豊富。バター風味のものはButterbredalasと呼ぶようだ。
○シュヴォヴェブレーデルSchwowebredel(Schwobe Broedel)
星や花、動物の形をしたクリスマスのビスケット。
○ビルヴェッカBirewecka
クリスマスのお菓子。イースト生地に、やわらかく煮た果物と干しブドウ、ナッツ類をたっぷりと入れ、オレンジやレモンの皮、キルシュなどで香りづけして、なまこ形または棒状に形成して焼く。ねちょっとした食感。
民族の移動によって伝えられたお菓子
○クグロフKouglof
アルザス地方を代表するお菓子。Kugelhopfともいう。ドイツ語でkugelは球、hopfenはホップ。当初ビール酵母で発酵させた生地で作った。小麦粉、イースト、バター、砂糖、牛乳、塩をよくこね合わせて作った発酵生地に、キルシュに漬けて戻した干しブドウを混ぜ、丸ごとのアーモンドを底において、中が空洞で斜めの溝模様のついた特産の陶器の型で焼く。オーストリアが起源で18世紀にマリー・アントワネットがフランスに伝えたとか、19世紀初頭のフランス料理界で一世を風靡した名料理長カレームが作り方の秘訣を知っていたとか、様々な説が語り継がれている。
アルザス・ワイン街道沿いの町リボーヴィレRibeauvilleで信じられている伝説は、この町に住む陶器職人が、おもしろい形の陶器の型を作った。ある日、東方の三聖人を家に泊めたところ、お礼にとこの珍しい型を使ってお菓子を作った。これがクグロフの始まりであるというもの。そんなクグロフの故郷としての威信をかけて、毎年6月第1週目の週末にはクグロフ祭りが開かれ、焼きたてのクグロフが冷えたアルザス・ワインと共にふるまわれる。クグロフはクリスマスをはじめ、あらゆる祝い事の日に欠かせない。パーク(復活祭)には仔羊型で焼くクグロフも登場する。
○ブレッツェルBretzel
19世紀にドイツから伝えられたパン。ラテン語で「腕」を表す言葉を語源としている。8の字を描くように生地を結んで、アニスかクミンの粒を入れて粗塩をかけ、一度ゆでてからかりかりに焼いたビスケットのようなもの。ビールや食前酒のつまみにもなる。2本の腕を胸の前で組み合わせたようなこの形にはちょっとした伝説がある。アルザスのある小さな村で評判のパン屋が、領主をののしるようなことをしてしまい、牢屋行きとなった。が、領主に「もしも太陽が3つ見えるようなパンを作ることができたら釈放してやる」と言われて、生まれたのがこの形というのだ。同じ形で、ブリオッシュ生地やパイ生地でできたパンやお菓子も、ブレッツェルと呼ばれる。
○リンツァー・トルテLinzertorte
シナモンや丁字を混ぜたアーモンド生地の上に、フランボワーズのジャム(正式にはカシス?)を塗り、生地を格子状にのせて焼いたドイツのお菓子。アルザス地方でもよくみられる。
○プンパーニケルPumpernickel
ドイツ発祥の酸味のきいたふすま入りライ麦パン。アルザス地方では、ふすま入りライ麦とそば粉で作り、主に朝食に食べる。