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『黄色い本 ジャック・チボーという名の友人』高野文子(講談社)
「黄色い本」(ネタばれあります。)
舞台はおそらく1960年代の地方都市。高校生の実地子は学校に行きながら家の手伝いをし、夜は図書館で借りた『チボー家の人々』を読んでいる。全五巻のそれは、回りには「黄色い本」と認識され、実地子は難しい本を読む少女と思われている。実地子は本にのめり込み、ついには、登場人物のジャック・チボーやその仲間たちと友人になり、会話するようになる。
どういう家族構成か分からないが親戚が大勢住んでいる家。そんな家族の中で、利発な文学少女で、しかも現実的な仕事もでき、自慢の娘であるらしい実地子。しかし、回りの大人にも実地子自身にも、彼女の高校卒業後の進路に関して「就職」以外の選択肢が一切浮かばない。大学で文学の勉強をするなどの発想は根本的に皆無だ。そんな時代であり、地域だったのだろう。実地子は卒業を控えて、本の中の「友人」たちに、「お別れしなくてはなりません」と告げる。同じ小学校出身の男性が学生運動に関わっていることが示唆されるが、女性の実地子は小説中の革命運動家たちと別れて、地方の工場に就職するのだ。それを淡々と受け止めていく姿が胸に残る。
他に「Cloudy Wednesday」「マヨネーズ」「二の二の六」の3編を収録する。
講談社 2002.2. 800円(税別)