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【写真】雨上がり夏、生活は交錯する

洗濯ができるタイミングと梅雨の晴れ間がどうにも合わず、何度かコインランドリーに出かけた。

まずは家で洗濯機を回す。脱水まで終わった後、「風乾燥」というちょっとだけ水分を飛ばしてくれる機能を使う。そのあいだに別のやるべきことを済ませたら、大きい袋に洗濯物を詰めこんで家を出る。

霧雨がじっとりと体にまとわりついてくる。湿り気を含んだ洗濯物は重い。しかし雨の日にしては元気だ、と思う。休みの日は家の中で倒れているしかできない、そんないつもの梅雨に比べたらだいぶ行動的だった。歩いて行くにはちょっと遠いコインランドリーに行こうだなんて。どうしてだろう。自分でもわからない。



たどり着いたコインランドリーには誰もいなかった。乾燥機もひとつしか使われていない。しばらく雨が続いているのに意外だな。まだ朝早いからだろうか。500円玉を両替する。乾燥機に洗濯物を放りこむ。400円を投入すれば40分乾燥してくれる。

一度家に帰るのもめんどうなので、ベンチに座ってゲームをした。常に人が滞在しているわけではない施設だからか、冷房設備はないらしい。その代わり窓が開いていた。少し蒸すが風は涼しい。

ときどき水分補給しながら40分の経過を待つ間、何人かが洗濯物を抱えてやってきて、乾燥機に放りこみ、そして出ていった。コインランドリーではいくつもの生活が交錯している。外でありながら内のような、そんな場所。



スーパーなんかもそうか。仕事帰りにお惣菜を買うサラリーマン。大きなスイカひと玉を持ってレジに向かう老夫婦。お酒コーナーでワイワイしている男女四人組。お菓子コーナーを右往左往しながら悩みに悩んでいる少年。

人の数だけ存在する生活。そういう見知らぬ誰かの姿を見て、私はいつも勝手にその誰かの「生活」を思ってしまう。

たとえば先に書いたスイカを買う老夫婦なら、近々孫が遊びに来るのだろうか、とか。お菓子コーナーで悩む少年なら、親に「ひとつだけ好きなものを買ってあげるから選んできて」と言われたのだろうか、とか。

考えてみれば、世界がそういうものだった。ここは幾多の生活が、人生が交錯している場所。だから何だという話ではあるけれど、忘れてはいけない感覚のような気もする。画面越しのコミュニケーションがますます増えていく時代だからこそ、なおさらに。



「こんにちは」と声がした。私は「こんにちは」と返した。洗濯物を抱えた見知らぬおばあちゃんがにこやかに目の前を通り過ぎる。いつの間にか乾燥機はすべて使用中になっていた。「今日はいっぱいだねぇ、どうしようねぇ」とおばあちゃんが立ち尽くした。そのときちょうど、私が使っていた乾燥機から運転終了のアナウンスが流れた。

「私のところ、たった今終わったのですぐ出しますよ」と声をかける。「本当?ありがとうねぇ」と穏やかな声が返ってくる。

ここは生活が、人生が交錯する場所。これはやっぱり忘れてはいけない感覚のような気がする。ほかほかの洗濯物をリュックに詰める。バスタオルがふわふわだった。



轟く雷鳴は夏の号令。青梅雨が去って太陽が地上を焦がした、そんな一日の終わり。暴力的に降り注いだ雨は乾いた命を慈しむ。極端な湿度にあえぐ人々の足下で、または頭上で、緑は生き生きと夜空に歌っている。時折、遠くに漂う灰色の雲が稲光によって照らされている。

水たまりを避けて歩くサラリーマンの手が、ミスタードーナツの大きな箱をしっかりと握っていた。それに続くように歩く私は「どうしてもナスが食べたい、買って帰ろう」と考えていた。

さあ、夏だ。

立ち昇る青い草花の香りを吸い込む。遠くから打ち上げ花火の音が響いてくる。命それぞれに夏があり、その数だけ輝きがある。たとえこの夏が単なる日常として過ぎ去っていくとしても、人生にとってはもう二度と繰り返すことのできない、ただひとつの夏だ。

続いていく何の変哲もない生活が終わるときまでに、あと何回の夏を迎えられるだろう。

今年も夏らしい生活を求めていこう。たとえば冷やし中華、ナスの煮びたし、トマトやとうもろこし、それにスイカ。食べ物ばっかりじゃないかって?そりゃ、生活と食卓は切っても切り離せないもんですから。







































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月報

たくさん働いた一ヶ月だった。雨の日は外に出た瞬間に湿気で髪の毛が制御不能になるもので、そのたびに気分が最悪だった。前髪ぼわぼわ。ヘアスプレーしても防御にならぬよわよわな髪。たぶん日本の気候に合わない髪質なんだと思う。困りもの。

夏が終わったら旅をすると決めているけれど、どこに行くか一向に決まらない。やっぱり瀬戸内海周辺かな。寝台特急に乗れるうちに何度も乗っておきたいきもちがある。日本で定期運行されている寝台列車はひとつだけ。四国・中国地方に向かうのにぴったりなサンライズ瀬戸・出雲号のみ。寝台特急が日本から消えるのが先か、私が寝台特急に乗る体力がなくなるのが先か。とにかくこれに乗ることだけは決定事項としよう。


今月のプレイリスト

群青日和 / 東京事変

高嶺の花子さん / back number

magic city / flower(電ポルP)



  

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