熱量のある人たちと組んで世界を変えていきたい。株式会社ユカシカド代表取締役兼CEO 美濃部慎也氏インタビュー
Introduction
ヘルスケアのテクノロジーが発展する現代。ウェアラブルデバイス等により多くのソリューションが実現した。しかしながら、健康の三原則である「運動・栄養・休養」のうち、唯一栄養については手軽に定量的に把握する適切な手段がなかった。美濃部氏が2013年に立ち上げたユカシカドは、世界で初めて尿サンプルを使用して栄養バランスの評価を可能にし、人々が人生100年時代を健康に楽しむための栄養バランス改善までをトータルサポートする。創業から今に至るその思いとは。
起業の原点はおじいちゃんとアメリカンフットボール
ーー途上国の子供たちの生活環境を目の当たりにして起業に至ったとのことですが、その背景についてもう少し教えて頂けますか?
原点を振り返ると、おじいちゃんとアメリカンフットボールから受けた影響が大きいと思っています。僕の祖父は神風特攻隊の隊員だったんですね、17歳で死を覚悟していた。終戦があと数日遅かったら、零戦で特攻して亡くなっていたかもしれないし、僕もこの世に生まれていなかったかもしれないですよね。祖父はその後、曽祖父の後を継いで今では丸の内に本社を構える会社を経営していたのですが、そんな祖父の話を小さい頃から聞いていて死生論を意識する様になりました。「なんで生まれてきたのか」「生まれたからには何を果たすべきなのか」といったことをずっと考えていましたね。「自分は将来何かを成すのだ」というマインドはこの頃に培われたのだと思います。
そして、小学校の頃に母親に連れられて見に行ったアメフトの試合を見てピンと来ました、これだと。日本一強い関西学院大学のアメフト部に入って甲子園の芝生の上に立つんだ、とその時決めました。
ーーそんな幼い頃から。すごいですね…!
で、いざ夢を成し遂げて気づいたのが、関学のアメフト部って圧倒的に環境が整ってるんです。僕は高校でもアメフトをやっていたんですが、弱小だったんですよ。この差は何かな、と考えてみると、やはり「ヒト・モノ・カネ・情報」を含めた環境が与える影響なんですよね。環境をしっかり整備すれば、人は成功出来るしハッピーになれるんだなと気づいたんです。そして、人にとっての根源的な環境って衣・食・住・娯楽だよねと思っていました。
そんな問題意識を持っていたところ、当時の恩師からフィリピンを見に行く様勧められました。フェアトレードとかが流行り始めていた頃です。実際フィリピンに行って見てみると案外みんな住むところもあるし、意外に食ベるものもあるんです。ただ、食事の内容が悪くて、その時に「栄養の可視化」が重要だなと気づいたんです。それが今の事業を立ち上げるきっかけです。
ーーその気づきを元に自分で起業しようと思ったきっかけは何ですか?
やはり祖父の影響ですね。「自分は何かをするんだ」という考えをずっと持っていましたから。起業なんて思い切ったねと言われることもよくありますが、僕の中では全部計画していたことです。「リクルートで何年働いて、こういう力を身につけて起業しよう」と当初から思っていましたから。突拍子もない様に見えるかもしれませんが、自分自身としてはそんなことはないんです。
熱量のある人たちと繋がって仕事をしたい
ーーすごい熱量とスピード感を持ってスケールしていらっしゃる、その熱さの源は何なんでしょうか?
スピード感は常に意識しています。これは、僕たちの事業展開が速いほど途上国の子供達を救うことに繋がるので、スピードを求めるという面が強いです。また、熱量という点では、やはり本気で「やらなければならない」と思っている人々と働かないと物事が動かないんですよね。業界とか関係なく、熱量がある人が手を組んで働かないと意味がない。なのでEXPOで最も伝えたいのは「担当者の熱量がある会社と組みたい、逆にそうじゃない人とはやりたくないです」ということです。その意味でPlug and Playは癒しですね(笑)熱量のある人同士で事業を進めていくのを支援してくれる環境には感謝しています。
ーーありがとうございます。マッチング希望に業界等を挙げる方は多いですが、熱量を求めると仰ったのは私の知る限り美濃部さんが初めてです(笑)
そうなんですか?(笑)もちろん方向性、向いてる角度という意味では「この業界がいいな」とか無くはないですが、結局は角度×熱量なので、熱量のある人じゃないとな思います。大企業だと若い人は熱量があっても、裁量がないので社内稟議などで消耗してしまっているのが可哀想だなと思っています。イケてるおじさん・おばさんがたくさんいるといいですよね、熱量があると外に飛び出して自分でやってしまいそうな気もしますが(笑)
途上国でも通じるビジネスモデルを日本で確立し、数年以内に海外展開
ーー将来的に途上国、海外への展開もお考えかと思いますが、今後のビジョンはいかがですか?
