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060 じゃあ、元気でね
「これいらない?」
バイト先の店長から渡されたのは、ひまわりの花だった。
新しい花が明日届くからもう処分するらしい。
5月も終わり。春と言うにはジメジメと鬱陶しいし、夏と言うほど暑くもない。
でももう用済みとされたひまわりを僕はビニール袋に入れて持ち帰った。
「花なんて貰ってきてどうするの?どうせ枯らすくせに。」
テーブルの上に置かれ、そのまま1晩経ったひまわりを見て彼女はそう言った。
あぁ、昨日お酒を飲んだまま寝てしまって忘れていた。もう花は枯れてるだろうか。
「少し先を切ってあげて水につけておけば少し元気になるんじゃない?」
へぇ、詳しいね、なんて言うと一応女ですからね、なんて返ってきた。
女だから花に詳しいと言うのは初耳だけど。
でもこんな家に花瓶なんてあるわけない。そう思っていると彼女は台所から昨日飲んだビールの瓶を持ってきた。
そしてテレビの前に無造作に置かれたハサミで先を切って、瓶に生け、机の上に置いた。
「帰るね」
彼女は荷物が沢山入ったカバンのチャックを締めながら僕に言い放ち、玄関へ歩いていった。
煙草のついで、とその後を追いかけた。
机の上に置かれた花は、こぼれても嫌だから一緒に持っていった。
玄関にしゃがみこんでブーツを履く彼女を眺めながら、僕は換気扇の下で煙草の火を付けた。
そう言えば彼女名前はなんだっけ。もうしばらく名前を呼んでいない気がする。
「じゃあ、元気でね。」
そう言って彼女は大きなカバンを持って部屋を出ていった。
それは、雨の降る朝だった。
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ひまわりを買ってハートランド(ビール瓶)に入れたら何だかエモかったので写真を撮りました。
ストーリーのある写真を撮るのがカメラの楽しみ方かなぁー、と思っております。その一枚、その一瞬で語られるいままでとこれからを記録できればな、って。
まぁ、キッチンは普段は料理をしないのでとても綺麗なんだけど、写真の為に散らかしました。
写ってる酒はほぼ私が飲んだけど。