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#102 坂東玉三郎さま(お気に入りを500数える)
六代目坂東玉三郎さまを知ったのは高校1年生のとき。
隣の席になった子が玉様の大ファンで、「次の休みに歌舞伎に行くんだけどお着物悩んでて〜」とか「昨日の玉様は本当に素敵だったわぁ」とか話しているのが聞こえてくるのです。
住む世界が違うんだなぁと思いつつ、私もいつかは生の玉三郎さまを拝見しようと心に決めていました。
それから約20年後、初めて玉三郎さまの舞台を観たのは歌舞伎ではなくて『夕鶴』。
作者の木下順二先生はこの作品の上演を「山本安英の会」以外のプロの公演を禁止していました。そして山本安英さんが亡くなられた4年後の1997年に玉三郎さま主演で行われることになったのです。
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この作品が大好きで、山本安英さんが演じられたカセットテープを擦り切れるほど聞いていた私は「どうしても玉三郎さまの舞台が観たい!」とチケットを取りました。
当時は生活に困窮していたにも関わらず、初日と中日を2枚取るという暴挙に出ました。
結果、、、、、観に行って本当によかったのです。鶴の恩返しの「つう」の役は、人間とは思えない透明感と艶をもつ玉三郎さまにピッタリだったのです。
何より美しすぎて、ただただうっとりしました。
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それからまた月日が経ち、やっと歌舞伎座で玉三郎さまを拝見したのは2004年1月の舞踊『京鹿子娘二人道成寺』。
円熟の魅力の玉三郎さまと、瑞々しい尾上菊之助さんのお二人の舞は、それはそれは華やかで見事でした。
シネマ歌舞伎にもなっていますので、予告をご覧いただけます。
翌2004年2月には『三人吉三巴白波』を観劇。
私はこのときの感想をこんな風に書いていました。
「こいつは春から縁起がいいわえ」
お嬢吉三の玉三郎が、ゆったりと台詞を唄いあげていく。
「月は朧に 白魚の」
「かがりもかすむ 春の空」
なんと優美な調べでしょう。
観る直前の付け焼刃の知識しか持ち合わせず、深い面白みまで到達したとは思えませんが、それでも美しい日本語の響きが身体の中に流れ込んできて、何とも不思議な心持ちになったのでした。
生まれついてのこの悪党は、清々しいくらい闇が似合う。男女どちらもの性をもち、未熟と成熟を行き来している。哀しさや切なさという言葉では間に合わない感情。愛なのか、運命なのか。私にはただただ遠すぎて。
「こいつは春から縁起がいいわえ」
すこぉし乾いた声がきっぱりと空気を割る。
仁左衛門さまが好きな私ですが、この演目ではお坊吉三ではなく、ひたすらお嬢吉三に見惚れておりました。
このときの和尚吉三は市川團十郎さまで、今考えると何とも贅沢な舞台を観せていただきました。当時は有り難みがわかっていなかったです。
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孝玉コンビのころは観られませんでしたが、ニザ様とご一緒の玉三郎さまを何回か拝見でき嬉しく思っています。
おどろおどろしいお岩さんでも哀しい美しさで魅力的にしてしまう、どこまでも人間離れしている玉三郎さまなのでした。
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最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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