2024年8月の記事一覧
[ショートショート] 永久迷宮:ひと夏の人間離れ
夏休み…。
と言っても夏期講習の毎日だ。
その日、教室には女の子が一人だけ来ていた。
見たことがない子だった。電気も点けずに薄暗い教室に立っている。
その子のワンピースの袖から伸びている腕がやけに青白くて、そして異常に長いことに気がついてしまった。
片方の腕だけが床につきそうなくらい長い。
気がつかないふりをして教室に入るべきか迷っていると、女の子が急にこちらに向かって突進してきた。
と
[ショートショート] 夏の残り火:0.001%
操縦席の前方に座っているスバルの首筋に汗が光っているのをさっきからずっと見ている。
彼は生存を諦めていない。
だが俺たちはここで死ぬのだ。
開拓用装甲車のキャタピラがガヌルの死骸をいくつも踏みつぶして嫌な音を立てている。
殺しても殺しても奴らは不気味な歯をガチガチいわせて襲ってくる。
異常事態である。
…スバルよ…、俺はもう覚悟はできているぞ。
この灼熱ガヌル地獄が俺たち
[ショートショート] 綾子と虎丸:1秒の恋
「姫さま〜!姫さま〜」
家臣たちが右往左往しているのを綾子は木の上から眺めていた。
…誰も私がこんなところにいるとは思うまい。
あんな重たい着物を着て婿面談だなんて綾子は真っ平ごめんだった。
まだまだ自由でいたい。婿くらい自分の間合いで決めたいのだ。
木の上からバタバタ走る者どもを見ていると、どうやら隠密集も動員されたようだ。無能な若衆たちに見た顔が混ざっていた。
(虎丸か…)