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エドガー・ドガ / メトロポリタン美術館
(失)恋文綴り
わたしが知り得ないような美しい世界からやってきたひとびとに怯えながら生きていた、あの時、そこにあなたが居た。
掌から取り溢した数多の中にあらゆる大切なものたちがあったような気がして振り向いた、その中に、あなたが居た。
であうこと、うしなうこと、それぞれどれだけ拒んだとしても避けられないその営みの、そのただ中に、あなたが居た。
夜のいろと朝のにおいを羽織って歩くきみの、
通った跡に花をまくような役になりたかった
雨の降る窓、コンクリートが湿るときのにおい、葉をたたく雨粒の音、結露するガラスのコップのような色の空、
雨の日のあらゆるものにきみの面影が潜んでいてわたしを離しはしないくせに、
雨が上がったとたん何もなかったかのように、てのひらから消えてしまうのだから。
夏がきたらきっと、落ちる濃い影や極彩色の陽炎にくらくらとして、あなたの目を見ずにすむ。夜の肌寒さに身を寄せることも、雨を理由に傘を分け合うことも、せずにすむ。夏がきたらきっと。
きみの心を天秤にかけようとして、もう片方に乗せるべきものがもう何も思い浮かばないとき、ああ、もう、わたしは心ごと消えてしまいたいなと思う
綺麗なものをみたときあなたに見せたいと思うのは、それをみて笑うあなたがもっと美しいことを知っているから
歌という媒体に きみの記憶が染みついて消せず
口遊むたびにそれが立ち上がってわたしを見つめる
見つめ返す勇気がなくて
歌に囲まれてわたしは いつも目を伏せる