仕立て衿(美容衿・付け衿)考


和裁士、着付師として着物に関する仕事をしていると、時に不要になった着物や、それに付随する小物をいただく機会があります。
以前、「仕立て衿」「美容衿」「付け衿」(他にもメーカーにより別の呼び方があるかと思います)というものをいただきました。
その一つがこちらです。↓

呉服店で着物(反物)を試着(着装)する時に 襦袢を着たように見せるために、このような衿をまず身体に装着されるので、見たことあるという方もいらっしゃることでしょう。これに※衣紋抜きが付いたタイプも販売されています。使い方としては、お手持ちの襦袢の衿に被せて使う、あるいは襦袢を着ず、下着の上にこの衿だけをくくり付け、その上に着物を着るのです。メーカーによっては、この衿と組み合わせて使う和装スリップも販売されています。
(襦袢は様々なアイデアが施され商品化されています。)
※ 女性が着物を着た時、衿を後ろへ抜くために付けられた細長い布のこと。


さて、こちら↓は私の感想です。
この仕立て衿は、質感がしっかりとしていて衿芯を入れる必要がないものもあります。そのようなものを使う場合、手持ちの襦袢の衿に被せて使うと衿の部分が微妙に厚くなります。首の短い私がこれを着ると首がなくなる気がして、うーん🧐という感じです。簡易的で、気軽に洗濯ができたとしても、この厚くなった衿の襦袢を着るくらいなら、私は手持ちの襦袢の半衿を普通に取り替えて使おうと思いました。

また以前 着付けの生徒さんから「どうしても着物の衿と襦袢の衿が離れてしまう」との相談を受けました。そこで、何故そうなるのか、いつも使っている着物と襦袢を私の目の前で着てもらいました。その時に生徒さんが使っていたのがこの仕立て衿です。その時 気付いたことがあります。それは普通の長襦袢と違い、ボディの布部分と衿が繋がっていないせいで 着ている最中から首周りの衿が動いてしまうのです。私も実際に同じように使ってみましたが、着て動いているうちに着物の衿と襦袢の衿の間に隙間ができました。この衿をズレないようにするには、 着物の内側(お尻の下)から手を入れて腰の下まである衣紋抜きをひたすら下に引っ張ることと、紐や伊達締めを使ってズレる範囲を減らすことで防ぐしかありません。しかし紐や伊達締めはお腹周りに巻くもので、巻き方によっては苦しさを伴いやすく、結局 のところ首周りは不安定なのです。販売側がわかりやすくレクチャーしたところで、着付けを始めて間もない人がこれを使って綺麗に自装するのは、普通の襦袢を使うよりも逆に難易度が高いのでは?と感じました。
※商品の中には、ズレ防止のために腰に巻くゴムバンドがついていたり、本来ならば下着の外側に出ている衣紋抜きを肌じゅばんの 中に入れ込むようにと勧めていたりするものもあります。これは衿を安定させるためのアイデアなのでしょう。

さてこの譲り受けた仕立て衿ですが、デメリットをメリットに変えるため、私はこのようにしました。
↓仕立て衿を直接着物の衿に縫い付けるのです。

どのあたりをどれくらいの範囲で縫い付けるとよいか?私なりに工夫してみました。

赤い縦線が背中心です。手のひらが置いてある場所が衿です。

↑仕立て衿を着物の衿の背中心から左右に手を当てた範囲に縫い付けるのです。縫い方は、表に縫い目を出さない「くける」という方法です。見えない部分なので糸目が揃わずとも大丈夫です。

☝️それから さらに工夫をもう一つ。
自分の首回りにちょうどよい衿の重なり位置を見つけて内側にホックをつけました。(マジックテープでもよいと思います)着る時にホックを留めることで それ以上 衿が開きません。

素材的にしっかりしたものは衿芯がいらないと思います。こちらの衿は柔らかめなので衿芯を入れ、衿芯が飛び出ないように糸で留めました。

この衿の使い方は、夏着物に都合が良いと思います。最近の猛暑ではいくら夏仕様の着物といっても、着て出かける場所によっては暑くて辛いものです。どこで身体の温度調整をするかというと、着物の中の部分なのです。襦袢の生地がないだけで身体への負担が少なくなります。しかし仕立て衿を付けたので まるで襦袢を着ているように見えます。
ただしこれを施した夏着物で注意点が一つ。それは襦袢を着ていないので、※ 居敷当(いしきあて)が付けられていない着物は特に身につけている下着(ショーツなど)が透けないように、またショーツの線が外側に響かないように気をつけるということです。
この仕様で先日出かけましたが、衿周りが帰宅するまで崩れませんでした。ただ仕立て衿を身体に巻きつけた状態で着崩れてしまうよりも、少しの工夫を施すことで快適に過ごすことができるのです。

暑い暑いと過ごしているうちに あっという間に夏の終わりがやってきます。この時期の快適な着心地と美しい着姿を実現するために、この方法も一つの手であるということで、ご紹介させていただきました。

※居敷当(いしきあて)は、着物の後ろの下半身部分に付ける当て布。薄手の着物のお尻の部分の背縫いが裂けるのを防いだり、下着の透けや表にひびくのを軽減してくれます。私が和裁の修行中や、20年ほど前までは長襦袢につけることが多く、絽の着物は背縫いの縫い代を覆う背伏せ(せぶせ)だけをすることが多かったです。時代の流れとともに次第に着物にも居敷当を付けることが多くなり、現在では単衣や夏着物にはほぼ付けていると思います。(私の住む地域でのことで、他の地域はわかりませんが)



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