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『現代短歌新聞』2022年7月号

①「インタビュー三枝昻之氏に聞く」〈素朴な疑問をサポートしてくれるのが評論で、評論があるから作品の魅力がより見えてくる。一首の深さを評論だからこそ教えてくれる。(…)一歩立ち止まったら、ぜひ評論を開いてほしい。〉歌人クラブ大賞受賞おめでとうございます。
 短歌評論の理想だと思う。作品の魅力をより引き出すのが評論だ。短歌は詩だから現実と遊離した部分がある。それを散文で繋ぎとめるのが評論だと思う。ああ、そういう良さがあるのねと思わせる評論がもっと多く書かれて欲しい。読者も構えずに評論を読めたらベストだ。

②佐々木亜子「読売文学賞の歌集『青南集』『続青南集』」白き人間まづ自らが滅びなば蝸牛幾億這ひゆくらむか/旗を立て愚かに道に伏すといふ若くあらば我も或は行かむ 土屋文明〈庭の草花を食い荒らす蝸牛への怨念と米ソの核開発競争。安保闘争さなかの複雑な胸中。〉
 この二首は文明の『青南集』の中で最もよく引かれる歌だと言っていい。私は以前からこの二首を最初に引いた人は誰だろう、と思ってきた。『青南集』の大量の歌の中からこの歌を引くのは本当に慧眼の持ち主だ。
 佐々木は『青南集』にたくさん収められている蝸牛の歌について述べている。文明が庭の草花の敵としてリアリズムで描き出した多くの蝸牛の歌。そのリアリズムがある契機で、引用された歌のように抽象に転ずるのだ。この歌の背景には何十匹もの現実の蝸牛が存在するのだ。

肉のなか夜ごとふくらむ枇杷の種子生れざるものの眼となりて 楠誓英 肉は果肉なのだが、なぜか人間の身体の肉の中で枇杷の種子のような大きな種がふくらんでいくような印象を受ける。ちょうど眼球ぐらいの大きさ。この世に生まれることが出来なかったものの眼なのだろうか。

④小塩卓哉「完了の助動詞「り」」〈サ行変格活用に接続する時は未然形に、四段活用の時は已然形に接続します。大学受験の際には「サ未四已(さみしい)」と語呂合わせで(…)〉「りは寂しい」ね。それでこれ何やったっけ?って高校の時はなってたわ。

⑤外塚喬「短歌レッスン」ひび割れた舌には白湯を ひび割れた身体が夜ごと硝子に変わる/よく冷えた唾液を舌で泡だててわたしはがまんできるいきもの 田村穂隆〈二首とも、舌そのものを詠んでいるようですが、舌というものを通して異次元の世界に読者を導いている感じがしてなりません。「硝子に変わる」という、まったく予想もしない表現には驚くばかりです。二首目の「舌で泡だてて」も独創的かと思います。〉
 今月は田村穂隆の『湖とファルセット』を取り上げている。
 七首挙げての丁寧な鑑賞。外塚の読みに感動する。外塚は、一首に集中して、歌の詩的真実に迫っている。読み手の世代も作風も、読みには関係無いのだなあと改めて痛感する。このように読めば、良い歌は必ず届くと思った。

2022.8.4.~5.Twitterより編集再掲