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ピーター・ドイグ展ーあなたの心をのぞき込む
現代画家だが、抽象ではない。幻想的だがファンタジーではない。見ていると懐かしい気持ちにもなる。作家の世界を見ながら、自分の中に入り込んでいる。
現代美術というと「わからない」「難しい」という方が多い。私もそうだ。でも私は、考えるよりも感じることを大事にしながら見ている。時代背景や描く動機の大切さはあるが、まずは見ること。楽しむこと。実際に足を運ぶと驚くような体験ができる。
現代美術に興味があるけれど敷居が高い、という方にお勧めなのがピーター・ドイグ。
現代でもっとも注目されている、重要視されている画家、ではあるが、とにかく見ることを素直に愉しめる。ちなみに私は高校生の息子(美術がとても好きというわけではない)とい見たが、興味深く作品を眺め、好きな作品を何点も挙げていた。
全体は3つのコーナーに分かれている。
第一章は森や山、湖や木々など静かな自然を舞台にしている絵が多い。
第一章 森の奥へ 1986~2002
ドイグは1959年、スコットランド生まれ。
↑ 天の川 1989-1990
美しいのだが、じっと見ているとハッとする。湖に浮かぶボートの人がぐったりと倒れこんでいたり、水面に映った木のほうが茂っていたり。どこか得体のしれない世界に入り込んだようだ。
↑ のまれる 1990年
この作品も水面に反射しているが、水面のほうが広く、色鮮やかだ。
こうしてみても美しい絵だが、実際に見ると質感が違う。盛り上がり、光っているような、全体が静かに内側から輝いているような色であり、肌合いなのだ。そのことも相まって見ている人を引きずり込みそうだ。
どの絵も幻想的でロマンティックなようでいて、不気味さもある。作家の心象風景を見ているようでいて、気がつくと自分の心を覗いている心持ちになる。懐かしいような、こんな感覚を昔味わったことがある気持ちにさせられるのだ。
具象なのに内側をのぞき込むような絵。見ていると静かに自分の内面へと誘われていく。
第2章 海辺で 2002~
ドイグは父親の転勤で3歳の時から4年間、トリニダードトバコに住んでいる。イギリスで画家として有名になった彼は環境を変えたいと思い、かつて住んでいたトリニダードトバゴに移住する。
色彩が明るくなり、矩形などを取り入れて抽象的な表現に少し移っていく。絵の具の塗り方もそれまでと違い、薄くなっている。
その中で印象的な絵はこれだった。
↑ポート・オブ・スペインの雨 2015
圧倒的な黄色い壁、消されかけた人物像。この写真では見えないと思うのだが、鉄格子の影の中に横顔のシルエットがある。植民地時代に作られた監獄だという。これは背景を知らないとモチーフに近づけない。だがこの力強さと色彩、迫ってくるものをまっすぐ感じたい。
第3章 スタジオの中でーコミュニティーとしてのスタジオフィルムクラブ 2003年~
ドイグが友人のアーティストと始めたフィルム・クラブ。誰でも無料で参加可能。
ここにさっと書かれた上映作品のポスタードローイングが実に楽しい。
知っている映画が必ずある。「このシーンを描いたのか」「こういう印象だったのか」と。
たとえば左から2点目は小津安二郎の「東京物語」。
左側は黒澤明の「羅生門」。
現代最高の画家、と言われるがかしこまらずに見に行ってほしい。幅広く楽しめて、自分の感覚が広がる。
国立近代美術館(北の丸公園内) 10月11日まで。予約制
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