【お】おかめとオータムと小田和正
女は愛嬌
「ケイコちゃんは可愛いかもしれないけど、女は愛嬌なんだからニコニコしていれば大丈夫!」と、唐突に母が言った。西日が強く差し込んでいたので夏だったのだろう。
小学3年にして既に察しが良かった私は、将来娘が顔の造作で悩む前に、母は先手を打ってきたなと思った。比較対象ではなく比喩としてのケイコちゃん。おかげさまでというか何というか、ここまで愛嬌で過ごしてきたと思う。
“可愛い”“美人”は、“頭がいい”“運動ができる”“器用”などと同じで、持って生まれた才能の一つだと思っている。パッと見で分かる才能のため、持つものと持たざるものの区分けがしやすいだけだ。時代が違えば、おかめも美人であることを考えると、その基準も永遠に当てはまるわけではない。
とはいえ、男女を問わず美しい人を見ると気持ちがよいのも事実なので、人の価値観に振り回されないようにするというのが、私らしい立ち位置なのだろう。
おさがりとオシャレ
おさがりをもらえて助かるわーというレベルではなく、私は殆どおさがりで大きくなった。新品の場合は廉価品の更に売れ残りで、自分の好きな服を選ぶなんてとんでもない。今から50年くらい前に女手一つで子どもを育てた母は、本当に大変だったのだ。
小学2年のとき、学芸会のために裾の広がるスカートとフリルの付いた靴下を西友ストアで買ってもらったことを今でも覚えている。選んでいいよと言われてとても嬉しかった。でも何だか、あからさまに喜んではいけない気もして感情は出さなかった。母を傷つけるような気がしていたんだな、多分。
「女は愛嬌」の教えのせいか、おさがり生活のせいかは分からないけれど、私はあまりオシャレに興味を持たないままだった。勤めるようになってからは洋服屋さんや靴屋さんでの買い物もそれなりに楽しんだけれど、優先順位はそれほど高くなく、お金を使うなら形のないものにより惹かれる。
そんな私が、最近はオシャレをするのが楽しくなってきている。その理由は明確で、今年の4月に受けたパーソナルカラー診断のおかげだ。
私はイエローベースのオータムタイプ。似合う色がはっきりしたことで、自分自身をもっと素敵に魅せることが出来ると信じられるようになったのだ。
金額とデザインを見て仕事に着られそうな服を選ぶのと、これを着たら自分が素敵に見えるかもと思って選ぶのでは全然違う。楽しいな、と思う。
紅茶と絵本
高校の同級生たちは、制服や三つ編みがダサくて嫌だったと今でも嘆くけれど、変な制服とは思いながらもあまり気にせず、よく原宿に寄って帰った。
ファッション関係の店はよく分からず、落合恵子さんの『クレヨンハウス』で絵本を堪能して、その後は『友&愛』で紅茶を飲んでいた。バイト代の多くは原宿で消費していたことになる。
出来たばかりのラフォーレ原宿の斜め前のビルの一階に入っていた『友&愛』は、オフコースの小田和正さんのお父さまが経営しているお店で、お兄さまは時折来店されていた。
「小田さんが来ないかなぁ」なんて思って通い始めたが、お店のお姉さんたちに可愛がってもらったこともあり、そのうち下心なく常連になっていた。
40年前に『友&愛』で初めて飲んだロイヤルミルクティーは、『クレヨンハウス』の原宿色のソーダ水と共に、私の青春の味である。