当たり前を突破して、いいアイデアを作る方法 -卒業式を問い直す-
関東では桜の花が咲き、SNSや街中では卒業式ソングが流れているのを耳にする今日この頃、卒業式シーズン到来だなぁと実感しています。
今年はマスクを推奨するか否かなんて話題でも賑わっていましたよね。
思い出に残るであろう大きなイベントですが、私自身、卒業式にどんな思い出があったっけ?と思い出してみても・・・式自体ではなく卒業式の写真だけが記憶に残っています。
来賓の話が長かったりして、型式張っている部分が多く盛り上がりどころが感じられなかったのかも?
そこで、弊社のUXデザイナーの仲間たちの力を借りて、いかに卒業式の本編に存在価値を出せるか考えてみることにしました。
何がしたいんだ?と思われるかもしれませんが、このように既存の行事など「当たり前」と思われているものに価値を出せるか考え直してみるのは、UXデザイナーにとって、ある種「本質」だと考えています。
この記事では、最初にUXデザインの基本的な考え方について紹介し、その後に卒業式の問い直しについてそのプロセスや内容を具体的に紹介していきます。
普段UXデザイナーってこんなことやってるのか~と、想像しながら読んでいただけるとうれしいです。
そもそもUXデザインってなんだ?
UXデザインってなんぞやという点については「我々が伝えていきたいこととして」こちらで説明しています。詳しくはそちらもご参照ください。
一言でいうと「ビジネスが成功するためのプロダクトの体験を設計する」ことですが、これでもまだわかりにくいですよね。
このあたりは解釈が分かれやすいところで、本当にいろんな人がいろんなことを言うのですが、個人的には
ユーザーがプロダクトやサービスに触れるとき、こんなことができて、こんな気持ちになったらいいなと、理想の状態に思いを馳せること
だと解釈しています。
そして、そのサービスを含めその周りにある事象や状態すべてに対し、当たり前の枠を外し、多方面から見直すことで、これまでになかった理想の状態を探索していきます。
アイデアはとにかく量だ!
UXデザインには「アイディエーション」というプロセスがあります。
アイディエーションとは一般にアイデアを発想し、出し合い、精査していくことを指します。
理想の状態といっても1つの正解があるわけではないので、いろんなアイデアを出し合うことで最も確度の高いアイデアの仮説をつくっていきます。
たくさんのアイデアを出すためのフレームワークはすでに世の中にありますが、フレームワークは頭を柔らかくして発想をふくらませやすくしたり、対象を見る方向性に広さを出すための手段のひとつで、それ自体を活用したからといってイノベーションを起こす革命的なアイデアがポンと生まれるわけではありません。
また、革新的なアイデアはたくさんの失敗作の上にできあがるものです。失敗や不採用を恐れず無邪気にアイデアを出していくことがいいアイデアへの1番の近道だと思います。
放課後お寿司クラブのお寿司コンビもひたすらアイディエーションをしていますが、お寿司を食べるのも、発想を膨らますひとつの手法なのだと思います(笑)
いいアイデアは、いい問いから
とはいえ食べられるものがアイディエーションの対象であるとは限らないので、ひたすら食べること以外にもアイディエーションを進化させるヒントがほしいところです。
よいアイデアをつくりだすためのヒントとしてとても参考になった本があるので少し紹介させてください。
この本では「いい問い」を作り出し、それを複数人で考えることによりいいアイデアを生む方法について詳細に記載されています。
ワークショップでのファシリテーションスキルを主眼に、アイディエーションにおける「いい問い」をつくる方法について丁寧に言及されています。
わたしが特に参考になるなと感じたのは「問いに制約を持たせ、探索の範囲を定めることでアイデアの方向性をコントロールする」という手法です。
先ほど「とにかく量だ!」と言ったのに制限するの?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、とにかくたくさんのアイデアを出した後はそのアイデアのブラッシュアップと収束が不可欠です。
たくさんの失敗作(かもしれない)アイデアをどう調理するかはこのプロセス次第です。
例えば「良いカフェについて考える」というテーマがあった時、これだけではどこから考えればいいかわからなかったり、アイデアが多様にばらけすぎることでまとめあげた最終的なアイデアにシャープさを出すことができません。制約は条件をつけることで考えの方向性をうまくコントロールし、アイデアの質を高めることができます。本書では5つの制約のテクニックが紹介されています。
④を取り上げてみると、「危険だけど居心地のいいカフェとは?」という真逆の制約を付与することでアイデアを考える視点をシュッと研ぎ澄ませることができます。
他にも、アイデアを考える前に思考を柔らかくする「足場の問い」の手法なんかもとても参考になるので、アイディエーションにお困りの方はぜひ読んでみてください。
というわけで
いい問いについて知識をバージョンアップしたところで、アイディエーションは1人でやるものではありません。
冒頭でお話したとおり、弊社に30人弱いる愉快なUXデザイナーの仲間たちを召喚!!
