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塵箱の歌(短いの2つ)

塵箱の歌


綺麗な思い出じゃ無くて、お前の心の傷になりたかった。
そうして厚い瘡蓋になって、お前が何度それを剥がそうとも、最後にはお前の透明に永遠に影を落とす染みになりたかった。
それって歪んでいるねと笑うお前がいちばん壊れ切ってしまっていることを知っていた。
だからもっともっともっと、お前よりも哀しい生き物になって、お前へ降りかかろうとする泥や砂や石を払いのけられる無様さがほしかった。
正しいすがたのふたりしか祝福されない世界の中で、正しくなれない俺とお前とで、汚れた野良犬二匹みたいに生きていきたかった。
誰にも正されない獣のように、美しく壊れたそのままに、お前は生きていて欲しかった。
笑わないでくれ。泣かないでくれ。安堵してほうと吐くお前の嘆息ひとつがどうしようもなく必要だった。


欲しいものばかりだった。
贅沢なものではないはずなのに何ひとつ手に入らなかった。
要らないものばかりが俺の足に纏わりついて積み上がった。


塵箱の真ん中で泣いていた。隅の方で、ガラクタに埋もれながらお前が笑っている。僕らどこにも行けないね。そう言いながら笑っている。

どこにも行けなくてよかった。でも、お前の隣がよかった。

ガラクタたちが歌う。俺の泣き声もお前の笑い声も擦り潰しながら、塵箱の歌が鳴り響いている。



秋が来る前に


溶けゆく鮮やかな夏を、うしなう準備が必要だった。

高い位置で輝き続ける季節は、終わりの瞬間を悟らせまいと加速して消えていく。低い場所で手を広げていれば残滓くらいは抱き留められるんじゃないかと願うのに、手が届くころ、それは秋の姿をしている。

君は夏だ。まぶしく、美しく、熱く、速く、燦然とそこにいた。

いま私は焦げて萎れて腐って俯く向日葵のように、君に背を向けて、君がおちてくるであろう地面を見つめている。

終わらないでくれ居なくならないでくれと言う祈りは無意味だ。せめて終わる瞬間を、みせてくれ。


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