あきら

名前のないひとたちの短編小説と、雑記、たくさんの独り言をかきます。透明で肌触りのやわらかい文章をかきたい

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冒険譚のラストシーンにて

あらすじ 竜は、植物であった。陽の光で躰を洗い、雨で喉を潤し、風で腹を満たし、食物連鎖のどこにも括られず、欲がなく、たいした思考もせず呼吸し、牙と巨躯と翼とをもつ、ただの巨木も同然だった。 ___人間たちに棲み処を荒らされて最後のいっぴきとなった竜。永すぎる命に苦悩する竜は、ある男との出会いで「植物ではない何者か」に、なろうとしている。 冒険譚のラストシーンにて _____ 確かめるような、祈るような気持ちで目を開く。そこに広がっているのは幻想的な夢の中とは比べようもな

    • 塵箱の歌(短いの2つ)

      塵箱の歌 綺麗な思い出じゃ無くて、お前の心の傷になりたかった。 そうして厚い瘡蓋になって、お前が何度それを剥がそうとも、最後にはお前の透明に永遠に影を落とす染みになりたかった。 それって歪んでいるねと笑うお前がいちばん壊れ切ってしまっていることを知っていた。 だからもっともっともっと、お前よりも哀しい生き物になって、お前へ降りかかろうとする泥や砂や石を払いのけられる無様さがほしかった。 正しいすがたのふたりしか祝福されない世界の中で、正しくなれない俺とお前とで、汚れた野良犬

      • 【創作】紡ぎ手たちの物語

        ずいぶん永い年月が経ったというのに不思議と、 初めてこの空に墜ちてきた日のことを、 よく憶えている。 なにも知らず、なにも知らされず、 遺構から遺構へ、雲を縫いながら 彷徨った時の気持ちも。 世界は大きく、孤独は鋭利に美しく、 どうしようもなく立ち尽くしたことも。 君と友達になった日から、 ひとつずつ知ってゆく幸福も。 一緒に過ごすなんでもない毎日の穏やかさも。 全部鮮やかに、よく憶えている。 でも、僕たちの永い永い日々は、 優しくて美しいことばかりでは、なかった

        • 喫茶aveで、会いましょう

          「ひさしぶり」  そう言って顔に落ちる髪の毛を耳にかけながら、僕の目の前の椅子を引いて、彼女は腰かけた。  10年前嫌というほど目に焼き付いた、彼女の葬式に飾られていた遺影と、全く同じ笑顔で。  どうしようもなく怪しくて、胡散臭い話だった。  でも、『死んだ人に会える喫茶店がある』という噂話をたまたま耳にしたとき、こころに湧いたのは猜疑心よりも追慕だった。だからその喫茶店の名前と住所を探してみようかとスマホの検索画面をひらいたときにはもう、「此処へ行ってみよう」と、こころ

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        冒険譚のラストシーンにて

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          死ぬまで消えない

          月夜のベランダには、酔いを醒ますに十分な冷たい風が満ちている。左手に冷えた缶ビール。右手に古いiPhone。 こんな、くたびれ気味のサラリーマンにとって最高なロケーションの花金の夜、俺の気分は最低であった。 ぼうっと動画を眺めていたはずのiPhoneには、先ほど唐突に現れたエアドロップーー画像共有をワイヤレスで行うシステムの確認画面。 そこに『受け入れる』『辞退』という2つの選択肢と、「高い建物の屋上の縁に立っている誰かの足を、真上から撮った写真」が表示されていた。

          死ぬまで消えない

          とてもとても思い入れのあるお話を、2000字近く増やして書き直しました。 秋と冬の真ん中で、よかったら暇なお時間に読んでみていただければ。▼

          とてもとても思い入れのあるお話を、2000字近く増やして書き直しました。 秋と冬の真ん中で、よかったら暇なお時間に読んでみていただければ。▼

          夜明けの波間に

           夢だと自覚する夢は何度かみたことがあった。夢でなければいいのにと思う夢は、初めてだった。  名前も知らない色の空だ。  紺と紫の夜の裾と、オレンジと赤の朝の気配が、遠い山の稜線の程近くで滲んでいる。すぐ近くで星や月がずいぶんと穏やかに光っていて、その輝きはまるで水の底に落ちた硝子のようだった。  ぼんやりとしながら自分のすぐ脇を見ると、白い塗装がざらざらと剥げた木の縁がある。そこへそろりと手をついて覗いたら、はるか下に黒い墨絵のような街があって、ぽつぽつと光る街灯が見えた

