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『塔』2022年12月号(1)
①吹き替えで伝えられたる難民の、ちがう、そんな声のトーンではない 前田康子 吹き替えになる前の一瞬の元の音声、その激しい口調。あるいは映像の激した話し手の表情。しかし吹き替えの声は冷静そのもの、おだやかな口調だ。違う、と思う。元の感情が消されてしまっているのだ。
②風は草をわれは疚しさを揺らしいて岸辺は時間をゆるませる場所 永田淳 風に草が揺れるように、主体の疚しさが揺れる。岸辺で時間がゆるむように過去が現在と混在するような感覚を持つ。過去の何かが主体の心をざわつかせる。疚しさという言葉で表現されるような感情が起こるのだ。
③落としいる我がまなざしも拾いつつ一列にゆくつま先の蟻 永田淳 蟻の隊列が後ろから主体の身体の下を抜けて前方へと延びて行く。その蟻を見つめている主体。主体が蟻を見つめていることを「まなざしも拾いつつ」と表現したところが面白いと思った。
④浅野大輝「短歌時評」〈どのようにしたら短歌において〈わからなさ〉のなかにありながらも〈わかる〉ということは実現されるのだろうか。先の検討を踏まえるならこの問いは、短歌において何が合理的判断に先立つ〈他者〉を成立させるのか、という問いに変換される。(…)短歌において、合理的判断に先立つ〈他者〉となりうるものは何か。時評子は、それはリズム・語・事実ではないかと考えている。(…)先に挙げたリズム・語・事実は、合理的判断の前提に組み込まれながら、その作品に対する読者の解釈や説明としては回収しきれない部分を有しているように思われる。〉
4ページにわたる年間時評の中から興味深い点を引いた。この後、時評では子規の一首を引いて、具体的に検証している。特に事実や事実性について述べた部分が面白かった。さらに複数の歌を挙げて検証した文を読みたいと思う。 こちらから全文読むことができます。
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⑤千葉優作「誌面時評」〈(経験を積んだ選者でも)連作に込められた意図のすべてを完璧に理解できるかといえば、それは不可能な話だ。そもそも、人は、自らが意図を汲むことができた歌によってしか連作を解釈することはできない。〉そのため複数人で読む必要がある、と論は展開する。
これはとても重要な指摘だと思う。自分の読みだけで、連作をあるいは歌集を読み解いたような気持ちになっていても、意図が汲めない歌を何となく通り過ぎてしまうのはよくあることではないだろうか。だから歌集を読む会などがどうしても必要なのだと思う。
ただ、これは「連作がある意図の元に、作者によって有機的に作られている」ということが前提になっている。作った歌を時系列に沿って並べただけ、というような場合は省かれる。今、連作の力が弱まっていると私は感じている。複数人で取り掛からないと読めないような手強い連作を読みたいと思う。
⑥「年間回顧座談会2022」
今年は滋賀歌会のメンバーが「塔」の1年を振り返って語って下さった。
◆記念シンポジウム・全員歌会
嶋寺洋子〈二年間全国大会がなかったので皆さんに会うのが久しぶりでうれしかったです。四百人席がほぼ満員で、ちょっと感激しました。〉
対面の全国大会が開催されて本当に感無量。まだ元の形式ではないけれど、少しずつコロナ前の形に戻っていけたらと思う。
◆八〇〇号記念特集号 座談会「そもそも歌集ってどう読んでる?」に触れていただいた。 アーカイブあります。
その他
◆塔短歌会賞・塔新人賞
◆七月号「読みとリズム」
◆八月号「河野裕子と食べ物の歌」
◆その他の特集について
◆滋賀で初校を始めました
◆連載、選歌欄評、方舟
◆私の注目する歌人
⑦「年間回顧座談会」
◆塔短歌会YouTubeチャンネル
戸田明美〈これ私が入ったときにもあったらよかったなと思いました。(…)鈴木晴香さんがすごく分かりやすく説明してくださっていて。〉
船岡房公〈僕は、澤村斉美さんの話が非常に明快で、さすが編集長やなと思って聞いたんです。〉
福西直美〈「この方(澤村さん)がこうやってされているんだ」と思って、全幅の信頼感を得ました。〉
俵山友里〈(吉川宏志さんは)短歌との向き合い方というのを仰っていて、新しい表現を作っていくということと、自分の人生をどう生きるか、どう表現していくかと、その両方が大切と仰っていたのが、すごく心に残りました。〉
船岡〈(歌碑ツアーの)オープニングで鈴木晴香さんが立って、裕子さんと永田さんの法然院に関する文章がずっとナレーションとテロップで入っている、あの辺の作りが素晴らしかったです。〉
4篇全部に良い感想をいただきました。
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2023.1.2.~4.Twitterより編集再掲