「いい加減にしなさい!」と叱るのをやめたとき
「いい加減にしなさい!」といったのは、4歳の息子だ。
両手をギュッとこぶしに握って、全身で怒っていた。
4歳くらいだったか。
幼い息子が、唇にも目にもグ~ッと力を入れてにらんだ姿を忘れられない。
まだちょっとたどたどしい発音で、がんばっていっていた。
息子が怒った原因はおぼえていない。
私が小さな約束を忘れたか、話を聞かなかったのか。
とにかく真剣に、私に向けて怒っていた。
その時の言葉だ。
「いい加減にしなさい!」
その時に感じたのはふたつ。
ひとつは、この言葉をずっといいたかったのに違いないということ。
もうひとつは、この言葉に何の意味もないこと。
この言葉で叱られて、どうしていいかわからない息子は頭の中に畳み込んでいたのだろう。
いつかいってやる、と思ったのか。
急にひょいっと出てきたのか。
わからないけれど。
子どもを叱るのって難しい。
だいたい自分が怒っているから、なかなか冷静に叱れない。
子どもが小さい時の方が、体も心も余裕がない。
そしてわけのわからないいたずらや、危険なこともする時期だ。
手は出さない、と決めていた。
でも2本指でビシッと足をたたいたことがあるのを、告白しておく。
両腕をつかんで正面から見る、言い聞かせる。なるべく冷静に、と思えるのはどこか落ち着いている時だ。
カーッと来たときは、親自身も歯止めがきかないときがある。
どなる。大きな声で。
「いい加減にしなさい!」と何度かいっただろう。
息子にいわれて気がついた。
「いい加減にする」ってどうすればいいの?
どうしようも、ない。
きっと小さな頭と体で、「え?ぼく、どうしたらいいの? いいかげんってなあに?」と悩んだに違いない。
何度かいわれて「わかんないよ、もう!」と怒ったのだろう。
いわれるのはいやだから、お母さんにいってやるんだ!
お母さんはいわれたら、どうするの?
確かに、何も、しようがない。
日常的にも使うけれど、もともとは「ほどよい」という意味だったのが、だんだんと変わり、ちゃんとしていない、とか、かなり、という意味合いになった。
「いい加減にしなさい」って、「やめなさい」っていうような意味でいっているんだろうな。考えると。
じゃあ「やめなさい」といえばいいのに、強くいいたくて「いい加減にして!」となる。
でもこれ、いわれたら困る。
どうしたらいいのか、わからない。
悪かったなあ、と反省した。
それ以来、「いい加減にしなさい!」と叱った記憶はない。
もしかしたら、いっているかもしれない。
あまり自信はないけれど、いわないようにした。
なるべく意味のない言葉で叱らないことを心がけた。
「もうお母さんは知らない」とか。
「おいていくよ」とか。
そういうことはいわない。
意味のない言葉や、いってもできない言葉で叱らない。
別にそれで息子が変わったわけではないけれど。
私の中の何かは変わった。
意味のある言葉で伝えよう、と。
子どもはちゃんと覚えていて、理不尽な怒りをため込んでいることがあるんだ。
その原因は、自分の言葉にもある。
そんなことを教えてもらった。
言葉をひとつ、意識するきっかけになった。
今、「いい加減にして~」というのは、自分自身にぼやく時だ。
「なんでこんなに急に仕事が来るの~」とか「うわあ、聞いてないよ」とか積みあがった洗濯物とか。
人には、いわない。
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