これは少し難しいところもあって。「何でまだ海外展開してないんですか?」と言われることもよくあるんですが、今の段階で海外展開をサポートしてくれるアクセラレーションプログラムや資金がほとんどないんですよね。「PMF(プロダクト・マーケット・フィット)まだ出来てない」ということでVCからお金が出づらいので、まずは自分が一番やりやすい日本市場でしっかりこの辺りを固めてからと思っています。
ただ、これは私達にとっては最短距離だと思っていて、途上国でも通じるビジネスモデルを元に数年以内には海外に大きく展開していこうと思っています。
”恩返しの連鎖” - 日本のスタートアップシーンを盛り上げるために
ーー起業されて、チャレンジングだったこと/想定外だったことがあれば教えてください。
今年で8期目になるんですが、『Hard Things』っていう本あるじゃないですか、実際はあれの3倍ハードですね(笑)
やっぱり、ヒト・モノ・カネは本当にハードだと思います。特に資金調達は近年環境が良くなっていると言われていますが、やっぱり中国・アメリカに比べると全然まだまだですよね。当社は海外市場を見据えていますが、当然競合相手は中国・アメリカからも出てくる可能性がある訳で、日本という環境から海外市場にアプローチしていくという事実に緊張感は持っています。
びっくりしたこともあります。検査系のスタートアップがどんどん出てくる様になったなと。「ユカシカドさんみたいになりたい」と言って頑張っている会社さんがいくつも出てきて、私たちが開拓者として道を切り拓いた結果、その道を追いかけてくる人がいるというのは嬉しい驚きでした。
ーー資金調達環境についてもう少しお話いただけますか?
日本は資金調達環境が良くなっていると言われていますけど、実際には企業間の格差が大きく広がっていくと思っています。VCのリテラシーが上がってきているので、従来は「面白そう」と思ったら投資できていたのが、今後はPMF等の要件をしっかり満たしていかないと出資してもらえなくなるのではないかという印象です。VCも当然勝てる案件にベットしたいので、気合だけの若い子と連続起業家だったら後者に投資したいですよね。若い子の方が大きくリスク取れるはずなので前者も応援したいのですが、そのバランスは難しいなと思います。日本社会の失敗に厳しい風潮も少し影響している気がします。
ーーそんな中でも、ユカシカドさんを見て勇気づけられるスタートアップは多いと思います。
もう一つ問題意識を持っているのは、大企業に事業経験者が少ないことですね。VCの方々にはご自身が経験されているケースも多いですが、大企業だとなかなかいない。大企業側にとっては些細なことでもスタートアップには致命的だったりするので、例えば大企業が納期や約束事を守らなかったりすると、大問題だと思います。提携する大企業側の担当者の方にご経験があれば非常に親身になってくれるのですが。
ーースタートアップの方々からは、大手企業のスピード感に不満の声が上がることも多いですね。
そうですね。とはいえ、トヨタ、パナソニックなどのレガシーな企業のおかげで今のスタートアップ環境が日本にあるので、そこをもっと上手く活用していければいいのになと思いますね。日本はそれだけ凄かったはずなので。
ーー島津製作所さんや京セラさんの歴史を見てみても、元々は皆スタートアップですものね。
その創業期のスタートアップ魂を持った方々とお話してみたいですよね。多分もう役員とかになられて、普段はあまり出てらっしゃらないと思うんですけど。その役員さんと若手の次世代幹部候補の方々でチームアップして頂けば、「よし、一緒にやろう!」ってなると思うんです。恩返しじゃないですけど、創業初期には必ずサポートしてくれた人々がいたはずなので、そういう世代間の”恩返しの連鎖”が出来るとすごくいいなと思います。僕らも大きくなったら必ずやります!
(聞き手:Chiyo 構成:Kan Yanazawa)
ユカシカド
設立:2013年
代表取締役兼CEO:美濃部慎也
https://www.yukashikado.co.jp/