          夜明けの波間に

          誰かの目に届いた、ということを可視化するのはとても難しいので、どのプラットフォームでも♡や、⭐︎のような形で通知が届くと、ものすごく贅沢な気持ちになる。 あなたの大切な時間を借りて、わたしの文字を解いてくれてありがとう

          誰かの目に届いた、ということを可視化するのはとても難しいので、どのプラットフォームでも♡や、⭐︎のような形で通知が届くと、ものすごく贅沢な気持ちになる。 あなたの大切な時間を借りて、わたしの文字を解いてくれてありがとう

          自分が自分らしく穏やかに居る、ただそれだけの為の手順はなんてたくさん必要なのだろう 「どうか苦しみませんように」って祈りながら、儀式みたいに、目覚めてから眠るまで、ずっと 煉瓦造りの建物みたいにその手順の積み重ねが自分を作っているような気がして、滑稽でも繰り返す 祈りながら今日も

          自分が自分らしく穏やかに居る、ただそれだけの為の手順はなんてたくさん必要なのだろう 「どうか苦しみませんように」って祈りながら、儀式みたいに、目覚めてから眠るまで、ずっと 煉瓦造りの建物みたいにその手順の積み重ねが自分を作っているような気がして、滑稽でも繰り返す 祈りながら今日も

          ステファニア・エレクタ 栽培記録

          部屋の中に植物を増やしている。 自分で言うのも悲しいが、ものすごく植物の世話が苦手だった。なんど枯らしてしまったか数えきれないけれど、ここ数年で「植物の世話って思ったほど気張ってやるものじゃないんだな」ということがわかってきた。 どうやら愛情過多で世話をしすぎて、ダメにしていたらしい。反省。 最近はいろんな種類のものを枯らさずに楽しめるようになってきたので、私は部屋の中を植物園のようにしたいと目論んでいる。 この記事では、今一番成長具合が楽しいステファニア・エレクタという、

          ステファニア・エレクタ 栽培記録

          冒険譚のラストシーンにて -4-

          ▲▲▲ 炎の消えた闇のなか、新月のような色をした鱗が煌めく。 竜が口を閉じて父と敵将に向き直っても、竜の恐ろしい咆哮はいつまでも街に木霊していた。敵将が悲鳴を上げながら自軍の方へと駆けていく。 じっと父を見つめる竜。それを呆然と見ている父。 竜はその長い首を僅かに下した。 他の者には、威嚇のように見えたかもしれない。だが私と父には解った。 見覚えのあるそれは、あの竜の「別れの挨拶」だった。 少し下した首を、またもたげて。なにかを叫ぼうとした父を制するように、竜が再び咆

          冒険譚のラストシーンにて -4-

          冒険譚のラストシーンにて -3-

          ___長い長いうたた寝の後。諦め悪くいつまでも瞼を閉じていたが、すっかり優しい白昼夢は過ぎて行ってしまった。仕方なく瞼を開ける。夢と同じ景色が目に飛び込んできて、一瞬現実と夢の境目で迷子になる。首を軋ませながら地面を見下ろすと、そこに男とファリアだけがいなかった。 薄情なことに、わたしの白昼夢にはすっかり竜の仲間たちは出てこなくなった。代わりに男やファリア、時には顔も知らぬファリアの母も一緒に、昼寝をしているという内容に変わった。なんとも間抜けで取るに足りない夢。そして、得

          冒険譚のラストシーンにて -3-

          冒険譚のラストシーンにて -2-

          △△△ 名を呼んでやってくれるか。 そう言って男が、この世で一番重要な宝物でも隠しているんじゃないかと思えるほど大切そうに抱えている、布の塊を揺らす。男のささくれだった無骨な指があまりに優しく動くから、わたしは息を止めてそれを見ている。柔らかい布をすこしずらすと、そこからちいさなちいさな、頬と手がのぞく。その薄い皮膚に生えている産毛が、まだ低い位置からさしている陽の光を浴びて金色に輝く。 ”   ああ。” わたしの口から洩れたのは、返答だったのか嘆息だったのか、自分でも

          冒険譚のラストシーンにて -2-

          これは梅仕事中毒者の末路

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          梅とあそぶ

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          <自戒>残り1万4千文字

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