今回はこの4人に協力してもらって卒業式の問い直しに挑戦してみました。
問い直しワーク①卒業式の思い出を振り返る
これはお互いの「前提」「当たり前」を可視化することが目的です。
自分の中の当たり前は当たり前すぎて認識していませんが、他の人の当たり前を知ることで自分の当たり前を再認識できます。
今回のワークでも卒業式の本編である証書授与や呼びかけについて語る人、卒業式後のエピソードについて語る人、自身ではなく親として参加したときの思い出を語る人など視点がさまざまであることがわかります。
第二ボタンをちぎる練習をしていたありまさんはグッドパッチブログでとてもいい記事を書いているので嫌いにならないでください。
次に、卒業式を問い直す必要はあるのか?卒業式の課題感を明らかにします。
課題だらけでした。
受験勉強やコロナの影響で集まることが難しく、個人の多様性尊重が進むこの社会で、決められたことをただ反復させるのは、いささかナンセンスかもしれません。
むしろ昨今では、黒板アートやブレザーのジャケットを投げ上げて撮る写真など「インスタ映え」が主眼になっているとかいないとか。
本編以外に重きが置かれている実態はやはり顕著なようです。
問い直しワーク②卒業式の成り立ちについて調べてみる
なぜ合唱するのか、なぜ呼びかけをするのか、そこにどんな意味があるのか?
仮説を立て、その歴史について調べ、自分たちのあの頃の感情を重ね合わせる中で
「人生における卒業式ってどんな存在なんだろうか」という問いが生まれてきました。
これぞまさに、卒業式を問い直す上での根本の問いですよね。
問い直しワーク③現場に聞く
お互いの思い出について話し合ってみたり、歴史について調べるのも「卒業式」を知る上で大事なインプットですが、卒業式を経験するのは小学生〜高校生が多いですよね。
ちょうど我が家に3人の現役がいたので、卒業式が子どもたちにとってどんな存在なのかをインタビューしてみました。(時代が違うしね・・)
「振り返る」「感情」「最後ならでは」といったところがキーワードになってきそうなことがみえてきました。
アイデアを出す
卒業式について、自分たちなりの問い直しができてきたなと思ってきたところで、いい卒業式についてラフに発散していきます。
鬼ごっこや思い出動画など、悪くはなさそうですが、断片的なプログラム改善になりそうなので一旦ぐっとアイデアを加速させる方向に振り切ってみます。
アイデアを進化させる
次に、アイデアにさまざまな制約を持たせることと、1つのアイデアを進化させることを同時に進めていきます。
今回は「ブレインライティング」という手法を少し工夫して使ってみました。
5人それぞれが制約とアイデア(黄色の付箋)を出し、次の人が元のアイデアを進化させることを繰り返しアイデアを広げていきます。
例えば、「学校経営の強みになる卒業式とは?」というテーマで始まったアイデアに注目してみます。
複数人で1つのアイデアを進化させることで、パッと考えたアイデアが具体化されたり、ビジネスに必要なマーケティングの観点が考慮されていきます。
ブレインライティングのいいところは、アイデアをその場で出したり否定したりされるのが苦手な方もアイデアを出しやすいところです。
アイディエーションの場では「Yes!and...」を基本ルールとし、アイデアを発展させていくことが良しとされることが多いですが、会話だとうっかり「いや、それってさぁ・・」と言いたくなってしまう方も多いのではないでしょうか。
「いいアイデア」に最も必要なこと
無事にアイデアもブラッシュアップされ、アイディエーションは大成功、めでたしめでたし……といきたいところですが、実はそうではありません。
みなさま大事なことにお気づきになられたでしょうか?
このアイディエーションには足りないものがあります。それは「クライアント(ビジネス主体者)」のみなさまです。
ユーザーのニーズがあり、そこに課題があり、解決策を模索するのはとても大事なプロセスです。
一方で、そこにアセットやビジネスが存在することは我々が商業デザイナーである限り絶対に欠かせない要素です。ビジネスにおける制約や技術的課題などさまざまな制約を考慮しなければアイデアは具現化されません。
今回の卒業式でいうなれば、例えば今までの卒業式を変えたい学校があったとき、その学校が何を目指したいのか?その卒業式で学校関係者(教師、親、子どもたち、その地域)がどんな状態になって欲しいのか?といったビジョンがなければ最終的なアイデアが「いいアイデア」かはわかりません。
また、その変革にかけられる予算や練習を運営する教師のみなさまのモチベーションがなくては実現は不可能です。
我々は、デザインをするとき、この関わる人たちにどんな関係があるのか?関係性はフラットなのか?どこかにサービスを加速させる力点があるのか?を明らかにすることを重要視しています。
関係性やステークホルダーを洗い出すことで、ユーザー価値に偏りすぎないビジネスの成功のチャンスを発見することができます。
私の個人的な意見になりますが、UXデザイナーに最も必要なのは共感力であると断言します。
ユーザーに共感し、ユーザー課題を自分ごととして解像度高く考えられることはもちろん、クライアントのみなさまに共感し、ビジネスについても解像度高く理解し、成功のイメージを解像度高く語れることが大切です。
そして、理解はしても実態はそのどちらでもないというこの絶妙なバランスのとれるポジションだからこそ、ビジネスの成功とユーザーにとって価値ある体験の両立ができるのではないでしょうか。
おわりに
手前味噌にはなりますが、案件でもめっちゃくそ活躍してるのにこの個人的な取り組みに付き合ってくれた仲間たちに超絶感謝です。
これからも、愉快な仲間たちが日々どうUXデザインのプロセスを編んでいるか発信していきますのでぜひ楽しみにしていてください。
近いうちに、またお会いしましょう!
この記事を書いた人
申し遅れましたが、グッドパッチでUXデザイナーをしているチョコと申します。
入社時に必ずあだ名をきめるのがグッドパッチのカルチャーで、クライアントのみなさまからもチョコと呼ばれていて最近は本名の存在感が消えました(笑)
詳細なプロフィールはこちらからもご覧いただけます。
アイキャッチ画像提供
著作者:callmetak 出典:Freepik
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?